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13:決闘

「シャーロットちゃんのこと、僕が同伴したかったなぁ~」


「デューク、何をふざけたことを言っているのですか。君の同伴を巡って、女子20名による決闘があったことを忘れたのですか!」


グレアムが珍しく、冷たい内容を冷たく一喝し、デュークを撃沈させていた。


夕食会の席では。

二日後に迫った祝賀パーティーの話題で持ちきりだった。私がローレンス皇太子に同伴されることは、既にみんな知っていた。デュークは私を同伴したいと嘆き、レイモンドは……。


「俺はシャーロットがどんなドレスか楽しみだなぁ。もう屋敷に届いているんだろう? なあ、明日、見に行ってもいいか? 試着するよな?」


「レイモンド」


ローレンス皇太子がヒラメのムニエルを優雅に口へ運びながら、自身の護衛騎士の名を呼んだ。


「祝賀パーティーに同伴する女子のドレスを、事前に見てはならないというジンクスを知らないのか?」


「えっ、そうなのか!?」


「祝賀パーティーの当日より前に、同伴する女子のドレス姿を見たり、同伴しない女子であってもそのドレス姿を見ると……不幸になる」


グレアム、デューク、そして私でさえ。

それはローレンス皇太子が真顔で言っている冗談だと気づいている。

だって、そのジンクスは。

祝賀パーティーではなく、結婚式で言われていることだから。


新婦のウェディングドレス姿を式当日前に見てしまうと、二人は不幸になる……このジンクスは前前世ではファーストルックと言われる欧米の習慣として知られ、そしてこの乙女ゲーム『ハピラブ』の世界にも存在する考え方だった。


何せ『ハピラブ』の世界観は中世西洋風。そしてファーストルックの習慣は、自由恋愛ではなく、親同士の思惑、政治的理由、金銭的理由で結婚相手が決められていた西洋で生まれたもの。


事前にお互いの姿を見て逃げ出さないよう、無事結婚まで持ち込むために誕生した習慣と言われている。そして今、私がいるこの世界は、その意味合いでのファーストルックの習慣が存在していた。


前前世では、ファーストルックが結婚式を盛り上がるイベントして取り入れられているが、この世界ではそんなロマンチックな意味合いはない。そしてこのファーストルックについてレイモンドが知らないのは……。戦闘民族と知られる、異国の民族の末裔だからだ。


ということですっかり騙されたレイモンドは、私のドレスを見たいと大騒ぎするのを止めた。同時にデュークも、私を同伴したかった云々を言わなくなった。


そこで私は、みんなが誰を同伴するのか聞いてみた。


「あ、俺は同僚の騎士を同伴する。ローレンス皇太子の妹の護衛騎士に、俺より2歳下がいるんだ。俺と同郷だし。気兼ねなく頼めた」


そう答えたのはレイモンド。昨年の祝賀パーティーが開催されていた時に、来年は自分だと気づいたレイモンドがその同僚に頼み、引き受けてもらえたのだという。


「私は妹です。3歳下なので、シャーロットと同い年。でも留学しているから、シャーロットの通う学校には在籍していません。だからシャーロットは知らないでしょう。今回、祝賀パーティーに合わせ、帰国してもらうことになっています」


グレアムに妹がいたのか……。それは確かに知らなかった。乙女ゲーム『ハピラブ』にも一度も登場していないと思う。


「僕はアザミ嬢を同伴するよ。僕より5歳上だけど。決闘の勝者だからね。正直、僕に選択権はなかった。『勝者を同伴する、それでいいわよね』と令嬢たちに詰め寄られたわけで」


デュークはおどけた表情でそう言うが。決闘なんて穏やかな話ではない。


「シャーロットちゃん。決闘と言っても本気の殺し合いとかしたわけではないからね」


「そうなのですか?」


「ドレスの早着替え競争をしたんだよ。いずれかの令嬢の屋敷のホールに集合して。20人で一斉にね。ちゃんと判定のための立会人もいて、簡素過ぎるドレスで早く着替えてもそれは失格とか、なんだか細かいルールもあったらしく。ともかくどんぐりの背比べで、一回戦では半分に減り、二回戦で三人まで減り、最終的にアザミ嬢が一位で着替えに成功したとか」


この世界では。女性同士の決闘というのはリアルに存在していた。男性の愛を巡る決闘が多いらしいが、ドレスのデザインで対立して決闘になることもあるという。その場合は剣やナイフを使うと聞いていたが、早着替え。牧歌的だ。


「しっかし、ホント、モテるよな、デュークは。恋人をちゃんと決めれば、そんな決闘も起こらないんじゃないか?」


するとデュークがチラッと私を見る。

なぜそこで私を見る!と思ったら。


その場にいた全員が私の代わり(?)にデュークを一斉に睨んでくれた。デュークは「降参です」とばかりに両手を挙げる。


「まあ、僕は自由人だからね。それに恋人は作ろうと思ってできるものではないだろう。気づいたら恋に落ちていた。その想いが実れば恋人ができる。実らなければそれまでだ」


デュークの15歳とは思えない恋愛論に、私は心の中で「なるほど」と思ってしまう。恋は気づいたら落ちているものなのか……。三度目の喪女人生を回避したい私は、今の言葉を脳内にメモした。


そんなことを話しているうちに夕食は終わり、お開きとなった。


いつもならここで父親が迎えに来ているのだが。


「馬車の到着が遅れたと連絡が来ている。シャーロット、エントランスまでわたしが送るよ」


ローレンス皇太子が私をエスコートして歩き出した。

少し距離を置いて、彼を護衛するレイモンドと警備の騎士が後をついてきている。宮殿の広い回廊をゆっくり歩き始めてすぐに思い出す。


ドレスの御礼、しっかり伝えるようにと言われていたのに。

決闘とか余計な話をしてしまい、ちゃんと伝えていなかった!


「ローレンス皇太子さま、今日、いただいたシルクとレースで仕立てたドレスが届きました。試着しましたが、とっても素敵な出来栄えで……。私のためにいろいろ用意くださり、ありがとうございます」


「そうか。無事、間に合ったのだね。きっととても素敵なのだろうね。祝賀パーティーでそのドレスを着たシャーロットを見られることが楽しみだよ」


少し頬を赤く染め、ローレンス皇太子が微笑んだ。

期待されている……と、一目で分かった。


「イヤリングも……今回、初めてつけました。ペンダントとお揃いでキラキラして。とっても素敵でした」


「そうだったのか。初めてだったとは……。ごめん。それは知らなかった。……シャーロット、耳朶は痛くないかい? イヤリングは金具で耳朶を挟むのだろう?」


ローレンス皇太子が心配そうに私の耳を見た。

そんな気遣いまでできるなんて。恐るべし15歳。


「大丈夫です。ちゃんと調整できるものでしたから。イヤリングをつけると、なんだか大人に近づいた気がします」


「でも無理はしないで。もし少しでも痛むなら、外してもらって構わないから」


「分かりました」


私の返事に微笑んだローレンス皇太子は、まっすぐに伸びる廊下の先を見つめ、美しい碧眼の目を細める。


「シャーロットもあと3年後に社交界デビューだね。……3年後のシャーロットは……きっと今以上に愛らしくなるのだろうね」


3年後……。

その頃にはヒロインの相手も決まっているはずだ。ヒロインは一体誰を選ぶのだろう? 前世同様のデュークなのか。それとも……。


「3年後のシャーロットの社交界デビューのエスコートは、勿論、わたしだよね」


「え」


まさか、それ、もう父親と約束しています?

私は青ざめ、ローレンス皇太子はそんな私を見て、楽しそうにクスクスと笑っていた。

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