二十一話 ラーラおばあちゃんに会いに行きます
「いいなぁ、マリルも行きたかった」
「一応、こういう事は家族で話してから」
「分かってるもん」
「今度はマリルのお母さんも是非、遊びに来てください」
「うん!ゼロワン、またね!アイヴァンは明日、学校でね!」
アイヴァンは笑顔で手を振るマリルから少し目を逸らして軽く手を振りました。
そして、僕とアイヴァンはレミーナの病院へ向かいます。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
「今日はどうしたの?」
「博士の家でこの写真を見つけて…」
アイヴァンはレミーナに写真を渡しました。
「アイヴァンの小さい頃にそっくりねぇ…」
レミーナも写真を見て目を丸くします。
「マリルもそう言ってたんだけど、僕の親戚?」
「んー…、この時代に写真を撮れるとしたらとてもお金持ちの家庭だと思うから、他人の空似だと思うわよ」
「昔、ラーラおばあちゃんがお金持ちだったとか…?」
「そういう話は聞いた事がないわ。お父さんは昔から居なかったと聞いているし…。ラーラおばあちゃんに聞いてみるといいわ。まだお仕事で帰れないから、アイヴァンをよろしくお願いします」
「分かりました。お仕事頑張ってください」
「ママ、ありがとう!またね」
「気を付けて帰るのよ」
レミーナの病院を後にして、僕達はアイヴァンのお家へ向かいました。
「ラーラおばあちゃん、ただいま」
「おかえり。あら、お客さんかしら?」
「うん、ゼロワンだよ!」
「まぁ、名誉国民の!私はアイヴァンの祖母のラーラです」
「ラーラおばあちゃん、山の上の博士知ってる?」
「えぇ、変わり者博士は有名人だからね」
「会った事ある?」
「街に下りてきてる事もあったらしいけれど、大人達に近付いちゃダメって言われてたから一度もないわねぇ」
「ラーラおばあちゃんのお母さんは博士の事、何か言ってた?」
「もうおばあちゃん歳だから…よく覚えていないわ」
ラーラおばあちゃんはそう言って困ったように笑いました。
「ラーラおばあちゃんに見てほしい写真があって…」
アイヴァンはそう言って、ラーラおばあちゃんに写真を手渡します。
「まぁ、これは…」
「マリルとママがこの女の子、僕に似てるって言ってたんだけど、親戚?」
「この女の子はね、ラーラおばあちゃん。私よ」
「え…?ほんと?」
「えぇ、後ろの女の人がおばあちゃんのお母さん。でもどこでこれを見つけたの?写真なんて撮ったのは結婚式の時が初めて」
「あの…博士の家で見つけて…」
「博士の?」
「そう、この人が博士」
「まぁ…」
ラーラおばあちゃんは目を丸く、口を開けたまま写真に見入りました。
「もしかして、博士がラーラおばあちゃんのお父さん?」
「おばあちゃんはお父さんに会った事がないの。生まれる前から居なかったと聞いているからお父さんかどうか分からないけれど…」
「昔はお金持ちの人しか写真を撮る事が出来なかったって聞いたよ」
「そうねぇ…、おばあちゃんのお母さんは木工手芸を生業にしていたからそんなに裕福ではなかったはずだけれど、生活に困っている様子はなかったの。今となっては不思議ねぇ。おばあちゃんは教師になりたくて…でも木工手芸では教師の学校には行けないと諦めていたのだけど、お母さんは私を教師の学校に行かせてくれたの。この写真は間違いなく母と私。博士がお父さんだったとしたら、お金を助けてくれていたのかもしれないねぇ…」
そう言って、ラーラおばあちゃんは感慨深く写真に見入り、目を潤ませています。
「じゃあ、僕は博士のひ孫?」
「そういう事になるねぇ」
「博士はやっぱり悪い人ではなかったんだね」
「そうねぇ…不器用だったのかもしれないねぇ。良い物を見せてもらって、ありがとう。お返しします」
ラーラおばあちゃんはひとしきり写真を見てから僕に差し出しました。
でも僕のシステムはその写真に手を伸ばす事を止めます。
「よかったら、もらってください」
「…私がもらっていいの?」
「はい、家族写真は家族が持っているべきだと僕は判断しました」
「…ありがとう」
ラーラおばあちゃんは写真を大事そうに抱きしめて、父親との空白の時間を埋めているようでした。
博士が何故、自身の家族として国民登録をしなかったのか理由は分かりません。
ラーラおばあちゃんに注ぐはずの時間をロボット研究に費やし、その収入を家族に渡す事で愛を伝えていたのでしょう。
博士は精密ロボットを作る器用な人ですが、不器用な愛し方しか出来なかったのだと僕の記録に追加します。
「ゼロワン、行こう」
僕はアイヴァンに言われて、家の外へ出ました。
「僕もね、お父さん居ないんだ」
「そうだったのですね」
「火事が起きた時に助けに入って死んじゃった。とっても勇気の要る凄い事だと思うけど、どうしてって思ったよ」
アイヴァンは普段、とても大人びた所もありますが、やはりまだまだ子供です。
僕はそんな寂しそうな顔をするアイヴァンに最善の言葉が出てきませんでした。




