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僕を取り巻く感情  作者: ちぃたろ
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四十五話 僕は未完成です

 「俺が兄ちゃんの暮らす国を壊しちまったんだな……」


 ラデスは小さい声で呟きながらウッドフォレスの街並みを眺めています。

クリエア地区とフォラムス地区のちょうど真ん中辺りからクリエア広場の手前まで、被害は広範囲に渡り、家々の間隔が狭いクリエア地区の被害は甚大です。

変わり果てた街並みをオレンジ色の夕日が徐々に照らしていきました。


 「兄ちゃん達はこの家に暮らしてるのか?」

 「はい、ここはドクタナ博士の家です」

 「ドクタナのおっさんちだったのか!おっさんはいつ死んだんだ?」

 「分かりません。ある日、姿を消しました」

 「姿を消したぁ⁉」

 「はい。家の中を整理し、僕に制約を言い渡して居なくなりました」

 「おっさんのやりそうなこったぜ!まっ、兄ちゃんが一人ぼっちじゃなくてよかった」


ラデスはニカッと笑います。


 「博士が居なくなってから三十年程、ずっと一体きりで過ごしました」

 「三十年も⁉」

 「はい」

 「俺はずっと国のみんなと一緒に生活してんだ!ここの暮らしとは結構違うけどな!」

 「そうなのですか?」

 「アスラに行く事があったら分かると思うぜ!今はラーニンとマヨルと三人で暮らしてんのか?」

 「今はラーニンとマヨルの他に、マヨルの双子の弟であるメノル、それからレミーナとアイヴァンと、馬のジュディと一緒に暮らしています」

 「……アイヴァン……?アイヴァン……ってもしかして、あの時の子供……⁉」

 「はい。アイヴァンはラデスとの戦闘中に僕を守ろうとしました」

 「あの子は大丈夫なのか⁉」

 「はい。命に別状はないようです」

 「イノチニベツジョウ……?」

 「大丈夫という事です」

 「……そっかぁ……良かった。ごめんな。兄ちゃんの大切な家族に怪我させちまって」

 「家族ではありませんが、大切な友人です」


先程までオレンジ色に染まっていた空は少しずつ暗がりを見せ始めました。


 「家族ではねーのか。……兄ちゃんは忘れちゃったっていうけど、あの頃は楽しかったな……もちろんアスラでの生活も楽しくないってわけじゃねーけど……」

 「記録が無くて、何も分かりません」

 「そうだよな……俺が妹をからかったり、姉ちゃんが俺をからかってきたりしてんのを兄ちゃんはいつも優しく見守ってくれてたんだぜ。もちろん研究者の指示に従って動けるかの検査とか改良もあって。でも大半が広場で自由に過ごす俺達をドクタナのおっさん達が俺達のする事を見てて、難しい顔をして何か書いたり、笑ったりしてた。どこの領土とか関係なく、みんな家族だった」

 「ドクタナ博士も笑っていたのですか?」

 「あぁ、手を叩いて笑ってた事もあったぜ」

 「僕は博士の笑顔を見た事はありません」

 「そうなのか?」


 僕の知っている博士はいつも顔をしかめていました。

過去の事を話す事もなければ、これからの事を話す事もなく、寝る間も惜しんで本を読みあさっては僕を改良していた記録しかありません。


 「はい。僕が未完成だからでしょうか?」

 「兄ちゃんが未完成だって⁉」

 「はい。僕はハロウも光っていませんし、博士が望んでいた感情や心の習得も未だ出来ていません」

 「兄ちゃんが未完成だったら俺なんて何もねーぜ?」

 「ラデスはハロウが光っています。それに感情や心もあります」

 「光ってるからすげーってわけじゃねーと思うけどな。難しい事は分かんねぇけど、俺が完成してるとしても兄ちゃんより劣ってるって思うぜ!」


ラデスは親指を立てて、僕の方へ向けました。


 「そうでしょうか?」

 「兄ちゃんは昔っからすっげー色んな事考えてんだよ。俺はなぁ~んにも考えねぇし。だから完成ってやつが出来てないって思うんじゃねーかな?わっかんねーけど」

 「僕のシステムは常に最善策を辿ります」

 「俺にはそういうのねーんだよ。人間で言ったら、ただの生意気なガキだ!でも兄ちゃんは何かすっげーんだよ!」

 「何かすっげーですか?」

 「そうそう!姉ちゃんもマリンメイも光ってるかどうかは知らねーけど、すっげーってのはねーんだよなぁ」

 「僕の記録には面影もありませんが、ラデスにはそう記録されているのですね」

 「そそ!何かあった時にだけ光るってのも、逆に何か凄そうじゃん?」

 「そうですか。いつか僕のハロウが光り続けた時、博士は笑ってくれるでしょうか?」

 「んー?おっさんはもう死んでんだろ~?」

 「いくつか諸説があるそうですが、亡くなった人間は天国で暮らしているそうです。もし博士が亡くなっていたら、天国で僕達を見ているのではないかと推測します」

 「もしそうなら俺、怒られっかな……」

 「どうしてですか?」

 「だって博士の暮らしていた国を壊しっちゃったんだぜ?」

 「そうですね。博士が怒った記録は今までありませんが、そういう可能性もあります」

 「だよな~……兄ちゃん、あのさ……もし、俺が壊されたらさ……」


ラデスは遠くを見つめながら少し間を空けて話を続けます。


 「もし俺が壊されたら、この国の人達やアスラの人達に俺の気持ちを伝えてほしいんだ」

 「どんな気持ちですか?」

 「アスラのみんなにはありがとうって伝えてほしい。アスラのみんなは俺をロボットとか関係なく接してくれたんだ。毎日、家族みたいに話した。兄弟と離れて寂しかった俺を仲間に入れてくれた。国を守る為の俺が国を守れなかった事はごめんって伝えてほしい。国王様を止める事が出来なかった。兄ちゃんみたいに最善策とか分かったらさ、もっと違ったと思うんだよ」

 「分かりました。もしアスラの方々と話す機会があったらお伝えします」

 「うん。んで……ウッドフォレスのみんなには壊したり怪我させたりしてごめんなさいって伝えてほしい。みんなの家族や大切な人を傷付けてごめんなさい」

 「分かりました」


覚悟を決めたような表情を浮かべるラデスは星空を見上げました。


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