十七話 僕の知らない部屋がありました
僕がマヨルやメノルと会話をしていると、いつの間にかラーニンの姿がありません。
「ラーニン、どこにいますか?」
「ここです」
また声のする部屋へ三人で向かうと、太陽光蓄電池のある部屋にラーニンはいました。
「部屋一面、こんなに大量の蓄電池が…」
「電気の契約をしていなかったので、僕はこの太陽光蓄電池で充電をしていました。天気に左右されて充電が出来なくなっては困るという事で、こんなにたくさんの蓄電池を博士が用意してくれたのです」
「この量の蓄電池を作るだけでも相当な時間が必要ですよ」
「博士は寝ている時間以外、常に何かしていました。睡眠時間もとても短いです」
「ラーニンみたいですね」
「ロボットに魅入られてしまった人にとってロボットは生きがいですからね」
そう言うと、ラーニンはまた家の中をウロウロと歩き回りました。
「少し放っておきましょう。夕飯作りは私達もお手伝いします」
「ありがとうございます。水も問題なさそうです。調理を始めましょう」
僕達は、家の中を動き回ったり、書物を読んだまま停止したりするラーニンを横目に、夕飯の準備を始める事にしました。
調理器具をコンセントへ挿し、パンを焼いてスープを作り、お肉を焼きます。
そんな事はお構いなしといったように、ラーニンは僕に声をかけてきました。
「ゼロワン、質問があります」
「どうしましたか?」
「地下の部屋に鍵がかかっています。何の部屋ですか?」
「地下ですか?僕はその部屋を知りません」
「こっちです‼」
僕達三人は調理の手を止めてラーニンに付いていくと、そこには隠し扉がありました。
鍵のかかった部屋はおろか、隠し扉がある事も知りません。
今は博士が居ないので、システムによる最善策で動く事がありますが、僕は博士の言う通りの生活をしていたので、それ以外の探索行動はした事がありませんでした。
「ここです」
隠し扉を開くとその先には、鍵穴があるだけでノブが付いていない扉があります。
「何か知ってますか?」
「博士からは何も言われていません」
「鍵だけでも持たされていないですか?」
「はい、玄関の鍵だけです」
「うーん…気になります‼あぁあああ、この部屋には何があるんだ‼」
ラーニンは突然走り出して、階段を駆け上がると玄関を飛び出しました。
またラーニンに付いていくと、ラーニンは外からその部屋の位置を確認しているようです。
「確かこの辺りのはずです」
ラーニンが指差す先は森が生い茂っています。
「森の下にありますね」
「気になる気になる気になる…いつかこの部屋の秘密も解明します‼」
「こんな風になっている事を初めて知りました」
「…あ!ゼロワン!お肉が焦げます!戻りましょう」
「はい」
ラーニンの行動は本当に好奇心旺盛な子供のようで、アイヴァンと一緒に居る時よりも翻弄されている僕がいました。
僕には行動に対する処理に順番があるので行動を同時には実行出来ません。
「少し焦げてしまいましたが、問題ありません」
「よかったです。ラーニンは自由奔放な子供と同じですね…」
「博士にも似たような所がありました。僕が家事をしていても、思い付くとすぐに僕へシステムの追加を開始してしまい、僕の方は家事がはかどりませんでした」
「天才とはそういうものなのかもしれませんね」
「そうかもしれません」
僕とマヨルはお皿に盛り付けをして、メノルが拭いてくれたテーブルの上へ並べました。
「ラーニン、そろそろ夕飯にしましょう」
「待ってください。今、良い所なんです」
「冷めてしまいますよ」
マヨルとメノルが食事中に何度か声をかけると、分厚い本を持ったまま、ラーニンがキッチンの入り口に立ち尽くしています。
「お先にいただいています」
「はい、どうぞ」
こちらの方を見向きもせず、椅子に座ると夕食を食べ始め、マヨルとメノルは呆れ返りました。
「ラーニン。仕事とは分かっていますが、少々失礼だと思います」
「国の研究者として恥じぬ行動を。礼儀は忘れないでください」
「あ…、ぼ…僕、む…夢中になって…しまって…、す…すみません…」
「構いません。博士はいつもラーニンと同じでした」
「そ…そう…だったんですね…。い…いただきます…」
ラーニンはここへ来て初めて、通常時のラーニンになり、本を置いてスープをすすっています。
「と…とても…美味しいです…」
「よかったです。おかわりはたくさんありますから遠慮なく言ってください」
「私達だけ食べていて、ゼロワンの前にお食事がないと、何だか申し訳ない気持ちになりますね」
「気にしないでください」
「変な質問ですが、ゼロワンが食事を食べたらどうなってしまうのですか?」
「どうでしょう。食べた事はありません」
「じゅ…充電切れになった時、口の中を調べましたが、人間の喉の辺りに拡声器が埋め込まれているので、食事をすると拡声器が壊れます。食べる指示は起きた事がないから今まで食べた事がないのだと思うので、やはりシステム自体が自身を守っているのかもしれません」
「僕の口の中までは防水加工されていないのですね」
「それは難しそうです。拡声器に塗ると音声が外へ出なくなる危険がありますから」
「こんなに美味しい料理を食べられないなんて…」
「そういった願望のようなものは僕にはありません。どんな味なのか、学習記録を追加したいとシステムが要求する事はありますが、ラーニンの言った通り、食べる指示は出されません」
味に関しては感情と一緒で、書物にもこのような味という説明はありますが、そのもの自体食べた事がないので、正確には分かりません。
それを人は〝可哀想″だと感じるのでしょう。




