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僕を取り巻く感情  作者: ちぃたろ
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三十七話 最善策は僕が殴られ続ける事です

 「あ!君!危ないから近付いちゃだめだ!」


殴られ続けている僕の背後から声が聞こえました。


 「俺は負傷していて動けない…誰か!その子供を止めて!」

 「アイヴァン!何で来たんだ‼今すぐ下がりなさい‼」


アイヴァンに気が付いたマヨルが怒号を上げています。


 「ゼロワンが…ゼロワンが…」


ここから百メートル離れた所でアイヴァンはマヨルによって止められ、泣き出しました。


 「ゼロワンが!ゼロワンが!」

 「アイヴァン!気付かれたら危険です!静かにして逃げなさい!」


マヨルの制止を聞かず、アイヴァンはパニックになっています。

その様子に気付いた侵入者は僕への攻撃を止め、アイヴァンの方へと走り出そうとしました。

僕は侵入者を羽交い絞めにして、なんとか進めないように抵抗します。

しかし、侵入者の力は強く、僕の腕を振り払おうとしました。

僕は人間や動物を痛めてしまわないように、常に低出力で触れていましたが、今回は最大出力で羽交い絞めにしています。

それでも侵入者は痛くも痒くもないといった様子で、僕の腕を掴み、抜け出そうとします。


 「アイヴァンに近付かないでください」


僕は侵入者に何度もお願いしました。

しかし、侵入者は未だ片方の口角を上げて笑っています。


 「お願いします。この国を壊さないでください」


僕の声など、聞こえていないかのように、最大出力の僕の腕は振り払われ、家々の方へと投げつけられました。

僕が当たった衝撃で、壁の破片が周囲に飛び散っています。

その様子を見ていたマヨルがアイヴァンを抱えて走り出すと、侵入者も走り出しました。

僕も立ち上がり、侵入者を追いかけます。

少しも加減する事なく、全速力で走りましたが、追いつきそうにありません。

こんなに力が強く、こんなに足の速い人と初めて出会いました。

あと一歩という所で、侵入者はマヨルを抜き、立ちはだかっています。


 「…子供には手を出さないでくれ…代わりに…私を」


マヨルはアイヴァンを抱えてうずくまりました。

侵入者が腕を振り上げた瞬間、僕もかろうじて到着し、侵入者の背後から飛びつきます。


 「早く逃げてください」

 「ゼロワン…!ありがとうございます」


どれだけ力を加えても振りほどかれ、二人が逃げる程の猶予を与える事が出来ません。


 「兄さん!」


メノルも様子に気付き、銃を取り出します。

そして、頭に何発も撃ち込みますが、全て弾かれ、猛スピードでメノルの方へと侵入者が移動しました。


 「メノル‼」

 「メノル!そのまま下がってください!」


僕はメノルに下がるように伝えると、瓦礫の中から壁の一部を持ち上げて、侵入者へと投げます。

侵入者の頭からパラパラと破片が落ちていきました。

全くと言っていい程、ダメージを与える事が出来ません。

赤と黒の髪を手櫛で掻き上げた侵入者は、次に僕へと狙いを定めます。

そしてまた僕への殴打が始まりました。

アイヴァンやマヨルやメノルに攻撃が向くよりも最善な事です。


 「今ならまだ間に合います。このような事は止めましょう」

 「…に………」


僕の懇願に、侵入者は初めて声を出しました。

それと同時に眉間にシワを寄せて、眉が垂れます。

これは苦痛の表情でしょうか。

または悲しんでいるのでしょうか。


 「何と言っているのですか?苦しいのですか?」

 「……にい………」

 「なんという事だ…まだ自我が残っていたとは…」


遠方からの声を感知しました。

人感センサーを使用しましたが、殴られ続けた影響で壊れてしまっているのか、姿を見つける事が出来ません。


 「…ラデス。国王様の命令、国王様の命令、国王様の命令…」

 「こく…お…さま…の…め…れい…」

 

遠方からの言葉を侵入者は繰り返し、また元のきりっとした眉に戻りました。

 

 「あなたの名前はラデスですか?国王様の命令とは何ですか?」


僕は侵入者に殴られながら問いかけ続けます。

国王様の命令とはジャグワス国王様の命令でしょうか。

ご自分の国を破壊する命令などジャグワス国王様が下すでしょうか。


 「しぶといねぇ…。ラデス、国王様の命令。ゼロワンを今すぐ壊せ」


その言葉の後、侵入者は攻撃を止め、頭を掻きむしりもがき出しました。

 

 「ぐわぁぁぁぁぁ‼」


雄叫びを上げた後、僕に馬乗りになり、今まで以上に殴打してきます。


 「離して!僕は逃げない!」

 「何を言っているんですか⁉危険な事は止めてくださいと研究所の時にも言ったでしょう」

 「だって…ゼロワンが…ゼロワンが…みんなで後ろから抑え込もうよ…」

 「無理です。先程の速さを見たでしょう。気付かれたらもう次はないかもしれません。後ろから抑え込めたとしてもゼロワンでさえ、弾き飛ばされているんです。私達では近付くだけゼロワンの足を引っ張ります」

 「ゼロワンも逃げてと言っていたでしょう。今、ゼロワンは私達に攻撃が向かないようにしてくれていると思います。だから今のうちに逃げましょう」

 「…ゼロワン一人でこの国を守らせて…ゼロワンが壊れちゃったら、僕達も、この国の皆もきっと…死んじゃう…だったら皆で戦おうよ…」


マヨルとメノルの隙を付いて腕を振り払うと、アイヴァンがこちらに走ってきます。


 「アイヴァン‼止まりなさい‼」

 「アイヴァン‼待ちなさい‼」


その後ろをマヨルとメノルがアイヴァンの名前を叫びながら追いかけてきます。


 「ゼロワンは僕の親友だ‼」


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