十四話 ミーチェを撫でる事が出来ました
「僕に心はありません。僕の中のシステムが記録に基づいて最善策を提示し、プログラムが指示を出しています」
「そんな機能が…奥深いですね」
「ですが、僕は自分の事がよくわかっていません」
「これからラーニンがゼロワンの色々な事を解明してくれます」
「僕もそう予測しています」
僕は窓を開けて千切ったパンを差し出しました。
しばらくすると小鳥達が集まってきてパンを突き、また美味しそうに食べています。
パンはあっという間になくなってしまいました。
「マヨル、メノル。ごちそうさまでした」
「美味しそうに食べていましたね」
「それでは馬車の準備が出来ておりますので、下へ参りましょう」
「はい」
僕はマヨルとメノルの後に続き、長い階段を下りて、マヨルに続いて馬車へ乗りました。
「今日はメノルが馬を操縦するのですか?」
「はい。私がマヨルだとよく見分けがつきましたね」
「頭から足の先までほとんど同じ作りをしていますが、顔の細微な違いを記録しています」
「さすがですね。授与式の後、ラーニンと合流し、ゼロワンのお家にしばらくご一緒させていただきますので、よろしくお願い致します」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。帰りに布団や食材を買って帰りましょう」
「そうして頂けると助かります。ゼロワン、本当は人間なのではないですか?」
「いえ、僕はロボットです」
国に仕える者であれば、こうして自分がロボットだと正直に言って良い、そんな時が来るとは予測していませんでした。
僕は嘘が上手くつけないロボットです。
今は胸を張って言う事が出来ます。
僕は紛れもなく、博士の作ったロボットです。
その後もしばらくの間、雑談をしていると、馬車が止まりました。
「フォラムス広場に着きました。足元にお気をつけて下さい」
「ありがとうございます」
フォラムス広場に到着し、早々に中央にある壇上まで案内されました。
壇上の上には国王様とマジョルドがすでに立っていて、面前にはたくさんの国民がいます。
マジョルドが僕の方を見てから国民に対し、声高らかに話し始めました。
「それでは国民の皆様。本日は先日の火事での人命救助活動を行ってくれた名誉ある国民に対し、名誉国民授与式を執り行います。呼ばれた者は壇上へお上がりください」
マジョルドがそう言うと国民の皆が拍手をしています。
「ゼロワン」
「はい」
僕は名前を呼ばれて、壇上へと上りました。
「燃え盛る炎の中、国民二名そして子猫を救い、誰一人悲しみを迎える事ない勇敢な行動、見事であった。ゼロワンの勇姿を称え、名誉国民とする。ありがとう」
「ありがとうございます」
僕がお辞儀をすると、国王様が僕の首に勲章をかけ、また拍手が沸き上がっています。
「ウッドフォレスのクリエア地区は火事が多い地域であるが、ひとたび火事が起きれば、逃げ遅れた者の救助はほとんど例がない。火事を起こさない事、国民の皆もいっそう気を付けて過ごしていただきたい」
国王様のお言葉が終わると、マジョルドが一礼してからまた進行を始めました。
「それではゼロワンより、一言頂戴したいと存じます」
「はい。はじめまして、僕はゼロワンです。僕がこの勲章を頂けたのは、アイヴァンをはじめ、国民の皆が署名をしてくれたからです。本当にありがとうございました。国王様の言うように火事に気を付けて、何かあれば僕を呼んでください。出来る限りの事をして、恩返しをしていけたらと思います」
「ありがとうございました。それではこれにて名誉国民授与式を終了致します」
もう一度、長い拍手と僕の名前を呼ぶ数々の声が聞こえ、僕は深くお辞儀をしました。
「ゼロワン~!」
「アイヴァン、こんにちは。署名ありがとうございます」
「へへ!でも、ウッドフォレスでは本当に火事が起こると、逃げ遅れたら助からないんだ。だからゼロワンはヒーローなんだよ!」
「私達も助けていただいて、本当に感謝してもしきれません。ゼロワンが居なかったら、私達は今ここに居ないと思うと本当に…本当に…ありがとうございました」
僕が助けた夫婦は目を潤ませて、何度も僕の手を握っています。
「ゼロワン!ミーチェを助けてくれてありがとう。見て、すっかり元気なの」
「私達の家族を助けていただいて、ありがとうございました」
「みゃぁ~」
少女の腕の中でうっとりとした顔のミーチェがお礼を言っているかのように鳴きました。
「ミーチェは白猫さんだったのですね」
「そうだよ!」
「白黒の猫だと思っていました」
「灰が付いてたんだよ」
アイヴァンはそう言うとミーチェを撫でました。
「お家は焼けてしまいましたが、皆さん住むところはありますか?」
「私達は息子夫婦の家で一緒に暮らしています」
「私達はすぐに家を借りる事が出来ました」
「それならよかったです」
「ゼロワンもミーチェの事、撫でてみてよ」
アイヴァンに言われた通り、ミーチェの体を最小出力の力で撫でてみました。
いつも通り、触れている感覚はありません。
ですが、ミーチェが痛がっている様子はありませんでした。
お返しなのでしょうか。
僕の手に体を擦り付けています。
「こんにちは。あの…私達…なんと言ったらいいか…酷い事言ってごめんなさい」
アイヴァンの母親が僕に向かって深く頭を下げました。
「せっかくいただいたクッキーもあんな事してしまって申し訳なかった…」
他のお父さんやお母さんも僕に向かって頭を下げています。
「いえ、気にしないでください」
今まで山の上の博士は危険だと言い聞かされて育ってきた親御さん達の気持ちは親心というものなのでしょう。




