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天才少年と非凡少女から見る知能格差


 雑踏賑わう昼休み。適当に昼食を済ませた私たちは、今日もいつも通りに一緒に集まって駄弁っていた。



「そーいえばさー、なんでラニアってそんなに頭いいんだ?」


 突然、ロットがそんなことを言った。入学後、最初の学年共通の小テストがあった日だった。

 そのことに反応した師匠は、怪訝な顔をしながらロットの方を向く。

 尚、師匠は常に座っているので、立っているロットを見上げる形になった。ここらへんの仕草はとても子供らしい。演技らしいけど。


「……なんだ、藪から棒に。失礼なやつだな」


「ん────あ、イヤ、純粋な疑問として、だよ! 悪気はない!」


 師匠の鋭い眼光に怯んだのか、ロットは取って付けたような言葉を並べる。

 ずいぶん慌てているようで、ブンブンと手を振って否定を繰り返すその姿は少し滑稽にも映った。


 私がそれを見てクスクス笑っていると、彼に気づかれてしまい酷く恨みがましい目でこちらを見てきた。何かしらの呪いがこもってそうなほどである。


 ……ま可哀想だし、流石に助けてやるか。


「そんなに睨んでやるなよラニア、お前成績いいんだし、嫌味じゃないのはわかるだろ」


 私はラニアの方にポンと手を置くと、彼を静止するように言った。


「ほら、あんまり虐めるとへんな噂立っちゃうし」


 その言葉に対して僅かに師匠は体をこわばらせる。それから暫く考え事をして、仕方なさそうに矛を収めた。


 師匠、普段の行いのせいで微妙に怖い人認定されてんだよなぁ。この前のチェスとか成績とか口調とか合わせて、ヤ○ザ出身かと疑われているらしい。完全に自業自得ザマァ!


「死ね」


 ひぇぇ


「……アデラちゃんは、もうそれやめたら?」


「いやぁ、これが私たちの交流だから」


 レベル10への尊敬が皆無になる位には師匠と付き合ってるのさハハハ。


「…………まあいいだろう。で、何だロット?」


「あ、ああ。いやなに、普通に疑問っていうか、確かラニアって田舎の普通の家生まれって言ってただろ? その割に勉強できるからさ」


 そう言って彼は師匠の成績表を指差した。

 そこに堂々と並ぶ一桁の数字は、彼の学年順位。そしてその隣にある燦然の輝く98の文字は、彼の今回のテストの点数である。


 前も話したが、今年『学園』に入学した人間は間違いなく五桁はいる。そしてこの受験成績が優秀だった人が入るクラスにも4,50人がいるのだ。それを加味すると、確かに一桁というのは庶民にしては高すぎる。

 いくら何でも、多少努力した程度で平民がとっていい点数ではないのだ。


「なるほど。つまりお前は俺にどんな学習をしてきたんだと言いたいわけか」


 くだらんことを気にするやつだ、と師匠はわざとらしく肩をすくめる。

 その様子にロットは少し申し訳なさそうに目を泳がせたが、しかし話すことは止めない。


「だ、だってそうだろ? 俺とエリアだって平民だけどさ、相当努力してなんとか特進クラス(ここ)に入ったんだ。あと少しミスしたら一つ下に行く所だった。なのにラニアはそんなだろ? ちょっとくらい気にもなるさ」


 なあ? と言って、彼は隣の幼馴染に助け舟を求める。

 すると、彼女もまた同様に頷いた。


「ロットの言うとおり、確かにラニアくんはすごいよね。魔法も上手だし、頭もいいし……本当に平民なのが不思議なくらい! 平民の子がここにきたら、強さは別だけど普通成績はアデラちゃんくらいになる────あー、それは言い過ぎ? でもそれくらいになるんじゃないかなー?」


 ヴッ(メンタル攻撃が刺さる音)


 は、ははは。可愛らしい顔でずいぶん鋭い攻撃をしてくれる。

 ちょっーとクラス順位がぶっちぎり最下位だったから何なんだね? その程度、かすり傷さ! 掠った場所は心臓だけど!


 私は空元気を振り絞り、平然とした様子で立つ。と、それを横目に師匠が一言。


「………まあ、俺もなぜアデラがここなのかはよくわからん。強さだけが取り柄なのによく来られたなとは思う」


「ほざけよラニア(クソ野郎)


 ────え? 何二人ともその顔? なんで(否定できない……)みたいな感じなの? してよ。友達でしょ!?


「アーアー、顔がうるさいぞアデラ〜」


「いやどう言うこと……おい耳塞ぐなよ」


 クソッ聞こえてないか。

 ………まぁいいや。取り敢えず話戻そう。


 私は深呼吸をして額からシワを消し去ると、師匠のフォローをすることにした。


「ラニアは昔から勉強が好きなやつだったからな。私からすれば断然ダンジョンの方が娯楽的だと思うんだが、こいつときたらやれ研究だやれ本寄越せだ、よくわからんことを言っていた。まあ、才能あるんじゃないか、勉強面に」


 そう言って私は気だるげな風にため息をついて、頭をかいた。ロットやエリアもへぇーと言って私の言葉に納得している様子である。

 まあ、才能とかなんとか、そう言う言葉は結構人を惑わす力がある。言い訳には使いやすい言葉なのだ。個人の意見だがな。


 ──────あ、ちなみに今のはもちろん全てイリト様作成の虚偽である。私は師匠の幼少期など知らん。

 師匠が優秀なのは単純に彼がレベル10の知識人だからで、そこに他の理由などありはしない。人間二千年も生きれば案外なんでも知っているのだ。

 ……実は本のところは準備期間で知った事実だけど。コイツすごいいろんな本を読むんだよなぁ。実験とかもやってるし、一応レベル10として働いてはいるっぽい。その割に名前は聞いたことないから、所詮趣味止まりなのかもだけど。


 と、そこで師匠もやっと耳から手を離し、会話に参加してきた。


「まあ、アデラの家はドがつく貧乏一家だったからな。本の価値がわからないのも無理はない。一日中ダンジョンに潜ってるようなやつとは()()が違うんだよ」


 そう言って、「ココ」の時に頭をトントンと叩きながら師匠は笑った。いや嘲笑(わら)った。


 一瞬ブチギレそうになったが、私はなんとかその激情を抑え込む。

 そして上がりかけた手をゆっくりと下ろして、話を続けた。


 ちょっと向かいのロットが体を跳ねさせていたが、それは気にしないことにした。


「ウチが文無しなのは反論しない、事実だからな。そのせいで生きる道もほぼ冒険者しかなかったし」


 私はそう言うと、しかしちょっと決まりが悪くなってそっぽを向いてしまった。

 もちろんこの情報も(貧乏ってこと以外)嘘だし別に何と言うわけではないが、これしか道がなくて、なんて進んで冒険者を目指す彼らに対してこの言い方は失礼かと思ったのだ。

 実際貧乏家にはそのくらいの道しかないし、それを取り繕う意味もないが……一応彼らはある程度の裕福さがある家庭で育った子供の様だから、そう言うことには配慮してあげたかった。


 しかし、二人はそのことに何も思わなかったようで、特に怒られる事もなく話は進んだ。ホッ。


「あー、でも確かに、あんまり家が金持ちじゃない様な人が冒険者(こっち)には多いってのはよく聞くな。だからこそ『学園』は無料の施設として開かれてるんだし」


「アデラちゃん、結構大変な人生送ってきてるんだ……」


 ロットとエリアは、私の言葉に対してどこか同情の心が込められている様なことを言った。

 そのことに気づくと、わたしは少し変に思えて、すぐにそれを否定した。


「いや、別にそこまでじゃなかったさ。何も私が嫌々で冒険者を生業に選んだわけじゃない。さっきも言ったが、この仕事が一番面白いと思えただけなんだ。……まあ、才能もあったしな。今はこの道を行くことを誇りに思ってるし、幸いラニアの家の人にも良くしてもらえてるから、大変だなんて思ったことはないよ」


 私は三人を前にそう言い切った。これは、私の本心である。


 勿論初めは賢者の石を回収して不治の病を治療することが目的だったし、それは今も変わらない。何度我が家が貧乏でなければと思ったかもわからない。

 だけど、私は私なりに今を生きていられている。それに何の因果かレベル7なんかになって、若くしてベテランと言われる領域にまで至ることもできた。

 多分、私には冒険者が向いていたのだろう。だから、私は今自分のことを誇っていられる。目的(ちりょう)を果たせていない以上幸せとはいえぬまでも、運命を呪う様なことは何もないのだ。


 ────と、ちょっと本心が漏れ出たせいで設定と微妙に齟齬が出たかもしれないが、とにかくこれが私の気持ちである。

 だから、二人が過度に憐れむ必要も、労う必要もないのだ。


 私のその様子から、今の言葉が本心だと読み取れたらしい。エリアとロットは息を呑んで私を凝然(じっ)とみつめている。それから感心した様に声を上げると、優しく微笑んだ。


「いやー、アデラはすごいな。俺そんなに自信持って生きてこれなかったよ。ちゃんと前見据えてるんだなぁ」


「しっかり芯を持ってるの、かっこいいと思うな。私、アデラちゃんのそう言うところ好きだよ」


 ─────お、おお。なんか急に褒められると照れるな。私が芯を持っているのは単に二人よりも長く人生を送っていることに尽きると思うのだが、そのことを称賛されて複雑な気分だ。こっちは好きなことして自己満足で生きているだけなんだが。


 と、私がかすかに頬を赤らめていると、師匠から突然に横槍が飛んできた。


「その割にお前は成績悪いんだから、もっと勉強した方がいいんじゃないか?」


 その言葉は踊る火の玉ストレートの様に豪速球で突っ込んでくると、私の腹を抉る様に着弾した。

 上げて落とす、他人を馬鹿にする時の基本である。


 コ、コイツ! さっきから何をつまんなそーな顔をして話聞いてるんだと思ったら、ずっとそのタイミングを測ってやがったのか!!

 ええそーですよね、2000歳越えのレベル10様から見りゃこの会話は腐る程目にしてきた様な会話でしょうね!!!


 私はその煮えくりかえった(はらわた)をそのままぶちまける様な勢いで師匠のことを睨む。


 くそっ、二人の(それはそうだな)みたいな顔が痛い! さっきのこの空気感やっと払拭できたと思ったのに、また復活させられた!!

 こ、ここは兎にも角にもこの状況を覆さねば。会話の主導権を我が手に! カームバックマイワーズ!


「ま、まあ? 次のテストは結構先めだし、あんまり気にかけずに行こう。ほ、ほら、今は最初の実践練も近いから──────」


「「「いや、勉強の方がいい」」」


 おおう、一瞬で否定された……


「それはそうだろ、授業初回の基本のキすら分かってないくせに、何悠長なこと言ってるんだよ」


「流石に好きなことだけやっていられる状況じゃないと思うな……」


「己を誇る前に先ず恥を知れ、無教養人が」


 三者三様の責め立て句が一丸となって私の元へと襲い掛かる。

 そして、私には当然避ける術もなく全て直撃、私のメンタルは大ダメージ。


 ボロボロに殴られ果てた私は、ガクリと膝から崩れ落ち、そして言った。


「フッ………勉強は────マジで無理なんだーー!!!!!」


 それは、私がこの数日で放ったうちの一番の咆哮であった。


よく見るとラニアは最初の質問に答えていない。ちゃんと話題逸らしが有効に働いている証拠。



・アデラとラニアの学力


正直に言って、アデラの方は良好とは言えない。彼女の設定は固有名詞やわずかな生活感は捏造されているが、演技が下手な彼女のためにほぼ史実通りのものなので、彼女はほぼなんの勉強もせずに生きてきた。寺子屋的なのにも言ってない。よって、非常に馬鹿。決して頭が悪いわけではないが、教養皆無、本読めない云々色々重なって、徹底的な知識不足がおきている。

一方ラニアは実は彼もあまり出自は彼女と変わらないのだが、なんやかんやで長生きしていて科学者まがいのこともしてきたので知識はあり起点も効く。非常に優秀。

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