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僕を取り巻く感情  作者: ちぃたろ
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十八話 人生は人それぞれです

 「そ…そういえば…、は…博士には…ご家族は…居ないのですか?」

 「僕は知りません。アイヴァンと出会う前は博士以外の人と会った事はありませんでしたし、博士も他の人の事を話した事はありません」

 「生涯独身だったのでしょう」

 「博士の国民登録も家族の記載はご両親だけでした」

 「しょ…生涯…ど…独身…。ぼ…僕も…そうなる…のでしょう…ね」

 「ラーニンは人気あるんですけどね」

 「に…ににに人気⁉で…すか…?」

 「はい。メイドの中にも何人かラーニンの事を素敵だと言ってる方はいますよ」

 「僕もそう思います」

 「ど…どどどうして…ゼ…ゼロワン…まで…?」

 「ソフィアナはラーニンの事が好きだと僕は判断しています」

 「ソ…ソフィアナが…⁉」

 「はい」

 「私達も言いませんでしたが、見ていれば分かりますよ」

 「気付いてないのはラーニンだけです」


マヨルとメノルも僕の意見に賛同しました。


 「ぼ…僕の事…なんて…、す…好きなわけ…ないです…」

 「ラーニンは好きな人、居ないんですか?」

 「ぼ…僕は…こ…恋を…した事が…ありません…。よ…幼少期から…ずっと…け…研究ばかり…して…きましたから…」

 「ラーニンの恋人はロボットだと宮殿では言われていますから、皆ただ見ているだけなんです」

 「マ…マヨルと…メ…メノルは…もう…しょ…所帯を…持ってい…ますからね…。す…好き勝手…言えるんです」

 「私達はメイドとお見合い結婚し、五歳になる子供がいます」

 「家に居る時はラーニンに注意したような事を注意していますよ」


ラーニンと歳がそんなに変わらないであろう二人は立派なお父さんのようです。

でも人生は人それぞれですから、ラーニンのような人生も悪くないと判断しますし、ラーニンもこれから家族を持つ事があるかもしれません。


 「ご家族が居るのに、ここで生活をする事になってしまってごめんなさい」

 「いえ、国王より命を受けた仕事ですから」

 「私達の子供達も大人になれば必然的に、国に仕える者となります」

 「ぼ…僕も…マヨルとメノルも…三代続く…エ…エリートコース…って言われて…いるんです…」

 「それは立派です」

 「か…肩の荷が…お…重い事も…あるんですよ…」

 「ラーニンの子孫を国が切望していますからね」

 「人間は周囲の言葉や気持ち、自身の様々な感情や心を抱えて、生きていかなくてはなりません。僕は恋をする事もなければ、人間関係に苦しむ事もありませんし、周りから何かを言われる事にも何も感じません」

 「人間からしてみると、それはそれで何か切ないものを感じます」

 「その感情すら僕はないのです。そして人間の感じた感情を共有する事が出来ません」

 「ゼ…ゼロワンには人間の心や感情を書物に基づいて考察する事が出来るけれど、それがどういうものなのかを体験していないから人間独特の感覚は知り得ません。そして僕達人間もゼロワンの無感情を理解する事は難しいと思います」

 「そうですね」

 「確かに、私には無感情の状態が分かりません」


僕にないものを人間は持っていて、人間にないものを僕は持っています。


 「そ…外側から見れば似ているようで全く違います。ゼロワンの肌は皮膚と筋肉ではなく強化プレートと防火防水塗料で加工されていますし、機体の中は内臓や骨や血液ではなく、アームの集結部と骨組みと潤滑油です。人間の脳である部分に多量のシステムが組み込まれ、指先足先の細部まで信号を発し作動しています。ゼロワンは表情が乏しいですが、僕は表情を動かすシステムを開発出来ていないので、ゼロワンのように喋っている時に微弱でも口元や眉や頬が動く事は今までにない素晴らしい技術です」

 「そのような作りになっているとは…」

 「人間の体内を全て材料で作っているという事が信じられませんね」

 「信じてください」

 「いえ、そうではなくてですね」

 「信じられない程の驚きという事です」

 「そういう意味ですか。システムに記録します」

 「に…人間であれば、会話の流れや表情でなんとなく分かる雰囲気や微妙な意味合いの違いを理解出来る事が多いのですが、高性能ロボットであっても言葉に関しては少し理解が難しい時もあります」

 「真に受けてしまう、その真意や裏側にある意味までは理解しにくいという事ですね」

 「そ…その通り…です。まぁ、ぼ…僕も…苦手なんです…けどね…」

 「ラーニンはロボットですから」

 「ラーニンはロボットなのですか?」

 「ち…違います。い…今のは…じょ…冗談…と言います…」

 「ゼロワンのロボットらしい一面を知る事が出来ました」

 「書物からは得られない情報です。記録します。ありがとうございます」


 僕は最近になって初めて人々と会話をするようになり、名誉国民のお話を頂いてからは随分と色々な会話をしました。

ラーニンやマヨルやメノルと少しずつ時間を共に過ごす中で、冗談というものも知る事が出来て、僕はますます知識を増やしています。

言葉の真意や裏側にある意味を理解する事に関しては、感情と同じくらい僕にとっては難しい事ですが、いつか習得する時が来るのでしょうか。 

 

 「お食事美味しかったです。ごちそうさまでした。雑談が長くなってしまいましたね。お皿を片付けましょう」

 「ごちそうさまでした」

 「ご…ごちそう…さまでした…」

 「洗い物は僕がやるので、シャワーをご自由にお使いください」

 「ありがとうございます」

 「ぼ…僕は…ま…まだ書庫で…読み物を…」

 「はい、分かりました」

 「兄さん、お先にどうぞ。私がゼロワンのお手伝いをします」

 「ありがとう。では、お先に」


こうして博士以外の人と過ごす初めての夜は更けていきました。

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