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12:落ちたのは蟻地獄?

「シャーロット、仕立てたドレスが届いたよ。ベッキーに着せてもらおう。着替えが終わったら、父さんと母さんのことを呼ぶんだぞ」


ニコニコ笑顔の父親が、バトラーに巨大な箱を持たせ、部屋にやってきた。そこには宮殿で開催される、15歳になった皇族や貴族の男子のための祝賀パーティーの時に着るオーダーメイドドレスが、入っている。


そう。

あのローレンス皇太子、護衛騎士のレイモンド、宰相の息子のグレアム、公爵家の次男デュークの4人一緒の誕生日パーティーに招かれた日。


私はうっかり誕生日プレゼントを各自に手渡すことを思いつき、とんでもない墓穴を掘ることになった。レイモンドやグレアムは……特に問題ない。デュークの香水はレイモンドの言うところの鬼に金棒だったし、ローレンス皇太子に至っては……。


訳の分からない約束をさせられた。


彼が皇帝になるのを遠くではなく、近くで見守るという話だったはずが、ローレンス皇太子のそばに、ずっと(!?)永遠(!?)にいるという約束を、気づけば結ばされていたのだ。


さらに。


15歳になった皇族や貴族の男子のための祝賀パーティーに参加するローレンス皇太子が同伴する女子に、私が指名されてしまったのだ。しかもそれは既に父親に話を通しており、私にノーの選択肢はなかった。例え父親から先に聞いたとしても。「ノー」は無理だ。よっぽどの理由がないと。だからこれは……もう不可抗力だったと思うのだけど……。


でもそもそもとして、どうしてこうなったのか?

私は悪役令嬢のお役目御免で、今生では恋愛を謳歌できるはずだった。それなのになぜ、こんなに攻略対象と絡みまくっているのだ? 私の知る乙女ゲーム『ハピラブ』にはない展開だ。


こうなったきっかけ。

それは……。


湖で溺死しそうになったところを助けられたのがきっかけだった。その後、お茶会に誘われ、それがなんだかスポーツのお誘いになり、季節が代わり室内遊戯となり、街の散策にも行くことになり……。カラスに襲われる猫を助け、それはローレンス皇太子の飼い猫となり、猫に会うため宮殿へ足を運ぶことになった。さらに絶品料理で餌付けされてしまい、誕生日パーティーがあって……。


湖に私は落ちたはずだった。


でも実際は蟻地獄ならぬ、攻略対象地獄に落ちたのではないか? 必死に逃れようとするが、簡単に絡めとられる……。そんな気がしてならない。


「まあ、なんて美しいドレスなんですか、シャーロットさま! さすがですね。こんなドレス、そう簡単には作れないですよ。何せこの上質なシルクの布、そしてこのレースと繊細な刺繍。これを仕立てるには半年はかかりそうなのに。皇族御用達の仕立屋では、これを三週間で仕上げるのですから。すごいです」


そうなのだ。

祝賀パーティーのための同伴者には。半年~1年前に打診があるはずなのだ。男子にとって一生に一度の晴れ舞台であるように、そこに同伴される女子にとっても、これは気合いが入るイベント。特別なドレスを時間をかけて用意するのが普通なのだ。


いくら皇族御用達の仕立屋であっても、このクオリティのドレスを三週間で作れるはずがない。そうなると……。ローレンス皇太子は私を同伴することを父親に話していたというが……。それは最近ではない。


恐らく、溺死寸前から救出され、お茶会に誘われるようになった頃には、既にローレンス皇太子は私の父親に、この同伴について打診していたはずだ。そして水面下で、ドレスのための上質なシルクの布やレースの調達がすすめられ、それが揃うとドレスが作りが行われていたとしか思えない。


つまり既にドレスは完成していた。でも急遽作りました、ということにして今日届けられたと思うのだ。


前世の記憶がある私はお見通しなのだが。如何せん今は12歳。父親は子供の私ではそんな調達や仕立ての事情を分からないと思っている。


だから。


ドレスに使われた上質なシルクの布やレースも、今回私の同伴が決まった際、ローレンス皇太子より両親に届けられたことになっている。布もレースも、そのクオリティを見る限り、そう簡単に手に入るものとは思えない。これを手に入れるだけでも半年はかかりそうな気がした。


だが届けられた布とレースを、ローレンス皇太子付きのバトラーから指定された皇室御用達の仕立屋に持ち込み、速攻でドレスに仕立ててもらったと父親は私に話していたのだ。


あくまで祝賀パーティーへの私の同伴は、最近決まったと父親は私に信じさせようとしている。だが間違いない。お茶会も何もかもが、ローレンス皇太子と父親により仕組まれていたのだと思う。


ローレンス皇太子には婚約者がいない。それは彼が乙女ゲーム『ハピラブ』のヒロインにとっての攻略対象だからなのだが。そして通っている中等部は男子校。友人は確かに男子ばかり。姉妹はそれぞれの理由で同伴は難しい。


そこで偶然知り合った私に目をつけたのではないか。私は公爵家の令嬢だし、年齢的にも3歳の年の差。身元も問題ないし、同伴するには丁度いいと思ったのではないか。


ただ、いきなり祝賀パーティーの同伴者に指名だといろいろと噂になる。そこで溺死寸前の私を助けたことで、他の男子学友と共に遊ぶようになった。今ではすっかりいい友人になっている。だから私のことを同伴したとなれば――恋人か、婚約者かと変な噂にもならないだろう。


つまり。


お茶会以降のあれこれやは全部、仕組まれていたのではないか? さすがに子猫とカラスの件は違うと思うけど。


もしここまでのことが仕組まれたことならば……。そう簡単には逃げられない。


そして彼らがドゥニエ高等学園に入学し、私は中等部に入り、高校生と中学生は遊ばないよね、ということでそこでご縁が切れる……ということもなさそうな気がする。


今後もローレンス皇太子の女性が同伴が必要なタイミングで、私が駆り出されるのではないか?


いや、でもドゥニエ高等学園に入学すれば、ローレンス皇太子はヒロインと出会う。そうなれば私は不要になる……? いや、分からない。ヒロインが攻略対象の誰を選ぶか分からないのだから。最悪なのは、ヒロインがローレンス皇太子を選んだのに、彼がヒロインの気持ちに気付かず、相変わらず私に絡んだ状態でいることだ。


ヤバいな。そうなると私は悪役令嬢になってしまうのでは? ヒロインの恋路をわざとではないが、邪魔することになるのだから。


そうなると……。どこかのタイミングで断罪回避行動が必要なのだろうか? でもどう考えても3歳の年の差があっては、学園の卒業記念の舞踏会の場での断罪は無理だ。それにヒロインがローレンス皇太子を選んでいるのに、それに彼が気づけないのなら。私が指摘すればいいだけだ。


「シャーロットさま、ペンダントをつけますから、少し上を向いてください」


そこで悪役令嬢に関して考えることは中断される。


代わりに脳裏によぎるのは……。


誕生日プレゼントでもらったこのピンクダイヤモンドとダイヤモンドがあしらわれたこのペンダントのことだ。どう見てもこのオーダーメイドドレスにピッタリ。つまり、このドレスにあうペンダントとして、リメイクされたに違いない。


でもこれは父親には知らされていなかった。ローレンス皇太子が、ドレスにあうと思いつき、用意した可能性が高い。


「シャーロットさま、イヤリングもつけますね」


ペンダントと同じ、滴型のピンクダイヤモンドのイヤリングは、眩いほどの輝きを放っている。


今回上質なシルクの布やレースと共に、ペンダントとお揃いになるこのピンクダイヤモンドのイヤリングも、両親に届けられた。「同伴をお願いしたのはこちらなので、すべてこちらで準備させていただきます」と、ローレンス皇太子付きのバトラーが、イヤリングを届けてくれたのだ。


きっとペンダントをリメイクする時、このイヤリングも用意していたと思う。ただ、ペンダントと一緒にプレゼントすると、それはもうとんでもない額になってしまうはずだ。そうなると簡単に受け取ることはできない。だから今回のドレスに合うからと言うことで、届けさせたのだろう。


もしこれもローレンス皇太子が考え動いたことであるならば。ローレンス皇太子は相当な戦略家だと思う。


「終わりました! もう、完璧です! 旦那さまと奥さまを呼んできますね!」


ベッキーは大喜びで部屋を出て行き、私は姿見に映る自分を見る。


鮮やかなピンクからミルキーなピンクに見事にグラデーションするシルクオーガンジーで出来たドレスには、立体的に作られた白や赤やピンクの薔薇が、大小様々なサイズで飾られている。身頃は繊細な白のレース、そこにも立体的な小ぶりの薔薇が装飾されていた。


全体的にボリュームがあり、動く度にスカートの裾がふわりふわりと揺れる。


髪はハーフアップにして、当日、薔薇(生花)を飾る予定だ。


確かにベッキーが言う通り、完璧だった。


「シャーロット、なんで愛くるしいんだ! 僕の可愛い天使は麗しいのプリンセスに大変身だ!」


「まあ、シャーロット。本当に素敵よ。その愛らしさは世界一だわ」


父親も母親も私のドレス姿を見て大絶賛だ。


「シャーロット、この後、ローレンス皇太子に会ったら、ちゃんと御礼を伝えるのだよ」


そう。今日はこの後。一週間に一回、一ヶ月に四回しかない、宮殿の夕食に招待されている日だった。

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