五十六話 深刻な状況です
「何でだよー!」
アイヴァンは口をとがらせています。
「アイヴァン、話せない事もあるのよ、きっと。ね?」
「僕は何も知りません」
「そう……。」
「アイヴァンとレミーナの家は無事ですが、一緒に暮らせていますか?」
「えぇ、獣医の一人が家に住めなくなって病院に泊まり込んでるの。仮住まいにさせてもらってるからって毎日夜診てくれているわ。だからアイヴァンとは夜一緒に過ごせているから心配しないで」
「はい」
「でも僕早くゼロワンとまた暮らしたいよ!!もう戻ってもいいでしょ?」
「それは……」
僕がシステムを辿っていると、ラデスが名前を呼んでアイヴァンに近付きました。
「アイヴァン!」
「ん?僕の事知ってるの?」
「あ、いや……」
アイヴァンに見つめられたラデスは、黙ったまま立ち尽くしています。
その様子に気付いたメノルが、すかさず間に入りました。
「こんにちは」
「あら、こんにちは」
「メノルー!こんにちは!」
「彼は一緒にここで作業している者です。急に話しかける事があるので、驚かせてしまってすみません。先程、ゼロワンがアイヴァンのお話をしていましたので」
「そうだったんだ!僕はゼロワンの親友アイヴァンだよ!よろしくね」
「親友……いいな!」
ラデスは何か言いたそうにしていたけれど、メノルに手を引かれ作業へ戻ります。
そのやりとりを見ていたマヨルが二人に声をかけました。
「侵入者は宮殿に投獄されいます。安心してください。しかし、このような状況で私達も今後連日作業に当たります。しばらくは博士の家への立ち入りも禁止という事で国王より命令下にありますので、何卒よろしくお願いします」
「分かったわ。アイヴァン、国王様の命令は絶対守ってね。捕まってしまうわ」
「博士の家に行けないの?」
「そうね」
「また行けるようになる?」
誰も何もその答えは分かりません。
ラデスが博士の家に居る以上、アイヴァンを近付かせる事はないのではないかと判断します。
「きっと。それまでお母さんのお手伝いをしたり、言う事をよく聞いてくださいね」
「分かった!」
「ゼロワン、そろそろ作業に戻りましょう。ここは危ないですから、お二人は炊き出しへ向かってみてはいかかでしょうか?」
マヨルもメノルも返答が上手です。
僕にはそのような対応は出来ません。
「ありがとう。行ってみるわ」
「ゼロワン!頑張ってね!またね!」
「はい、頑張ります」
レミーナはお辞儀をして、アイヴァンは大きく手を振りながら走っていきました。
僕はしばらく二人の背中に手を振ると、作業に戻ります。
皆、黙々と作業を続けていると、他の班の班長が声をあげました。
「おーい、そろそろ休憩にしようや!」
「そうだな、皆休憩をとってくれ!」
それからガルディの指揮によって、各々その辺りの地面に座り込み、くつろいでいます。
「皆さん、飲み物や軽食はあちらに用意してあるんで、休憩中に食べてくださいっす!」
「ありがとうございます」
「それにしてもゼロワンとラデスは疲れ知らずっすか?」
「体力には自信あるぜ!」
「僕もそうですね」
僕達の班の皆で会話をしていると、遠くからたくさんの視線と声を感知しました。
とても重要な事なのではないかと推測し、僕はマヨルの耳元で、その会話を報告します。
「他の人達がラデスと僕の事を話しています。見かけない顔のラデスが僕と同じように人間離れしていると話題は持ちきりです」
「厄介な事にならないと良いのですが……」
「ゼロワンとは何者なのか?と皆が話しています。あの表情は、”怪訝”ではないですか?」
「そうですね……様子を見ましょう」
次の日も次の日も、朝から晩まで作業が行われ、予定よりも早く終わる見込みが立っているようです。
ラデスと僕は最少出力で動いていますが、やはり人間とは思えない能力を発揮してしまっているようで、連日ラデスや僕の噂話は広まっていきました。
「なぁ、ちょいといいか?」
別の班の体の大きな男が僕に近付いてきます。
「名誉国民のゼロワンじゃないですか~?」
「はい、僕はゼロワンです」
大きな男は何の前触れもなく、僕に殴りかかってきました。
僕の顔や体に当たれば、彼の拳が折れてしまうと推測し、僕は最少出力で手首を掴みながらかわします。
「ほうほうほう~宮殿の兵士の出なのか?なぁ答えてくれよ~皆、ゼロワンの事を知りたがってんのよ~」
「何をやっているんだ!?」
凄い形相でマヨルが駆け寄り、すぐさま男を捕えました。
「ただの力試しだよ~離せ」
「暴行罪で宮殿に連行する」
「何で宮殿の従者が二人もゼロワンの付き添いをしてるんだ?今までも名誉国民は居たけどよ、こんな手厚い事なかったよなぁ~?皆、知りたがってる。ゼロワンってのは何者なんだ?そこの見かけない顔の兄ちゃんもな。人間じゃねーな?化け物か?」
高笑いをしている大男をマヨルは拘束し、近くに居た護衛へと引き渡します。
「このような状況ですので、荒くれ者も多くなっていると聞きます。警備を強化してください」
「申し訳ございません。かしこまりました。」
彼は護衛の馬車に乗せられても尚、叫んでいました。
そして周囲の人々も益々、僕達へ怪訝な視線を向け、様々に飛び交う声を感知し続けています。




