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僕を取り巻く感情  作者: ちぃたろ
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二十八話 僕はただ慰めようとしたのです

 「そんな事があったのですね」

 「はい」

 「それは新しい挨拶ではありません」

 「そうなのですか?」

 「予想ですが、ジルはレミーナの事が好きで、ゼロワンに嫉妬し、怒りを露わにしていると思われます」

 「そうだったのですか」

 「たまにあるとレミーナが言っているように、レミーナに接近してくる男性に対して、そういった態度を取っているのではないでしょうか」

 「新しい挨拶として記録してしまいました。訂正します」

 「訂正した方がいいです。挨拶で怒りを露わにする事はありません」

 「ゼロワンが私達に話してくれなかったら、そのまま記録に残ってしまう所でしたね」

 「間違った記録は危険ですよ」


僕がジルから教わった新しい挨拶は、挨拶ではなく嫉妬による怒りだと知りました。

まだまだ知らない事、気持ち、感情がたくさんあります。

その後もジルが僕の方を見ている事はありますが、僕が病院に到着する頃にはレミーナが外で待っているようになったので、ジルにお辞儀をするだけになりました。


 そんなある日、日付が変わろうとする頃、レミーナが外へ出て行く音がしました。

とても珍しい事です。

僕は充電器を抜き、様子を伺いました。

僕の聴覚は虫の羽の音さえも感知するので、レミーナが静かに泣いている事が分かります。

僕はキッチンに行って、ホットミルクを作り、外へ出ました。


 「レミーナ、大丈夫ですか?」


星を眺めていたレミーナは慌てた様子で涙を拭っています。


 「大丈夫よ」

 「良かったらホットミルクを飲みますか?」


僕は近くにある外テーブルにコップを置きました。


 「ありがとう」


レミーナは一口二口飲んで、コップを置くと、また星を眺めます。


 「甘くて…美味しい…」


そう言うと、堪えきれなくなった様子で、レミーナの目から涙が溢れ出しました。


 「何年経ってもダメね…。今日、治療していた犬が亡くなってしまったの。最善を尽くしても…救えない命は…いくつもあって…、その度に悔しい…」


レミーナは僕に背を向けたまま、頬を伝う涙を何度も拭っています。

僕はアイヴァンが心細い表情をしたり涙目になったりした時に何も出来なかったので、その後に書物を探し、そうした時にどのようにしたらいいか調べたのです。

だから僕はレミーナを抱きしめて、頭を撫でました。


 「え…ゼロワン?」


レミーナは戸惑っているかのような声でそう言いましたが、書物からの確かな情報です。

ミーチェを撫でた時のように力を出来るだけ加えずに、抱きしめて、撫で続けました。

そうしないとレミーナが潰れてしまいます。

僕の皮膚は弾力材が埋め込まれているとラーニンが言っていたので、柔らかさは人間に近い事でしょう。

しかし、人間のような温もりは感じないかもしれません。


 「…ありがとう。ゼロワンの体、凄く冷えているわ。今日はもう寝ましょう」


僕はレミーナを抱きしめていた手を解くと、レミーナは涙を拭って僕の方を見る事なく、コップを持って家の中へ入って行きました。

僕は人を温める事も、相手の温もりも感じる事も出来ません。

僕の冷たい体では、レミーナを慰める事が出来なかったのでしょうか。

僕は皆が寝静まった事を確認し、充電を再開しました。

朝になると、レミーナが飲んだコップは綺麗に洗われており、食器棚に戻っています。

その後も、僕は家事とラーニンの仕事の手伝いと、子供達へのおやつ作りと、勉強を教え、夜になるとレミーナを迎えに行く、いつもと変わらない日々を過ごしました。


 「ゼロワン、つかぬ事をお聞きしますが、レミーナと何かありましたか?」


 マヨルにそう聞かれましたが、僕には心あたりがありません。


 「何もありません。どうしましたか?」

 「レミーナがゼロワンに対してよそよそしい感じがしたのですが…」

 「僕は気が付きませんでした」

 「家ではほとんど会話をしていないようですし、ゼロワンがレミーナに話しかけても何だか避けているような様子に見えました」

 「そうですか」

 「帰り道では、会話をしていますか?」

 「いえ、何も話していません」

 「そうですか…一週間ほど前から様子がおかしいような気がします」


一週間前にあった出来事といえば、レミーナが星を眺めて泣いていた時期です。

その時の事をマヨルに話しました。


 「…それです」


マヨルは頷きながら、また困ったような表情をしています。


 「僕はまた間違えてしまいましたか?書物に書いてあった通りに慰めました」

 「私が慰める時に抱きしめたり頭を撫でたりするとしたら、妻と子供だけです。妻以外の女性にそのような事をするべきではありません」

 「どうしてですか?」

 「抱きしめたり、撫でたりという行為は愛する者に対して行うものです。ですから恋愛対象の相手や、小さい我が子にする事であり、大人の女性や近所の子供達には、ほとんどの場合、そういった事をしません」

 「そうなのですね」

 「私がアイヴァンを慰めるのであれば、肩を軽く叩くもしくは、軽く体を寄せて、称えるように背中を軽く叩きます」

 「そのような慰め方もあるのですね。レミーナを慰める場合はどのような事をしますか?」

 「ホットミルクを渡して、隣で話を聞くくらいでしょうか。もし私が独身であっても、好意が無ければゼロワンがしたような事はしません。好意があっても両想いでなければ、とても躊躇してしまうような行為なのです」

 「そうだったのですね…。レミーナは僕がレミーナに好意があると思ったのでしょうか?」


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