十話 プログラム応答停止しました
ラーニンはまた俯き、たどたどしく話した後、顔を上げるとまた流暢に話し出しました。
「ド…ドクタナ博士の作ったロボットには起爆装置が付いているという報告があります。しかし、国全てを吹き飛ばす威力の装置を機体内に埋め込む事は不可能に近いです。今よりも技術が低い時代にコンパクトで威力のある装置を作り出していたとしても国土のおよそ三分の一の大きさの装置が必要になるでしょう。しかし、もしドクタナ博士の作ったロボットがゼロワンであれば、ほとんど人間と同じロボットを作る事が出来るという事になるので、完全に不可能とは言い切れません。通常の可能性で言えば、これはドクタナ博士がそのロボットを守る為に付いた嘘ではないかという議論がされています。そして、問題となるのは起爆スイッチを押すゴーサインを誰が出すのか、そのロボット自身が出すのだとすれば、そのスイッチとなるフレーズが無いと反応しないはずです。それは何か。フレーズではないとしたらロボットの身体を改造しようとした時。まだまだ未解明ではありますが、それが僕達の見解です」
ラーニンは研究結果やその説を話す時、こうして流暢に、そして自信に満ち溢れた顔をするのかもしれません。
「ゼロワン、君の存在意義は何ですか?」
ラーニンは僕の目を真っすぐ見て問いかけました。
僕の存在意義はありません。
アイヴァンに何者かと聞かれ、分からないと答えた時のアイヴァンの反応を覚えています。
僕のプログラムは、答える事が出来ません。
「では、自分がどんな性格だと思いますか?」
性格という言葉の意味は知っていますが、僕は自分がどんな性格なのか分かりません。
性格とは個特有の感情・意思からなる行動傾向であり、僕には感情もなければ意思もないのです。
システムを辿り辿っても答えられないまま時が過ぎました。
「どうして黙っているのですか?黙っているのは何故か。答えは簡単です。君はロボットだから存在意義や性格はありません。アイデンティティの構築は様々な経験、感情と向き合ってこそ出来上がる。人間の中にも未構築な人がいるのは確かです。しかし、例え分からなくても、こういう所がある、こういう性格である、相反する事であっても部分的には分かるはずなんです。基本的にロボットは人間の性格で言わば真面目です。言われた通りに行動する事が求められているからそういった行動しか出来ません。ロボットに存在理由はあっても、存在意義はありません。ゼロワン、君は紛れもなくロボットです」
僕のプログラムは応答停止し続けています。
何も答えられるはずがありません。
だって僕は紛れもなくロボットなのですから。
ラーニンは正解しか言っていません。
「どうしまし…」
ラーニンが言い終わる前に客室の扉がノックされ、僕は扉を開けました。
「はい」
そこに居たのはマヨルとメノルです。
「お食事のご用意が出来ました」
「ありがとうございます」
「ラーニンの昼食もお持ちしますか?」
「い…いえ、ぼ…僕は食堂で…」
「分かりました」
たくさんの料理がカートのようなロボットによって運ばれてしまいましたが、僕は全て残す事になります。
「僕はこのパンだけで十分です。ごめんなさい」
「そうですか。食欲がないのですか?」
「いえ、食事は最小限にしています」
「そうなのですね。ではこちらはお下げ致します」
「運んでもらったのに、ごめんなさい」
「いえいえ、私共がお食事の量をお聞きすればよかったのです。失礼致しました」
マヨルとメノルは食事を運ぶカートロボットを操作し、部屋から運び出しました。
「で…では、ぼ…僕も…」
「はい」
ラーニンも部屋から出ていき、僕は窓の外を見ると、小鳥達が窓の外にある枠にとまっています。
僕は窓をゆっくり開けましたが、小鳥達は逃げてしまいました。
「小鳥さん、お腹空いていませんか?僕には食べる事が出来ません」
パンを小さく千切って差し出すと、小鳥達はまた一羽一羽と集まって僕の指にとまり、パンを突きました。
「美味しいですか?」
僕はパンの味もお肉の味も野菜の味もスープの味も、どんなものか分かりません。
きっと美味しいのでしょう。
何度千切っても小鳥達はすぐに食べてしまい、あっという間に無くなりました。
「ごちそうさまでした」
小鳥達は、まるでお礼を言っているかのようにピピピと鳴いて、じゃれ合いながら飛び立っていきました。
小鳥達ならば、スープやサラダも食べる事が出来たでしょうか。
「お食事、頂いておけばよかったですか?」
もし、またお食事を頂く事があれば、小鳥達さんにあげる事にします。




