六話 宮殿へ参ります
「この度は勇敢な行動、人命救助まことにありがとうございました。国王より、名誉国民として勲章を授与したく参りました」
「名誉国民ですか?」
「はい。あなた様のお友達より、たくさんのご署名を頂きまして、助けられたご夫婦や猫の飼い主様のご希望により、国王もこのような機会を設けたいと申しております」
アイヴァンのいい案とは署名の事だったのでしょうか。
しかし、消火隊がすぐに訪ねてこなかった理由は分かりません。
「それと…消火隊から国王へ報告も受けております。その件につきましても、国王より内密なお話があると伺っております」
「内密なお話ですか?」
「はい。しかし、私達にも明かされておりませんので、国王の元へ足をお運びいただきたいのです」
僕は宮殿専用の馬車に乗せられ、男性二人と共に宮殿へ向かいました。
紋章を確認した瞬間に警告が作動して、二人の顔を記録することが出来なかったのですが、こうして馬車の中で合い向かいに座ってお顔を見ると、部分の相違が僅かにあるものの、二人はほとんど同じ顔をしていました。
「申し遅れました。私、国王に仕えますマヨルと申します」
「私は同じく、国王に仕えますメノルと申します」
「マヨルとメノルですね」
「双子ですので、名前の呼び間違えは気に致しません。お気軽にお呼びください」
いくら顔がほとんど同じ双子であっても部分の相違が僕の記録に保存されているので間違えることはありません。
「宮殿まで二時間ほどで到着致しますが、長旅ではあります。何か余興など致しましょうか?」
「初めての道も通りますので、記録します。お気遣いなさらないでください」
「承知致しました。飲み物お食事等、簡単ではございますが、ご用意がございます。何なりとお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます」
マヨルとメノルからの気遣いにより、僕がロボットだということは知られていないと判断できます。
馬車の窓から外を見ると、広場の通りまで来ていました。
街の人々はすかさず道の端に避けて、こちらに向け頭を少し下げています。
「宮殿の馬車だ!」
「誰が乗ってるんだろう?」
「国王様~」
子供達は無邪気に手を振り、大人達は横を通り抜ける馬車に深々と頭を下げました。
子供達に勉強を教えた広場を過ぎてから一時間半ほど進むと、広大なもう一つの広場が見えてきました。
家の近くにある広場の周辺で事足りてしまうので、僕はこちらの方に来た事がありません。
色とりどりの花々が咲き、颯爽と走る馬車の風で池が波間を作り、木々が揺れました。
「こちらのフォラムス広場にて明日、名誉国民の授与式を行う予定となっております」
「こちらの方には初めて来ました」
「会場の準備の為、現在は人出がありませんが普段はとても賑わっていますよ」
僕はそのような運びにしてくれたアイヴァンにお礼を言えていません。
きっと明日、ここに来てくれるでしょう。
「その時にゼロワンにはお言葉をいただくので、考えておいてくださいね」
「どのような事をお話したら良いですか?」
「そうですねぇ…今回の火事の救出のお話や、今後のお話ですとか」
「分かりました」
こういった機会は初めてです。
最近になって少し人々と交流を経験した程度の僕にそんな大舞台が務まるでしょうか。
僕には緊張というものもないのですが、どのような事を話したら良いか、まとめる事が必要です。
システムを辿りながら、また窓から外を眺めました。
フォラムス広場の周辺は大きな邸宅が多く、宮殿に続くこの辺りは高級住宅地のようです。
一軒一軒の家には塀があり、庭にプールがあったり、大型犬が走り回ったりしています。
アイヴァン達が暮らすクリエア広場の周辺は縦長の二階建てが多く、隣同士に隙間がほとんどない作りになっています。
それ故に、一軒の火事があるとすぐさま延焼してしまうのです。
高級住宅地を過ぎると、森に入りました。
鹿や狸や鳥達が馬車の音に驚き逃げた後、こちらを見ています。
木々が揺れ、太陽の光が馬車の窓へと差し込み、その光もまた揺れています。
「何度通っても、この森の道は気持ちが安らぎます」
「森が多くあるが故に、この国は水にも恵まれ、木材や食肉や皮物の輸出などが盛んで経済的に安定して暮らしていけるのです」
「森に感謝ですね」
山の上の庭からはクリエア広場の周辺までしか見る事が出来ないので、この国土の姿を今日初めて知る事が出来ました。
博士の家は小さな山の上にありますが、その周囲には人が暮らす事の出来ない程のもっと高い山々があり、森が生い茂っています。
山の麓に家並みやお店が建ち並ぶ田舎街のクリエア地区と拓けた平地に高級住宅地のフォラムス地区があります。
フォラムス地区と宮殿までのこの道も広大な森に囲まれ、森の国と言っても過言ではありません。
博士の家にはこの国の事や地図などの書物はなく、国名がウッドフォレスだという事も街へ買い物に出掛けたときに知ったのです。
今日知り得た事の他にもこの国土の事、僕はまだまだ知らないのかもしれません。
長い森を抜けると、大きな門が現れました。
体格の良い門番が数名目を見張らせ、一人が馬車の中を覗きます。
「マヨルとメノル、お客様をお連れし、戻りました」
「承知致しました。開門!」
野太い声が響くと、とても重そうな門を四人がかりでゆっくりと開け、馬車は中へ入りました。
「まだまだ時間はかかりますが、ここが宮殿の入り口となります」
高い塀に囲まれ、奥には大きな宮殿が見えています。
近付くにつれて、ますます大きくなっていく住居に国王様の偉大さが伝わってきました。




