二十九話 レミーナの気持ちを知りました
「少なからず、レミーナがそう思った可能性はあります。恋愛対象でなくても、勝利を共に喜び、悲しみを乗り越える為に強く抱きしめ合う事もあると思いますが、誤解を生む事もあります」
「そうでしたか」
「ゼロワンはロボットだと知らない人からすれば、一人の男性なのです。レミーナはゼロワンを男性として意識してしまったのではないかと思われます。それであれば、この所のレミーナの様子に辻褄が合います」
「僕はレミーナに謝罪するべきですか?」
「難しい所ですね…時間が経つのを待つべきか…。ひとまず保留としましょう」
その後もレミーナは僕に話しかける事もなく、僕が話しかけても返事をするくらいで、他の人とは良く話しています。
「ゼロワン、ママと何かあったの?喧嘩した?」
アイヴァンにもそう聞かれる程、僕に対するレミーナの様子は違和感があるようです。
「何もありません」
「そう?買い物の時は凄く楽しそうだったのに…」
「僕は誰とも喧嘩をしません」
「そうだよね…ゼロワンが喧嘩なんてするはずない」
「はい。心配しないで下さい」
「…分かった」
レミーナの様子がこのままであればアイヴァンを更に不安にさせたり心配させたり、アイヴァンにとって良くない事でしょう。
僕は今日のお迎えで、レミーナときちんと話をする判断をしました。
「マヨル、アイヴァンからレミーナと僕が喧嘩をしているのかと聞かれました」
「アイヴァンも気が付いたのですね」
「はい、そのようです。なので、今日のお迎えの帰り道の道中、レミーナと話をした方が良いと判断しました」
「そうですね。私もそう思います」
「分かりました。では、お迎えに行ってきます」
僕は病院へ向かうと、最近はいつも外で待っていたレミーナの姿がありません。
その代わりに現れたのはジルでした。
「さっき遅番の同僚に話しかけられていたからまだ出てこないと思うぞ」
「そうですか」
「最近、レミーナはボーっとしている事が多い。何かあったのか?」
「いえ」
「本当か?仕事に支障はないが、いつもと様子が違う。考え事をしているかと思えば、顔を赤らめたり、ため息を吐いたり。まるで恋をしている乙女みたいなんだよ」
「そうなのですか」
「俺の予想は、ゼロワンを好きなんじゃないかと思ってるけどな」
「僕には分かりません」
「もし、レミーナがゼロワンの事を好きだって言ったらどうするんだよ?」
「僕は人を好きになる事はありません」
僕はレミーナが少し前に病院から出てきた事に気付きましたが、ジルは背を向けていたので気付いていないようです。
「好きになる事はない?」
「はい」
「俺達と変わらない年齢だよな?今まで恋愛した事はないのか?」
「ないです」
「じゃあ、レミーナが告白してきても付き合う事はないって事だな?」
「はい。お付き合いというものはお互い好き合う者同士が行う事だと知っています。なので、僕にその資格はないと言えます」
「そうか…あとで後悔するなよ!俺はレミーナの事が」
ジルが言い切る前にレミーナが先に歩いて山道の方へ向かいました。
「え⁉…レミーナ、聞いてたのか?」
「お疲れ様。気を付けて帰ってね」
レミーナは振り返る事なく、いつもと同じ声、同じ口調で、ジルに挨拶をします。
「お、おう。お疲れ」
僕はレミーナの後ろを歩きました。
「レミーナ」
何度、声を掛けても返事のないレミーナの歩みは止まりません。
僕はレミーナの前へ出ました。
すると、レミーナは驚いた表情で足を止め、僕はレミーナにあの時の事を話します。
「急に抱きしめてしまい、ごめんなさい。僕はレミーナを励まそうと、書物で知った知識を元に行いましたが、間違っていたようです」
「…間違ってないわ。励まされたのは本当。でも、その後からゼロワンにどうやって接したらいいか分からなくなってしまって。もう随分こういう感情になってないから…」
「レミーナはどのような感情になったのですか?」
レミーナが戸惑った表情をして、少し時が止まりました。
「…ドキドキしてしまったの。それからゼロワンと話をしようとしても上手く話せなくて…」
「ドキドキですか?」
「えぇ…でも抱きしめてくれたゼロワンの鼓動は少しも感じなかった。私は自分の鼓動がゼロワンに伝わってしまったんじゃないかって…でも、ゼロワンは恋をしないと聞いてしまって…私の方が勘違いをしてた…」
「僕は恋をした事も、今後恋をする事もありません」
僕は恋をした事も無ければ、心臓が無いので鼓動が起こる事もドキドキした事もありません。
そしてレミーナの鼓動を感じる事も出来ないのです。
「アイヴァンが家族みたいだと嬉しそうに言って、ゼロワンを慕っている姿を見て、そして抱きしめられた時、私はあなたを男性として見てしまったの。恋ってね、自分ではどうしようも出来ないの。夫に恋をして結婚して、夫を亡くしてからずっとこんな気持ちになった事無くて、私は自分に戸惑っていたのよ。アイヴァンの慕っているゼロワンと家族になれたら…って少し期待しちゃって…でも…」
レミーナの目から涙がポロポロと溢れています。
「…最初はゼロワンが危険な人だと思ってアイヴァンに近付かないでなんて言ったのに、火事の中ミーチェやご夫婦を助けて、私達の酷い仕打ちを優しく許してくれて、その後もこんなにアイヴァンの事を大切にしてくれて…私の事も慰めてくれて…好きにならないわけ…ないじゃない…」
僕は男性で、好意のない女性を慰める時に抱きしめたり頭を撫でたりする行為は間違った知識だとマヨルに教えてもらったのに、システムは僕の動作に指示を出しました。




