二十六話 引っ越しです
家の前に置いた棚や寝具を室内へ一時的に運び入れていると、マヨルとラーニンがアイヴァンの家の前へ到着したようで、メノルが手を上げています。
「兄さん、こちらです」
今日の馬車からは国の紋章が外されていました。
国の紋章が付いていれば、僕が名誉国民授与式に参加する為にフォラムス広場へ向かった時のように、街がざわめき、頭を下げられてしまいます。
「こんにちは。大きな馬車ね」
「こんにちは、レミーナ。荷台を借りてきました」
「助かるわ」
マヨルも私服でジェディに乗っており、ラーニンも私服姿で座席から降りてきました。
「こ…こんにちは…」
「あ!マヨル、ラーニン!こんにちは!」
「こんにちは。ご報告は家の中でさせていただきます」
マヨルからは心なしか緊張した様子が推測出来ます。
国王様に反対されたのでしょうか。
少し動揺した様子のレミーナと共に、皆でアイヴァンの家の中に入りました。
「外では国民の目がありますので、こちらで失礼します」
「はい」
アイヴァンもマヨルやレミーナの様子を見て、緊張しているようです。
「国王様へ事情を説明した所、許可をいただく事が出来ました。【一国民であるゼロワンの自由を奪う事はあってはならない。親友であるアイヴァンの幸せを第一に考える事】と伝言を預かっております」
「本当に⁉よかったぁ…」
「ありがとうございます」
アイヴァンの表情は解れ、レミーナも安堵の表情を浮かべています。
「では、荷物を運びましょう」
マヨルとメノルは棚を一つずつ抱えて荷台へ運びました。
ラーニンは棚を持ち上げようとしましたが、プルプルと腕を震わせて持ち上がりません。
「マヨルとメノルも力持ちなのねぇ」
「国の従者として鍛えておりますから」
「ゼロワンは三つ持ったよ」
「ゼロワンには敵いませんね」
「ぼ…僕は…一つも…」
ラーニンはそう言って肩を落としますが、その様子を見て、場が和んだようです。
僕は残り三つの棚を運び、マヨルとメノルは一つずつ寝具を荷台へ乗せました。
「ぼ…僕は…、な…何も…で…出来ませんでした…」
ラーニンは肩を落としながら座席に座ります。
「誰にでも得意分野はありますから」
「私達にはロボットを作る事は出来ません」
「そうですよ。そう気を落とさずに」
マヨルとメノルがラーニンを励ましますが、ラーニンは窓から外を見て、拗ねているようでした。
それから僕、レミーナ、アイヴァン、メノルと座席に座り、マヨルがジェディに跨ります。
「さぁ、出発します」
マヨルの声と共にジェディはゆっくりと街中を歩き出しました。
「そういえば、棚の数が多いですね」
「レミーナが洋服棚を買うという事で、皆さんにも棚が無い事に気付き、勝手ながら購入しました」
「そうでしたか。確かに今までは手持ちの鞄にしまっていたので助かります」
「ぼ…僕は…、た…棚を…使うほど…よ…洋服…持ってないです…」
「後程、国の費用で清算させていただきます。ありがとうございます」
「きょ…今日、ぶ…部品や…こ…工具等を…つ…追加で…も…持って…きたので、よ…用具…入れに…し…しても…い…いい…ですか?」
「ご自身の物なので、ご自由にお使いください」
「あ…ありがと…う…ございます」
「ラーニンの工具、どうやって使うんだろうって思ってた」
「ゼ…ゼロワンの…い…家でも…ちゅ…注文品を…つ…作ら…ないと…の…納品が…ま…間に…合わない…との…こ…事なので、す…少し…さ…作業…する事が…あると…お…思い…ます…」
「分かりました」
「邪魔しないから見ていてもいい?」
アイヴァンは目をキラキラと輝かせています。
「ダ…ダメと…い…言っても…ア…アイヴァンの…事…だから…み…見ているでしょう…」
「えへへ」
「ごめんなさい。この子、好奇心旺盛で…。国の研究所ではそういった物も作るのね」
「しょ…職人が…ま…まだ…居ない…ので、け…研究所…員が…ぶ…部品から…く…組み立てまで…お…行って…いるんです…」
「凄い!何を作ってるの?」
「い…今は宮殿で使われているロボットを作っています。国の直営施設へ納品します。量産出来れば家庭用にも利用出来るので、家庭用ロボットの研究にも使われる部品です。なので、自分の仕事を優先しながら部品作りの応援をする事になりました」
「アイヴァンが言った通り、そういう話になると饒舌になるのね」
レミーナは目を丸くして驚き、ラーニンは困った様子で頭を掻いています。
「僕にも手伝える事があれば言ってください」
「は…はい。ありがとう…ございます」
談笑していると馬車が停車し、マヨルが扉を開けました。
「皆さん、着きました」
「ありがとうございます」
皆が降り、僕は荷台から荷物を家の中へと運びます。
「ジェディお疲れ様」
マヨルとメノルはジェディを撫でたり、野菜をあげたり、お世話をしています。
「今日からお世話になります」
「よろしくお願いします」
アイヴァンとレミーナが深々と頭を下げました。
今日から五人と一頭と一体での生活が始まります。




