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僕を取り巻く感情  作者: ちぃたろ
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十九話 僕とアイヴァンは友達です

 「おはようございます」

 「おはようございます」


 翌朝、マヨルとメノルがキッチンへ来ました。


 「ゼロワンは早起きですね」

 「充電が終わったので、朝ごはんを作っておきました」

 「ありがとうございます」

 「美味しそうですね」

 「洗濯物を洗いますので、出しておいてください。僕は掃除を始めます」

 「何から何まで至れり尽くせりですね。ありがとうございます」

 「食事以外は毎日やってきました」

 「三十年間もおひとりで…」

 「はい。人間であれば、寂しいと感じますか?」

 「そうですね」

 「寂しいと思います」

 「記録します。それではごゆっくりと朝ごはんを食べてください」

 

博士とお別れしてからの三十年間、一度たりとも寂しいという感情は生まれた事もありません。

こうして皆と暮らして楽しいという感情もありません。

一緒に居られて嫌だとか、誰かと過ごせて嬉しいという感情もないのです。


 「ゼロワン!おはよう!」


僕が掃除や洗濯をしていると、聞きなれた声が庭先から聞こえました。


 「アイヴァン、おはようございます」


マヨルとメノルが玄関から顔を覗かせています。


 「署名を集めてくれたアイヴァンです」

 「はじめまして。私達は双子のマヨルとメノルです」

 「国王より、ゼロワンの従者として命を受けました」

 「はじめまして、僕はゼロワンの友達のアイヴァンだよ!」

 「友達ですか?」

 

僕には友達が出来た事はないので、聞き返してしまいました。


 「そうだよ!歳は離れてるけどさ!何かあったら助け合う、それが友達だよ!」

 「はい。僕は助けてもらいました。僕とアイヴァンは友達です」

 「あとは国の研究所より派遣されたラーニンが奥の部屋にいます」

 「ラーニン…ラーニンって宮殿のロボット作った人だよね?すごい~!」


アイヴァンはピョンピョンと飛び跳ねて、宮殿のロボットの真似をしました。


 「今日はお休みですか?」

 「そうだよ!だから遊びに来たんだ!」

 「今日はお一人ですか?」

 「うん。友達はまだ出掛けちゃダメだって」

 「アイヴァンは早起きですね」

 「ずっと遊びに来られなかったからね!ママが仕事に行く時に一緒に出たんだ」

 「そうですか」

 「僕、ラーニンに会ってみたい!」

 「家の中へどうぞ」

 「わーい!」


アイヴァンはニコニコして家の中に入って行きます。


 「元気な子ですね」

 「はい」

 「遅くなりましたが、朝食ごちそうさまでした」

 「ごちそうさまでした」

 「いえ」

 「私達はジェディに朝食をあげてきます」

 「分かりました」


マヨルとメノルはジェディのお世話に向かい、僕はアイヴァンの後を追いました。


 「家の中に入るのは初めて」

 「そうですね。ラーニンはこちらに居ます」

 「わぁ!本がたくさん!」


アイヴァンもまたラーニンのように目を輝かせて、本棚を上下左右にぐるりと部屋の中を見渡しています。

 

 「クッキーを焼きますからゆっくりしていてください」

 「ありがとう!」


ラーニンは本に夢中でアイヴァンの存在に気付いていません。

僕はキッチンへ向かい、前日に作った生地を出して、クッキーを焼く準備を始めました。


 「ラーニン、はじめまして」

 「…」


声を掛けられても尚、ラーニンの声は聞こえません。

痺れを切らしたようにアイヴァンは大きな声を出しました。


 「ラーニン!」

 「だ…誰ですか…⁉」

 「僕、アイヴァン!ゼロワンの友達だよ!」

 「えっと…こ…子供…?」

 「十歳だよ!」

 「ゼ…ゼロワン…と、と…友達?」

 「うん!」


ラーニンの困惑している様子が声から見て取れたので、僕は書庫へ向かいました。


 「ラーニン、僕の友達のアイヴァンです。署名を集めてくれた子です」

 「な…なるほど…」

 「僕、宮殿のお披露目会でラーニン見た事あるよ!ロボット凄いね!」

 「い…いえ…。」

 「僕もここで本読んでいい?」

 「ど…どうぞ…」

 「では、僕はクッキー作りに戻ります」


ラーニンとアイヴァンは静かに本を読んでいるようです。

時々、本をパタンと閉じる音だけが聞こえてくる以外、静まり返っています。

クッキーが焼き上がるまで時間がかかるので、僕はコーヒーとジュースを持って書庫へ向かいました。


 「ラーニンってロボット研究者だよね?」

 「う…うん…」


アイヴァンが小さい声でラーニンに話かけているようです。

僕は書庫の扉の前で立ち止まりました。


 「どうして研究者がここにいるの?」

 「こ…国王様の…し…指示…だから…」

 「どうして?ロボット研究者でしょ?」

 「しょ…書庫が…あると…聞いて…べ…勉強に…」


ラーニンは困っている様子です。

追い打ちをかけるように、アイヴァンは唐突に言いました。


 「僕、ゼロワンはロボットだと思うんだけど」

 「え…⁉」


僕にも一度聞いてきましたし、どうやらアイヴァンにも僕がロボットだと知られているようです。


 「ゼロワンの名前は人の名前っぽくないし、ゼロワンは記憶の事を記録って言ってたんだ。あとシステムとも言ってた。ラーニンがロボットのお披露目会でシステムの説明してたの覚えてるよ。火事でも大丈夫だったでしょ。嘘つかないで教えてよ!」

 「ゼ…ゼロワンに…聞いて…みたら…」

 「聞けないよ!ゼロワン、傷つくかも…」

 「ゼ…ゼロワンがロボットであれば傷つくという事はない。ロボットに感情はないよ」

 「ラーニンってお披露目会と喋り方が違うと思ってたけど、それって癖?」

 「そ…そうかな…。ぼ…僕は…変わらないけど…」

 「ゼロワンも面白いけど、ラーニンも面白いね」


アイヴァンは楽しそうに笑っています。


 「僕はゼロワンをロボットだと思ってる。けど、ゼロワンはゼロワンで変わらないから。ちょっと聞いてみただけ」


そこでまた静まり返り、本をめくる音だけが聞こえました。

僕はコーヒーとジュースを持ったまま、最善策を考えています。

僕から打ち明けるか、国王様の言いつけ通り、国民には内密にするか、僕はアイヴァン本人から聞かれるまで、この会話を聞かなかった事にしました。

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