十五話 微笑みは一種類ではありません
「もうゼロワンの家に遊びに行ってもいいよね?ママ」
「ゼロワンは…良いの?私達にこんな仕打ちを受けたのに…」
「はい、歓迎します」
「…ありがとうございます。お騒がせすると思いますが、よろしくお願いします」
アイヴァンの母親は少し目を潤ませています。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「じゃあ広場で勉強も教わっていいよね⁉」
「ゼロワンがいいって言ったらね」
「ゼロワン!いい?」
「はい、僕で良ければ」
「やった~!」
アイヴァンや他の子供達もピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいます。
「ミーチェとも遊んでくれる?」
「遊び方が分かりませんが、僕で良かったら」
「こうやって遊ぶんだよ~!」
少女がミーチェを下ろすと、人差し指を立ててミーチェの目の前で上下左右に振り回し、その指を追いかけるようにミーチェは前足を使って追いました。
「可愛いでしょ」
僕も真似してみましたが、速すぎたようでミーチェは後ろに転んで辺りをキョロキョロ見回しています。
そんな姿を微笑ましく、皆笑って見ていました。
「あなたはあまり表情を変えない人だけど、火事の中に飛び込んだり、私達の無礼を何事もなかったように許してくれたり…本当に優しい心を持っているのね」
アイヴァンの母親に言われて、僕は答えに困りましたがプログラムの応答通りに答えました。
「僕に心はありません」
「ふふ。アイヴァンが面白い人だって言うのも分かるわ。私はレミーナよ。アイヴァンは好奇心が旺盛だから迷惑をかけるかも知れないけれど、よろしくお願いします」
「僕の方がアイヴァンに助けられています」
「ありがとう」
レミーナは以前までの怪訝な表情ではなく、穏やかで優しい母親の顔で微笑んでいます。
「失礼致します。ゼロワン、少しこちらへよろしいですか?」
「はい。皆さん、またお会いしましょう」
「またね、ゼロワン!」
マジョルドに声を掛けられ、僕は皆の元から離れました。
「私は国王様と共に宮殿へ戻りますのでご挨拶を。至らぬ点もあるかと思いますが、マヨルとメノルをどうぞよろしくお願い致します」
マジョルドと共に、後ろに居たマヨルとメノルがお辞儀をしました。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、私達はラーニンを連れて、ゼロワンのお家へ向かいましょう」
マジョルドと別れ、辺りを見回すと、ラーニンはソフィアナと話しをしています。
ソフィアナと話しているラーニンの方へ近付くと、現状行われている研究の説明をしていたので、僕達は邪魔にならないように遠くから様子を伺う事にしました。
「引継ぎの書類にまとめておいた通り、アームを改良して電流量を抑え、充電時間を…」
「そ、そんな事より…ラーニン…本当に行っちゃうの?」
ソフィアナはまた不安そうな顔をしています。
「は…はい。こ…国王様の…ご…ご指示でも…ありますし…、ドクタナ博士の…つ…作った…高性能ロボットを…解明したい…そういう自分の…興味も…」
「分かってる…分かってるけど…、研究所はラーニンが居ないと回らないし…寂しいじゃない…」
「そ…そんな事は…ありません…。ソ…ソフィアナは優秀です…。き…君なら…出来る…と思います」
頬を真っ赤にしているソフィアナの〝寂しい″という言葉が小さすぎたのか、ラーニンには聞こえていないようでした。
「わ、分かったわよ!頑張るわよ!ラーニンも研究所の代表なんだから、いつまでもそんなオドオドしてないで、シャキッとしなさい!研究の事になると…本当に…かっこいいんだから…」
ソフィアナはまた語尾にいくほど声が小さくなり、頬を赤らめたまま、ラーニンの肩を叩きました。
「いつも研究報告みたいに喋りなさいよ!」
「ぼ…僕は同じように…しゃ…喋って…います…」
「…それで、さっきの続きは?」
「あ…えっと…充電時間を短縮出来るかどうかの検証を行い、加工用の商業機械ESAに関しても消費電力削減を目指して出力の調整を行ってください。僕の見解では、出力は⒖bcが妥当ではないかと判断しているので、結果を報告書へ記入してください。また、ゼロワンの解明が進んで、研究に応用出来る事があれば、まとめて持ち帰ります」
「分かったわ」
ソフィアナが言うように研究の事になると自信の満ち溢れた顔付きになり、堂々と話すラーニンはかっこいいと言えます。
「お話中、失礼します。ラーニン、そろそろゼロワンのお家へ」
「は…はい。では…ソフィアナ…、よ…よろしく…お願いします…」
「…分かったわ」
ソフィアナは不安なのではなく、ラーニンと離れるのが寂しいのだと、僕はソフィアナの表情をそう判断しました。
「ラーニン…いってらっしゃい」
先程、レミーナは優しく微笑んでいましたが、ソフィアナは僕の目の前で切なく微笑んでいます。
人間の表情というものは、僕の機能よりも奥深いと思いました。
でもラーニンにはきっと伝わっていないのでしょう。
彼はロボットを愛しすぎています。
僕のシステムは、そう判断しました。




