天才少女と非凡少年から見る実力格差
あまりの忙しさに死んだけど、やっとかけたぞバトル回
春の朝にふさわしい爽やかな風。
大地を讃えるような青い空。
今日は全くいい天気! そして…………
「わたしの時代だー!!!!」
「うるさっ」
一瞬挟まった不協和音は無視するとして……模擬戦場に私の叫び声が響き渡る。
その声に秘められた喜びと期待は、きっと他者には絶対にわかるまい。あのきっつい勉強の日々を耐え抜き、やっと私はこの日にたどり着けたのだから!
「ククク、遂に来たか実践練習……私がこの学校にいられる理由!」
「そんなレベルなのか……」
「他の教科が壊滅的なのは認めるんだね〜……」
はいそこ幼なじみ二名! 余計なことは言わないの! 今は全てを忘れて、ただこの授業に集中しようではないか!
「そういうのを何と言うか、教えてやろうか? 現実逃避、だぞ、アデラ」
チッ、相変わらず師匠は五月蝿いな。なんだその腕組みやれやれみたいな顔は。ウザったいぞ。冒険者駆け出しで調子乗った子供みたいだ。
「ふん、いいだろう少しくらい調子に乗っても。今日は実践練習、つまりは実技なんだから。初回だからある程度の実力把握で終わるだろうが、それでも体を動かせると言う事実だけで私の日頃の勉強で疲弊した心には十分効く」
いやー、やっぱり冒険者っつったら戦闘よな、力よな! 勉学などできずともやってはいけるんだ! ソースは私!
ふふん、レベル4までに力をセーブしながらとはいえ、腐っても現役だ。ここにいる連中に負けるはずがない!!! 圧倒的実力差で敵をねじ伏せてくれるわ!!
「ふ、すまないな。先に謝っておく……私のイメージを変えてしまうことになるからな」
ここで前髪かき揚げっ! うーん、決まりました! 最っ高にかっこいいです!
「………冒険者駆け出しで調子乗ったガキみたいだな」
はい師匠五月蝿い!
◇◇◇
わたしたちがやんややんやと騒ぐのも束の間、始業の鐘が鳴ると生徒たちは皆黙って先生の話を聞き始めた。
この教科の担当の先生は、そのまま担任を務めるダージー先生が行うようだ。一番大切な教科だからよく生徒と接する機会がある人間が選ばれているのだろうか?
ダージー先生はいつも通りの間伸びした声で生徒に挨拶をして、授業についての説明を始めた。
「それではみなさん、今日は最初の『実践練習』の授業ですから、オリエンテーションも兼ねて模擬戦をやってみましょーう!」
おおっ、と生徒間から声が上がる。てか私もあげた。
ま、まさか最初から戦闘の機会が与えられるとは思ってもいなかった。まずは生徒本人の素の実力を見る、と言うことだろうか。『学園』はなかなかに大胆なことをやる。
「ふふ、皆さんに喜んでいただけたようで何よりです。やっぱり精鋭集まる我がクラスですから、みなさん強さには自信ありそうですしね!」
俄に盛り上がる生徒たちを目にして、ダージー先生はそう微笑んだ。
相変わらず身に纏う気配に対してその笑顔の柔和さが強い。ほんと、相当のベテランだなこの人は。
「なあなあ、模擬戦だってよ。 結構危なそうだけど大丈夫か?」
「んー? うーん、まあ多分大丈夫だよ〜。ロットがいないのは慣れないけど、今まで頑張ってきたもん。……それよりも、ロットこそしっかりやってね?」
「ああ、こっちは任せとけ! 対人は初めてだけど、初見相手なら十分勝てるさ」
隣からは幼馴染組二人のこそこそ話が聞こえてくる。どうやら彼らも彼らなりに自信はあるらしい。互いに笑い合いながら模擬戦について会話する様子から、それは読み取れる。
……ま、もしかしたら相手はこの二人かもしれないし、ここは二人の会話は聞かないでおいてあげますかね……
初見殺しが自慢だと言うロットに配慮して、私は意識的にそちらから意識を切った。そして、やけに憂鬱そうな顔をして一人座っている師匠に話しかける。
「で、ラニアはどうなんだ? 自信はあるのか?」
すると、ラニアは一つため息を落として目を閉じた。そしてそのまま伏し目がちにこちらを睨んで、
「当然だ、誰に言っている。寧ろ上手く演れるかの方が心配だな」
と、こちらからも自信たっぷりのお言葉が帰ってきた。
………うん、師匠は心配いらないな。てか、コイツの相手のが心配だわ。
「はいはい、まあ精々ご容赦お願いしますよっと」
私はそれに適当に返すと、手をひらひらと振ってその場を離れた。
なんかこれと一緒にいると同じ類のものと思われそうだし。
「はーい、おしゃべりはそこまでですよー。それじゃあこれから組み分けを発表しまーす。レベルごとに分けてあるので、4の人は4、5の人は5って書かれてる紙のところに向かってくださいね〜」
わたしたちの話をパチンと区切ると、先生は奥の方から大きな紙が貼られたボードのようなものを持ってきた。
見れば、それにはアデライト、だとかエインディール、だとか、名前順に並べられた各生徒氏名と試合番号が書かれている。どうやらこれがマッチング表らしい。
「模擬戦場は数に限りがありますから、数試合ずつ順番にやりまーす。試合のない子は観戦しててね〜」
そう言いながら、ダージー先生は一から三試合目までの組を呼びつけて、各模擬戦場の方に案内をして行った。
◇◇◇
既にほかの試合が終わり、残るは私の試合だけとなった。一汗流し終えた幾人もの生徒たちが、私たちの実力を計らんとして遠巻きに私たちを観察している。
そして、辺りから音がせず嫌に静まり返った模擬戦場の中、それぞれ剣と杖を抱えながらさらに一際黙りこくっている人間が、二人。
「…………………………」
「…………………………」
…………………うん?
「あー、おかしいな……この土壇場で視力が狂ったかもしれない。なんか私の対戦相手がすごく、こう……小さく見えるな」
「ふむそうか、奇遇だな、俺もだ。どうも俺の対戦相手がとてつもない年増に見えるんだが……このクラスには14,5の子女しかいないはずだと言うのになぁ?」
「「…………は?」」
──────ふ、ふふふ。
「「なんっでよりにもよって対戦相手がラニアなんだよ!!!!!!!」」
二人の魂の叫びがその喉から放たれる。
しかし、模擬戦場は張られた結界によって完全吸音となっており、その声は観客たちにまで響くことはなかった。
因みに結界が吸音なのは、外に衝撃を漏らさない為には音も吸収しないといけないとか色々理由はあるらしいがよくわからなかった。音は振動って何?
とはいえ、その逆─────つまり外から中への音はかえってよく聞こえるようになっているらしく、外で生徒たちにダージー先生が前口上を垂れているのが聞こえてきた。
「時が経つのは早いもので、もう模擬戦も最後になってしまいましたが、ラストの対戦カードは注目ですよ! 彼らはレベル4の中でも最優入学運動試験記録者の内の一人なんです! 勿論レベル5の方が強さは上でしょうけど、立ち回りや判断など、そういうものが抜きん出ているので、みなさんもそういうところを注目してみましょう!」
その言葉に合わせて、おおー、だとか、アイツが? だとか、そんな反応を返す生徒たちの声も聞こえてくる。
そして、先程以上に厳しく、強く、私たちを射抜くような視線が送られてきた。
そして、その一方で、私たちのストレスというものはどんどんと増していく一方であった。
「………だ、そうだが? 俺たちは成績が優秀だからここで生徒の手本になれというわけだ」
「はいはい、ご丁寧に解説どうも。…………私たち、入試受けてないんだけどなあ」
「まあ、大方『創世』が適当に試験結果を偽装ったのだろう。前の視察の時もそうだったしな。……こんなことにはならなかったが」
「だろうなー……」
いや、ほんと酷い話である。何故我々がありもしない試験結果に踊らされ、こんなことになっているのか。確かに私たちの実力は抜きん出ているけども、だ! それにしたって、それにしたってこれはないだろう!
「まさか、模擬戦相手が師匠とは……」
お、終わりだ……私は実技でも汚名を拝さねばならぬというのか。折角友達に良いとこ見せられると思って意気込んでいたというのに!!!
「ふっ、手加減はしてやるぞ。────精々足掻くんだなアデラ」
キーっ、悔しい! 何よりこの「まあ勝つのは俺だが」っていう顔がムカつく!
まだわからないだろ、同レベルだったら私だって良い勝負するかも知れないだろう! というか、百年近く引きこもってた人間よりも現役の私の方が強いのは自明のはずだ!
「絶対にノしてやる……」
「ふん、青筋を立てるな、顔が怖いぞ」
口角上げんな顔腹立つぞ!
と、私たちの雰囲気が一触即発になってきたところで、空中からダージー先生の声が聞こえてきた。
どうも、外から魔法でダージー先生が音を飛ばして、ここの空中を発音点にしているらしい。なんか凄いなと思いました、まる。
「えー、ではそろそろ模擬戦が始まりますが……その前にルール説明をしますね!」
ダージー先生がウキウキ声で、一つ一つルールを読み上げていく。
「一つ! 試合の開始は『教員の開始宣言』を以って行われ、それ以前の凡ゆる戦闘行動、魔法行使は禁止とする!」
「二つ! 試合の決着は『相手の降参宣言』『教員による停止命令』『結界の保護機能による強制戦闘停止』のみで決まる。それ以外の要因では試合は続行される!」
「三つ! 試合において、事前報告のあったあらゆる武器、魔法の使用を許可とし、試合内の凡ゆる行動はおよそ法の範囲内において制限されない!」
「四つ! 自分のベストを尽くしましょう! ─────以上です!! 何か不明なところは?」
私たちは首を振る。
「はい! では十秒後に合図の笛を鳴らすので、試合を開始してください。健闘を祈ります!」
その声と同時に、ダージー先生の声が消える。
そして、私たちの間にもまた集中することで静寂が走る。
これからいかにして動くか、その思考を頭の中に巡らせながら、私はゆっくりと師匠との距離を測った。
対魔法使いにおいて、距離の概念は重要だ。相手は遠距離攻撃ができる分大きなアドバンテージがあるから、私たち剣士はなるべく早く距離を詰め、懐に潜り込みたい。そうでなければ、これは戦いにすらならないからだ。
距離を積めるのに何秒かかるか、何歩必要か。それが勝敗を分ける鍵となりうるのである。
─────この距離なら……強化魔法を使えれば一歩もかからんな。とはいえ、容易くそうさせてくれる相手でもない、ここは最初は慎重にいくか……
そんな風にして大まかな試合運びの計画を立てながら、私たちは試合開始の合図の笛をじっと待って──────
ピイィィィーーー………
今、開始の合図がなった。
◇◇◇
笛が鳴った瞬間、私は素早く剣に手を──────
「!!!!!!」
かけようとして、その瞬間即座に横に跳躍した。
「どうわっ! 無詠唱か!」
今先ほどまで私が立っていた場所に、突如として尖った岩山が出現した。見ればそこには魔法陣。初っ端から相手は随分と飛ばしてきたらしい。
その構築スピードの速さは、あまりにも初見殺し。私ですら『直勘』の警告がなければ今頃あの山に突き抜かれていただろう。
「チッ、避けられたか」
こちらに手を伸ばしながら舌打ちをしている師匠が見える。
そして、こちらが交わしたとみるや否や、また即座に二つの魔法陣を投影した。
「さっさとくたばれ、アデラ!」
放たれるのは、風と炎。
右手から出現した炎の槍は左手からの風に揺らぎ、そして勢いよく火の柱となってこちらへと襲いくる。
「まだまだ試合は始まったばかりだろう。もう少しくらい粘らせろ!」
私はそれを先の跳躍で崩れた体勢をさらに前へと倒すことで回避。そして倒れた後師匠の風魔法に乗って勢いよく地面を回転し、ひとまず師匠との距離を離した。
まあ、本当は近づきたいところだったが現状は師匠に隙がない、ここは距離あけて機を窺うことにする。なあに、所詮一歩分なのには変わりない、誤差だよ誤差。
──────ていうか、普通は魔法の威力って使用魔力量と詠唱時間と魔法陣の緻密さの掛け算じゃなかったっけ? 無詠唱でこの威力ってどんだけの魔力だよ!
あまりにも飛ばしすぎな師匠に心の中でツッコミを入れる。
いや、勿論無詠唱の絶え間ない魔法攻撃により相手と距離を取るのは魔術師の定石ではあるが─────それにしたって、だ。そんなに私と試合したくないか!
微妙にイラッときたが、今は戦闘中だ。ここは冷静になろう。激情に飲まれたやつから死んでいく、冒険者の常識である。
……よし、落ち着いた。
さて、兎にも角にも強化魔法だ。それがなければまず近づくこともできんし勝負にもならん。選択肢を増やす意味でも、まずはそこからだ。
私はそう結論し、相手に聞こえない程度の声量で小さく詠唱をする。
「走る風よ、我が友よ。汝と共に大地を駆け────」
「させるか! 『不惑の芯』!」
しかし、さすがは師匠。ここは瞬時にこちらの行動の意図を読み、私の方へ短縮詠唱で超高速の光線を放ってきた。
私はやむなく詠唱を中断、これを躱して師匠の方を睨みつける。
「ぐっ、なんでバレた!」
「バカが、魔力の流れが見え見えなんだよ!」
なんじゃそりゃ! 剣士は知らんぞその概念!!
くそっ、こんなことならもっと魔法勉強しとくんだった……いや今してるわ。学園だわここ。
「お前の狙いは読めた……ならば詠唱の隙は与えん、無詠唱で一気に叩く」
師匠がそう宣言すると同時に、私の周りに大量の薄氷が展開される。そしてそれが分割され細かな「矢」となって私に襲いかかった。
「がっ、い、痛いぞ!」
私はそれを手にしている剣で捌いていくが、それにしたって限界はある。いくつか落とし損なった氷は私の体に刺さり、その痛みが顔を歪ませる。
いくら詠唱なし魔法陣なしのクソ雑魚魔法とはいえ、氷は氷。痛いもんは痛いし寒いもんは寒い! 私の体力は徐々に削られていく。
ま、まずい。このまま削り倒されるのはいかん。そんなことになれば私の成績が完全に終わってしまう。イリト様のご期待に沿うためにも、何かせねば!
降り注ぐ氷の礫の中で私は必死に頭を働かせ、そしてこの状況を脱する策を思いつく。
そして、その作戦の精査も済ませぬままに即時実行した。
「うおおお! 我流剣術、『登竜門』!」
「なっ!」
私は一瞬の攻撃の隙間を『直勘』で見出すと、その瞬間に剣を空へ突くように差し出しながら回転跳躍、自身を囲う氷を全て吹き飛ばし滞空する。
「しまっ……『不惑の芯』!」
それに焦ったのは師匠。攻撃の届かない遥か遠くへと避難した私を動かせまいと再び高速の光を放つ。
だが、そんな既出の雑魚魔法に二度もかかるほど私も馬鹿ではない。先程のうちに見切っていたそれを剣で華麗に弾き飛ばした。
私は間合いの外、最速の魔法たる『不惑の芯』も間に合わない。
もはや、師匠に打てる手などなく……あとは模擬戦場には私の声が朗々と響くのみ!
「走る風よ、我が友よ。汝と共に大地を駆けるはこの双脚、『俊足強化』!」
私は、先程は邪魔されたそれを今度こそ唱え切った。
魔力の輝きが私の両脚を照らす。
煌めくそれが、私の身体を強化したことを告げている。
そして、師匠が射程圏内に入ったことを!
「すまんな、ラニア────私の勝ちだ」
「……まだ何もしていないくせによく吠える」
ふん、何かした時がお前の終わりなんだよぉ!
「行くぞ……ラニアァ!!」
私は足に纏ったその風を解放して、超高速でラニアの元へと突っ込んだ。
そのスピードは目にも止まらぬもので、師匠が迎撃に用意した魔法の悉くを遥か後ろへ置き去りにする。
「……チィ、迫る敵にこそ引導を渡したまえ」
「詠唱が遅いな、間に合うとでも思ってるのか?」
師匠が詠唱を始めた瞬間には、私はすでにその背後。
柔らかく着地をし、その身を屈めた体勢のまま剣に手をかけて ─────
「別て、『光陰如箭』」
「省略詠唱、『免罪と冤罪の札』」
────振り抜いた。
◇◇◇
二人は完全に静止している。片や剣を相手の首筋に押し当てながら、片やその剣を凝視しながら。
そして、何より目を見張るのは────
少女の体には、無数の鎖が巻き付いていることであった。
「……………で、どうするアデラ。何か策は?」
師匠が剣から目を離し、私の方を向いて言う。
その顔は若干呆れ顔であり、そして完全な敗者を蔑み笑う目であった。
当然、私にもはや打つ手など残されているはずもない。
故にこそ、私はその眼差しを甘受するしかなく────
「……ああ、降参だ」
そう、この試合の終了を宣言した。
・模擬戦場
『学園』の施設。その外観はさながらコロッセオであり、人と人の戦闘訓練が日夜そこで行われている。
注目すべきはその結界であり、『学園』が誇る超巨大術式によって維持されているそれは、範囲内にある全ての衝撃を外に漏らさず、そして『人の死につながるあらゆる行為を停止』させる効力がある。
故にこそ、それは生徒たちの安全を保障する最高の装置として用いられ続けており、彼らもまた心置きなく殺し合いに興じることができる。
……が、別に怪我をしないわけではないので普通はだれしもある程度の遠慮はするものであり、何の躊躇もなく相手に攻撃をする二人は若干引かれた。




