二十三話 アイヴァンの気持ちを知りました
「何を言ってるのアイヴァン…」
レミーナはまた困った顔をしています。
僕は最善策を提案する事にしました。
「分かりました。その代わり、アイヴァンはきちんと学校に行く…というのはどうでしょうか?」
「ありがとう、ゼロワン。甘えたい気持ちはあるけれど、これは私とアイヴァンの問題で…巻き込むわけにはいかないわ」
僕はそれ以上何も言えず、アイヴァンも俯いたまま、レミーナも額に手を当てて、ただただ静かな時間が流れています。
「すみません。立ち聞きするつもりはなかったのですが…」
静かな空間を打ち破るように、マヨルとメノルが奥の部屋から出てきました。
「外部の人間が口を出す事をお許しください。事情を知り、アイヴァンの行動にも納得しました。ですが、今の状況はアイヴァンにとって良くない環境なのは確かです」
「私達も親であり、国の安全を守る立場です。夜分遅く、子供一人で家に居るという事はあってはなりません」
「アイヴァンは博士のひ孫である可能性が高いというお話も伺っております。保護者であるお母さんの許可があれば、親族の家である博士の家で暮らす事に何も問題はないと思います」
マヨルとメノルは連日、アイヴァンの事を心配していたので、アイヴァンがこの家で暮らす事が今の状況よりも良いとレミーナを説得しています。
「僕、ここで暮らしていいならちゃんと学校に行くよ」
レミーナは頭を抱えたまま深い息を吐きました。
「レミーナも仕事が終わったら、こちらに帰ってきてアイヴァンとの時間を作る事が尚、最善だと僕は提案します。家事は今も僕が行っているので二人増えても問題ありません。今の環境より良いのではないかと僕は判断します」
「ママ…お願い。僕、一人で居るの寂しいよ」
アイヴァンは珍しく肩を震わせて、目に涙を溜めています。
その言葉を最後に、また静かな時間が流れました。
僕には寂しいという感情はありませんが、寂しいという言葉の意味は知っています。
家に一人で居ると心細く、心温まる満たされた気持ちがなくなってしまっていたのでしょう。
アイヴァンは大人びているけれど、まだまだ子供です。
父親が火事で亡くなったのだと教えてくれた時も、心細い表情をしていました。
今度はラーラおばあちゃんと離れ、レミーナは仕事で忙しく、大人の居るこの家で心細さを埋めようとしていたのではないかと推測します。
「あの…」
この静けさを打ち破ったのはレミーナでした。
「生活に関する費用を払わせていただきますので、アイヴァンをよろしくお願いします」
そう言ってレミーナは深々と頭を下げ続けます。
「ありがとう、ママ」
「レミーナ、頭を上げてください。それと、お金は不要です。名誉国民授与式の後から国民の皆さんよりたくさんの食材をいただいています」
「それはゼロワンへの贈り物だから、そうはいかないわ」
「ゼロワン、人には良くしてもらった事に対して対価を納めなければ気が済まないという気持ちや考えがあるものです」
「そうよ、無償では私の気が済まないわ」
「そうなのですか…では…」
僕はシステムにより、正確な計算を行い、レミーナに金額を提示しました。
「本当にその金額で良いの…?」
「はい、実際に掛かる費用です」
「ゼロワンは本当に優しすぎるわね」
そう言ってレミーナは眉を垂らし微笑みました。
ですが、僕に優しさはありません。
心も感情も気持ちもありません。
ただ正確に計算した金額であり、アイヴァンを受け入れた事もただ最善策と判断した結果です。
「今日は二人を送ります」
「私が居るから大丈夫よ」
「もう夜遅いです。山道は動物も出てくる事がありますから送ります」
「…分かったわ。お言葉に甘えるわね」
「早速ですが、明日はお休みですか?」
「えぇ、このままじゃいけないと思って久しぶりに休暇をとったの。アイヴァンとちゃんと話し合わないと…って」
「僕も明日は本当にお休みだよ」
アイヴァンは気まずそうに笑いました。
「では、明日こちらの家に持ってくる物を準備しておいてください。ご自宅にお帰りになる事もあると思うので、寝具はこちらにも用意しましょう」
マヨルとメノルの提案を皆、受け入れます。
「私が馬車を出しますので、明日は引っ越しと寝具を買いに行くという事で、よろしくお願いします」
「分かりました。何から何までありがとうございます」
「僕のワガママを許してくれてありがとうございます」
アイヴァンとレミーナはまた深く頭を下げました。
「気を付けてお帰りください」
僕がアイヴァンとレミーナを家まで送り届けて帰宅すると、マヨルとメノルに声を掛けられます。
「先程は出すぎた真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」
「僕がアイヴァンの提案を最善策だと判断したので、マヨルとメノルはレミーナを説得してくれて、丸く収める事が出来ました。その後の引っ越し等も僕にはお話を進める事が出来なかったので、助かりました。ありがとうございます」
「いえ。その件について先程、メノルと話をしていて、アイヴァンとレミーナにもゼロワンの生活を見られる事になり、充電するお姿が見られてしまう危険性が高まる事に先程、気付いた次第です」
「私達はゼロワンがロボットだと国民に知られてしまう事を阻止する側の立場である事も忘れ…申し訳ございません」




