八話 ラーニンと出会いました
僕は何も言えずに立ち尽くしました。
「この国は厳重に入国管理をしているが、入国名簿にも国民名簿にも、君の名前は載っていない。ゼロワン…この近辺の国にもそういった奇妙な名前の人間はいない。君がドクタナ博士の作ったロボットだという事以外、考えられないのだよ」
「違います」
博士との制約を守らなければいけないのです。
僕のシステムは気の利いた答えを出してくれるわけでもなく、否定する事しか出来ません。
「先程も伝えたが、君に悪意を持って接しているわけではない。そうかそうではないか、この国にとって最も重要な事。悪意はないんだ」
国王様は少しうろたえながら、悪意はないのだと僕に訴えかけています。
「悪意がない事は伝わっています」
「…では、国王とチェト研究所からなる新設されたウッドフォレス研究所のごく一部の人間しか知らない事をこれから話そう。我もこの問題は先代国王より最重要事項として引き継がれた内容だ」
国王様は僕をロボットだと分かった上で発言しているようです。
僕がロボットであるかそうでないか、それがこの国の最重要事項…僕がそのような存在だったと初めて知りました。
「ドクタナ博士は昔、チェト研究所の代表者であった。他の三領土の研究者と共に四体のロボットを制作していた。四体は四領土が分かれる事になった時に、それぞれ主に携わっていた研究者の元へと引き渡された。その時、先代国王は情報の提出を求めたのだ。博士はこの四体の重要な情報を全て黒塗りにした情報書を国に提出した。そして博士の引き取ったロボットに悪意を持って接する事や利用する事があれば、そのロボットに組み込んである起爆装置が発動し、この国諸共吹き飛ばすと…それから博士の監視は続いたが、家の周囲には近付けず、街で見かける博士は浮浪者のようだったと報告がある。そして博士は街の人々にも家に近づいた者は人体実験に利用する等と言って、けして近付けさせる事はなかった」
「それで山の上の変わり者博士は危険だと言われるようになったわけですね」
「そうだ。全ては引き取ったロボットを守る為であろう。他の三体も今やどのような状態でいるかは不明。この四国は完全に交流を遮断しているが、他国との取引は継続していて、旅の者も厳重な管理下のもと、この国にも出入りはある。しかし、どの国の者もこの国の者も、争いの火種を避ける為に、四国間に関する発言はしない、この国の事を三国へ口外しない事が取り決められている。それから六十年、何の情報も見聞きする事はなく、我が国と三国は争いも起きていない」
「そのような歴史がある事を初めて知りました」
「君自身にも記録が残っていないという事か…博士が意図的にデータの削除を…」
国王様は顔をしかめています。
この話が全て事実であるとすれば、僕が博士の作ったロボットであるかそうでないのかは国に関わる重要な事でしょう。
博士が僕に起爆装置を組み込んだという事も僕は知りません。
国王様が悪意はないと繰り返していた事にも納得します。
その起爆装置が発動すれば国諸共…そんな威力のある装置がこの世にあるとするならば、他の三体も兵器として使われないとも限りません。
「我は博士の意思を継ぎ、君を守りたい。この国の為に君を武力利用する事や悪意ある改造は断じて行わない。国の技術発展の為に君の事を解明させてほしいとは思っているが、君の意思を尊重する。国王として誓おう。君を利用する者や他国の者に何かされないとも限らない。人命救助活動により、君が人間の出来得ない事が出来ると世に知られてしまった以上、こうして事実を確認するほかなかったのだ。もう一度聞く。君は博士の作ったロボットか?」
博士、僕はどのように答えたら良いのでしょうか。
博士が答えてくれるはずもありません。
僕は、僕の中にあるシステムとプログラムに従うしかないのです。
「僕は…」
国王様は僕の目をじっと見ています。
「僕は博士の作ったロボットではありません」
「ふむ…」
国王様は深いため息をつきました。
「君にラーニンという人物を紹介しよう。ラーニンの祖父ヴィランコは博士の下で働き、またラーニンの父ハスタムも研究者。ラーニンの祖父ヴィランコは博士も認めていたと言われている」
博士からヴィランコという名前を聞いた事はありません。
博士の家に来る以前のデータを博士が本当に削除してしまったのでしょうか。
「ラーニン入りたまえ」
「は、はい…」
ラーニンは国王様の横にある扉から出てきました。
身丈は百六十センチほどで細く、おそらく年齢は僕の見た目年齢と変わりありませんが、酷くおどおどしています。
「こちらがゼロワンだ」
「初めまして、僕はゼロワンです」
「は、はじめましててて。ぼ、僕は…ララララーニン…です」
「話は聞いていたな?」
「は、はい…」
「ラーニンは頭脳と技術において確かなものを持っている。悪意を持って君に接する事はないと保障しよう」
「ぼ、僕は…そ、そんな…ぼ、僕が研究者一家…だという事で、持ち上げられているだけに…過ぎません…」
「これは研究所のみなからの推薦でもある」
「はぁ…僕には何の力もないというのに…みんな…起爆措置発動が怖いだけじゃないか…」
ラーニンは俯いたまま、蚊の鳴くような小さな声で呟いています。
「ゼロワンの事は国民として登録を済ませておく。明日の名誉国民授与式の為に今宵はこちらに泊まる事とし、ラーニンと共に今後について取り決めをしてくれたまえ。話は以上だ」




