三十四話 アイヴァンとマリルを保護しました
アイヴァンの声もマリルの声も震えている事が分かります。
僕は近くに落ちている石を取り、二十メートル先に居る獰猛な動物に向かって投げました。
「グルル⁉」
獰猛な動物は辺りを警戒し、二人から背を向けています。
その間に僕はアイヴァンとマリルの元へ到着しました。
「アイヴァン、マリル。少し離れてください」
「ゼロワン⁉」
「もう大丈夫です」
「分かった!マリル!」
アイヴァンはマリルの手を引っ張り、獰猛な動物から距離を取ります。
「グルルルル…」
僕は獰猛な動物の行動を予測し、出来るだけ力を加えないように首元を押さえました。
二人の前で首を折ってしまうわけにはいかないと判断したからです。
「アイヴァン、マリル。もう少しでマヨルが来ます。安心してください」
アイヴァンはマリルの手を離さず、力強く握っています。
僕は獰猛な動物を殺めるべきか保護するべきか判断を仰ぐ為、マヨルが来るのを待ちました。
「ハァハァハァ…大丈夫ですか?」
「はい。この動物はどうするべきですか?」
「狼でしたか…。子供達を襲おうとした事は事実ですので、殺処分するしかないでしょう」
「殺すの?」
怯えながらも狼を心配するマリルの手をギュッと握ったままアイヴァンも悲しそうな顔をしています。
「自然の恵みに感謝し、最小限の狩りに留め、動物と共存する事がこの国のしきたりではありますが、襲ってきた動物は殺処分するという決まりがあります。致し方ないでしょう」
「グルルルル…」
狼は今も僕に首を押さえられながらも牙をむき出し、もがき、何度も逃げ出そうとします。
僕は力の調節が難しく、絞め殺してしまわないように、抱きしめたり撫でたりするよりも少し力を加えました。
「ここはチェト研究所の敷地管轄になるので、鳥類や小動物以外の動物は生息する事を許されていません。見つけ次第、捕獲し、動物の多い森の奥の区域へ運ばれています」
「それでしたらこの子もその区域へ運べませんか?」
「しかし…」
「僕もそうして欲しい…」
「…マリルも。この子、身体がとても細いから…お腹が空いてたのかもしれない。迷子になってご飯が食べられてなかったんだよ、きっと!」
「…分かりました。意見を汲みましょう。二人は反対側に顔を向けていてください。麻酔を打って眠らせます」
「分かった」
「出来るだけ痛くしないであげて…」
二人は狼に背を向け、静かに待っています。
マヨルはゆっくり上着を開くと、腰には三丁の銃と二本のナイフ、そして縄など、さすが国の従者とも言える装備を持っていました。
一丁の銃を腰から抜くと、狼に向けて狙いを定めます。
「ゼロワン、行きます」
「はい」
プシュッと空気の抜けたような音がすると、狼は次第に動かなくなり、目を閉じました。
マヨルは狼に近寄り、縄で口と四つ足を縛っています。
「ゼロワン、手を離して大丈夫です。捕獲完了しました」
「はぁぁぁぁ…」
「怖かった…」
深く息を吐いたアイヴァンは目から涙をポロポロとこぼすマリルと共に、手を繋いだままその場に座り込みました。
「アイヴァン。君はとても危険な行為をしました。この場所は国民であっても立ち入り禁止区域です。以後、このような事のないようにお願いします」
「ごめんなさい…」
「護衛に見つからなかったのですね」
「うん…護衛の動きを見て、隙をついて入ったんだ」
「護衛にもこちらから指導をしないといけませんね。私は先にアイヴァンとマリルを連れて、護衛所へ狼を引き渡します。チェト研究所へ引き返す時間がありません。麻酔の効果時間があるので、今日の探索はこの辺りで終わりにしましょう」
「分かりました」
僕はチェト研究所に居るラーニンと合流し、事情を説明すると、チェト研究所を後にしました。
「僕はここで作られたのですね」
「そ…そういう事になります」
僕はチェト研究所をもう一度振り返って見ると、当時の建物であろう姿と複数の人間、そして三体のロボットを推測しました。
ドクタナ博士以外、再現する事が出来ません。
三体のロボットはどんなロボットなのでしょうか。
僕が悪事に利用されないようにドクタナ博士は僕を守ったという事ならば、他の三体が悪事に利用されていないとも限りません。
今まで特に何もなかったようですが、このままウッドフォレスの国民が平穏な生活を送っていける事が最善です。
その後、森を出た所で、アイヴァンとマリル、マヨルと合流し、家路に着きました。
それから数日、マリルはアイヴァンの元に来ては喧嘩しています。
他の子供達もクッキーを食べながら勉強をしたり、マヨルとメノルの元へマリルのお母さんであるメリルが遊びに来たりしました。
マヨルとメノルが交互に休日を取り、宮殿へ帰ったり、その足でラーニンの作った部品を運んでは戻りの足で未完成の部品が届き、また製作したりと、ラーニンは忙しそうです。
僕はレミーナを迎えに行ったり家事をしたり、部品製作を手伝ったりといつも通りの日常を送っていました。
そんなある日の事です。
ジュディの世話をしているマヨルが庭先のポストに一通の手紙が入っている事に気が付きました。
「ゼロワン、手紙が届いていましたよ」
「珍しいですね。今まで手紙が来た事はありません」
「いつ来ていたのか…私も先程気が付きました」
封筒には何も書いてありません。
誰から誰宛の手紙なのでしょうか。




