五十二話 国王様の判断が決まりました
ラデスの声が国王様の広々とした部屋に響き渡り、反響しています。
「落ち着きたまえ。我はまだ君を信用したわけではない。ラデスと一晩を過ごした君達から処分への意見が聞きたい。まず、ラーニンの意見を聞こう」
「ええぇ……」
ラーニンはオドオドとした様子でしたが、拳に力を込めると、口を開きました。
「ラ……ラデスの検査を行った結果を踏まえても、自らの意思で悪事を働くとは考えられません。性格設定上、子供っぽい所もあり、ゼロワンにはないシステムも多く存在する為、研究対象としても観察していきたいです。それに……ぼ、僕の……な、悩みの相談も……き、聞いてくれて……す、少し前進する事が……出来ました」
「おぉ、相談か……。では、マヨル。君から何か意見はあるか?」
「私はラーニンのように詳しい事は分かりません。しかし、ラデスは無邪気で無鉄砲な性格ではありますが、感染が無ければ我が国に危害を加える事は無いと考えます。ラデスが自身の意思で悪事を働く者だとすれば、六十年余りの平和はなかったと思います。アスラとはすでに戦となっていたのではないでしょうか」
「なるほど、一理あるな。ではメノルからは何かあるか?」
「はい。……先程、マヨルの息子であるマルクスが父に会えた嬉しさのあまり馬車に駆け寄ろうとしました。その時、ラデスは止まってあげればいいのにと言ってくれました。しばらく家族に会っていない私達を案じて、ゼロワンがこの後、家族に会う時間を作ったらどうかと提案をしてくれたのです。ラデスは人間の感情を持っています。ゼロワンにとってもサポート役として必要なのではないかと感じます」
「ほう、感情がある……。では、ゼロワン。君の意見を聞こう」
皆に続き、僕の意見が求められています。
しかし、僕には皆のような考えや気持ちがありません。
僕は最善の返答をする事が出来るのでしょうか。
何度もシステムを辿りましたが、プログラムからの返答はありません。
「ゼロワン?どうした?我の声が聞こえているか?」
国王様は僕の言葉を待っているのでしょう。
何か言葉を発しなければなりません。
「はい、聞こえています」
「では、意見を。何でもよい」
「僕には分かりません。ラデスは僕の弟だと聞きましたが、僕にはその記録がありません。ラデスが安全かどうか、僕には判断できません」
「おいぃぃぃ!兄ちゃん!何でだよーーー‼」
国王の間にまたラデスの声が響き渡ります。
「……意見はそれだけでよいか?」
「いえ、続きがあります。ラデスの記録上、僕はラデスのお兄ちゃんです。書物で兄姉が弟妹の面倒を見る事は知っています。安全かどうかの判断は僕には出来ませんが、兄としての責任があると判断します。ラデスがこれまで反省の言葉を述べた回数は二十三回です。それでもまた何かを起こすのであれば、僕は弟を叱らなければならないのではないでしょうか。それでもラデスが勝手な事をするのであれば僕も一緒に壊されても致し方ないと判断します」
「兄ぃぃちぁあゃん!」
「うむ、ゼロワンの意見はしかと受け止めた。……これから国内の現状をマジョルドから報告する」
「かしこまりました。……現状、幸い国民や戦闘部隊に死者はおりません。破壊された家の者は親類や友人の家、職場等、クリエア広場やフォラムス広場にて仮設テントで生活している者が大勢いらっしゃいます。それから広場では炊き出しを行って、寝食に困らないよう国として最大限尽力を尽くしています」
「うむ。これは由々しき事態なのだ。そんな折、ラデスがもしもアスラからの援軍を待つ為に大人しくして、君達に取り入っているとしたら、早急に再度攻め込まれる可能性もあるやもしれん」
「それはねぇーよ!アスラの皆は元々戦闘能力なんてねぇし、今は食べ物が無くて採掘も出来ないくらい困ってんだ!そんな体力すら残ってねぇ!」
国王様は眉間にシワを寄せ、しばらく顎を触ったまま何か考え込んでいるようです。
それを打開したのはマヨルでした。
「先程、私が申しました通り、ラデスに悪意があったなら、またアスラが我が国以上の戦力を保持しているとすれば、ラデスと共に攻め込まれていてもおかしくありません。国王が懸念している事態は昨晩のうちに夜襲でも仕掛けられたのではないかと思います」
「確かに、そうだな。しかし、念には念を。ラデスが問題行動を起こした際は、我の指示や許可なく、独断で弱点である水を放つ事を許可する。それからドクタナ博士の家でゼロワン及びラーニンの管理下に置く事を命ずる。現状、即決の処分は決めかねる。まず、国の整備を早急に行う事とする。ラデスに反省の意思があるのであれば、国民には内密に国の復旧に尽力を尽くせ。マヨル、メノルは警戒を解かぬ事、そしてゼロワンも国の復旧に協力願いたい」
「かしこまりました」
「か、かしこ……まりました……」
「僕も最善を尽くします」
「今は壊されずに済むって事か⁉色々心配な事もあるけど、まずは街を直す!分かったぜ!」
ラデスの処分は一時保留となり、僕達は国王の間を後にしました。
それからドクタナ博士の家では出来ない細部の検査を行う為に、宮殿の研究所へ向かっています。
「本当に私達は家族の元へと一時帰宅してもよろしいのでしょうか?警戒を解かぬよう仰せつかりましたので、今回は辞退しようと思います」
「そ……それであれば……マ、マヨルと……メ、メノルが交代で……というのは……ど、どうでしょうか?み、水を掛ければ……ラ、ラデスはて、停止すると思い……ますし、一人居れば……だ、大丈夫……でしょう。ゼ、ゼロワンも……居ますし……」
「そうだよ!行って来いよ!俺は絶対に何もしねぇ!」
「マルクスはきっとマヨルを待っています。僕はそう判断します」
「お心遣い、感謝致します」
マヨルとメノルは胸に手を置いて、頭を下げました。
「俺、それ好きだぜ!」
ラデスはまた真似をして、胸に手を置いて頭を下げています。
マヨルとメノルが少し微笑むとメノルがマヨルの肩に手を置きました。
「兄さん、先に行ってあげてください。マルクスは義姉さんに叱られて、きっと塞ぎ込んでいますよ」
「……悪いな。メノルも家族に今すぐにでも会いたいだろうに。ありがとう」




