二十二話 アイヴァンは思春期のようです
それから数ヶ月。
アイヴァンやマリル、他の子供達も博士の家に来て、勉強を教えたり、お話をしたりしました。
マリルのお母さんのメリルも一緒に来て、マヨルとメノルとの姉弟の時間を過ごし、マヨルとメノルも交代で休暇を取っては宮殿に暮らす家族の元へ帰り、ラーニンは書庫で書物を読んだり、僕の検査をしたりして過ごしていたある日の事です。
「アイヴァン、またこんな遅くまで居てお母さんが心配しているんじゃないですか?」
「同じ親として、毎日こんな時間まで外出していると心配です」
マヨルとメノルも心配してアイヴァンに声を掛けます。
アイヴァンはここ数日、お友達とは帰宅せずに、一人残るようになりました。
「大丈夫だよ」
「そうは言っても大人として目は潰れません」
「帰ってもママ居ないよ」
「僕は家の近くまで送っているだけなので、ご家族には会えていません」
「今日はもう帰った方がいいですよ」
「アイヴァン、送っていきます」
「…分かったよ」
アイヴァンはしぶしぶ本をしまい、帰り支度を始めます。
夕方、暗くなる前に帰っていたアイヴァンですが、この所は夜八時頃まで居るようになりました。
レミーナもラーラおばあちゃんも心配している事でしょう。
「アイヴァン。皆、心配しています。明日からはお友達と同じ時間に帰る事を提案します。その時、送っていく事は構いません」
「……」
アイヴァンは不貞腐れた顔をして先に歩いて家の方へ走って行ってしまいました。
この年頃の子供は思春期の始まりと書物に書いてあったので、思春期の事は知っています。
ですが、僕にはどのように接したら良いか分かりません。
翌日、アイヴァンは朝早くから来てラーニンと共に書庫へ籠っています。
「今日、学校はお休みですか?」
「そうだよ!」
「この辺りの学校はお休みなのでしょうか」
「私達も把握しておらず、申し訳ございません」
「国の休日でない事は確かです」
いつもの時間になると子供達がやってきました。
「あ!アイヴァン、学校休んで何してるんだよ」
「今日休みだと思ってた」
アイヴァンは本に目を向けたまま、誰の顔も見ずに答えます。
その次の日も、その次の日も、アイヴァンは朝から博士の家に来ました。
「さすがに良くないですね」
「ですが、私達には何も出来ませんね」
アイヴァンは何を考えているのでしょうか。
学校を休んで、毎日朝から夜遅くまで書庫の本を読んでいます。
僕にはご飯を作る事や送っていく事しか出来ません。
大人達が頭を悩ませていると子供達がやってきました。
「こんにちは」
「皆さん、こんにちは」
「アイヴァン!先生からこれ!」
マリルがアイヴァンに学校からの用紙を手渡します。
アイヴァンは顔を見る事もなく、お礼も言わず、本から目を離しません。
「お家に届けるように言われたから、アイヴァンのお家に行ったけど、ラーラおばあちゃんも居なくて」
「どうしたんだよ、アイヴァン」
お友達も心配しています。
それでもアイヴァンは顔を上げようともしません。
「が…学校には…い…行った方が…」
ラーニンも珍しく声を掛けました。
「僕の事は放っておいてよ!僕の気持ちも知らないくせに!」
急に声を荒げ、皆びっくりした顔をしています。
大人達も子供達も、アイヴァンをそっとしておく事にしました。
そうこうしているうちに夕方になり、子供達は帰っていきます。
今日もアイヴァンは辺りが暗くなっても動く気配がありません。
「こんばんは…アイヴァンは来ていますか?」
外から声が聞こえました。
この声はレミーナです。
「こんばんは、レミーナ。アイヴァンは書庫にいます」
「ゼロワン、ごめんなさい。学校から三日も欠席しているとさっき連絡が来て…知らなくて…」
「アイヴァンは最近、夜遅くまでここに居て、この三日間は朝からずっとここにいます。僕が夜八時頃に送っています」
「そうだったの…私は毎晩、十時過ぎにならないと帰れなくて…緊急手術が入ると泊まりになる事もあったから、気が付かなくて本当にごめんなさい」
「忙しいのですね」
「フォラムスに動物病院を創設してから院長が異動になってね。ゼロワンが助けたミーチェ、運ばれた時は助からないと他の獣医達は皆、首を振ったの。ミーチェの一命を取り留めたという事で光栄な事にクリエアの病院は私が院長を引き継ぐ事になって…。ラーラおばあちゃんが見てくれていたんだけど、二週間くらい前に入院してしまったの」
「そうだったのですか」
「もう歳だし…退院は望めないって」
「アイヴァンは一人でお家に居る事が多かったのですね」
「そうなの。誰も頼る人が居なくて…アイヴァンにも寂しい思いをさせている事にも気付かずに、ゼロワンや皆さんにも迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「それであれば来てもらって構いません」
「そんな…。あ、アイヴァン!学校から連絡があったわよ!寂しい思いをさせていたのはごめんね。でも人様に迷惑を掛けたらダメでしょ!」
書庫から出てきたアイヴァンはレミーナに叱られ、俯いたまま口を開きました。
「僕…一人で寂しかった。ママが忙しいのは分かってる。でも…僕、ゼロワンと一緒にここで暮らしたい」




