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レベル10なんてそんなもの


 空気が凍てついている。勿論、魔法で、とかではなく、比喩として。


 本当に汚らしいものを見る時の顔をした『恒常』と、彼を前に全く悪びれることなく笑う『創世』。そんな二人が、揺らめくランプの炎越しに睨み合っていた。


 この状況で先に口を開いたのは勿論、話の主導権を握る側────即ち、『創世』の方であった。


「でー? ご友人ができたことについて、もう少ーし詳しくお話していただきたいのですがー、よろしいでしょうかぁ〜??」


 挨拶の時にも見せた様な相手をおちょくる様な声色で、彼女は『恒常』へと話しかける。

 ただ、一つ違うところを挙げるとすれば、言葉をかけられた側は本気でイラついている……つまり、これは形式ではなく、本当の揶揄いであると言うことだ。


 そして当然『創世』も『恒常』もそれはわかっていて、だからこそ、挨拶の時の様に大きく動くことはせず、こうして静かに相手の出方を伺っているのである。


 ──────まあ要は、彼らは本当に性格が悪いと言うことだ。



 彼女の言葉を聞いて『恒常』は、しかしここで取り乱すことはしなかった。

 そんなことをすれば自分は彼女の術中にハマると言うことをわかっているからである。伊達に千年を超えて友人をやっているわけではない。


 彼は一つ舌打ちをしてから、深く深呼吸をした。それからゆっくりと壁に預けた背を壁から離す。そのまま彼は『創世』をじっと見つめた儘、彼女の正面に歩いていった。


「……別に、話すことはない。その報告書にあることが全てだ。アデラの友人らに興味を持たれ、俺が断りきれなかった。急な離脱も不自然だろうから、仕方なくな」


 彼はその記憶を苦々しげに話し乍ら、部屋の端に置かれている椅子を彼女の正面へと引っ張ってきた。いい加減、突っ立って話すのは良くないと考えた様である。

 そうして、椅子を手頃な位置にセットすると、彼はその明らかに大人用の高級そうな椅子に腰掛けた。それから無礼にも足と腕を組み、『創世』を見下す様に顎を上げた。


 その様子は、どこからどう見ても子供が見栄を張っている様にしか見えない。……しかし、なぜか彼が放つ威圧感から、その姿は(さなが)ら皇帝かの様に見えた。


 だが、その程度に怯む様な『創世』のはずもなく、彼女は平然と話す彼を鼻で笑う。


「いやー、そりゃーそうだけども。でもでもー君の力とか性格を鑑みれば…………ぜっっっんぜん似合わないよねーってなるわけー!!!」


 そういって、彼女は大声で下品な笑い声をあげる。その様子があまりにも性格が悪く見えるので、『恒常』は僅かに顔を顰めた。

 相手を煽る時の彼女の声や表情は、本当に他者の感情を逆撫でするのである。


 勿論それを承知の上で、彼女はどんどんと話を進める。

 そして、それに腹を立てた相手がさらに応戦し、二人の会話はどんどんとエスカレートしていくのだ。


「ねぇ、『恒常』くぅーん。オネェさんに教えて欲しいんだけどぉ、君ってぇ、いつから青春楽しむ系の人間になったわけ〜? 世界最大のコミュ障たる君が、さー!!!」


「…………ふん、盛った娼婦の様な声を出すな痴れ者。先ほどから言っているだろう。俺は別に友人が欲しくてこうなったわけではない、と」


「おっと、『恒常』君。職業差別はいけないねぇ。時代は変わった。今は娼婦だからって卑しいわけじゃないんだゾ! ま、それを知らないのはやっぱり君がコミュ障だからかな????」


「ハッ! 勘違いするな、俺は何も人との交流に問題があるわけではない。ただ、そこまで人間に興味がないだけだ。それこそ、ずっとここに引きこもっているお前の方がよっぽど人見知りの孤独者だろう」


「あらー? 今のすっごく言い訳っぽかったわよん? もー、意地張らないの! それに私はちゃんと魔法でいろんなところに分体飛ばしてるのよー、交流してるのよーん!」


「ほぉ、引きこもりというところは否定しないのだな? やっと認めてくれた様でありがたいな」


「あら? 私よりも生粋の引きこもりに言われたくありませーん。数十年に一度しか俗世に降りてこないくせに〜」


 度重なる罵詈雑言の応酬。そして煽りに触発されどんどん上がる二人のボルテージ。あまりに彼らの迫力が凄まじいせいで、二人の間にある空間はもはや荒れに荒れている。そこに置かれたランプの炎が、どちらにつくともせず、左右に揺れ続けていることからも、それがわかる。


 だが、勿論そんなことを二人が気にする余裕があるはずもない。どちらもさらに勢いを増し、相手の心を逆撫でし続ける。


「お友達なんか作ってもムーダ! どうせすーぐ愛想尽かされちゃうでしょうねー! ほら君、社不ジャーン? 性格悪悪ジャーン!?」


「ははは、その言葉そっくりそのままお返しするぞ『創世』、いや、このアバズレが! 他人にこれほどまでの暴言を吐けるとは、尊敬に値するな!!!」


「それ、あなたに言われたくないんですけどー。ていうか、どっちかというとこの口調は『恒常』君のが感染ったものなんですけどー!? ああ、幼気な少女の心が踏み躙られた1500年前(あの日)……私は忘れてないわ!!」


「誰が少女なものか! あの時既に貴様は見た目が若いだけで八十はあっただろう! 俺が感染したのは口調だけ、その心根は確かに自分自身のものだ!」


「はあー!?!? 人格否定とかありえなー!!!」


「貴様の剽軽の性など、俺が否定するまでもないがな!!!」


 そして、二人の興奮が最高潮に達したその時だった。


 パリィィン!!!


 大きな音を立てて、ランプが砕け散ったのである。

 それによって火が消え、部屋からは完全に灯りがなくなり、『創世』の背後から差し込む星の光が浮き上がる。


 その冷ややかな光に当てられて、二人は漸く冷静になった。


「………ちょっと、やり過ぎたかしら?」


「ちょっと、ではないな。やりすぎだ」


「「………………………」」


 二人の間に気まずい沈黙が流れる。それから二人は、所在なさげに窓から見える星の方をチラチラと見た。

 そして、また改めて二人は向き合い──────


「ま、今日はここでお開きってことで……」


「ああ、まあ、そうするか………」


 二人は、そのまま何となく、別れることにするのだった。


 ◇◇◇


 『恒常』が帰り支度を整えて、扉の方に体を向けかけた時、『創世』は若干気まずそうに彼に話しかけた。


「あー、『()』、開けといたから。多分()()()()()()()()()()()()()()()()()


「………ああ、分かった」


 すると、これまた『恒常』の方も、若干気まずそうにぶっきらぼうな返事をする。


 星の光に照らされた部屋で、二人の不思議な会話は続く。


 窓から離れた、暗がりのドアの方へと歩く小さな少年。その姿を、紅色の瞳でじっと見つめる女性。二人の間に流れる微妙な空気が、なんとも言えない世界を作り出している。


 だが、その世界を崩したのも、またその女性、『創世』であった。


「ねえ、『恒常』」


 その声に、少年は僅かに身を強張らせ、それからドアノブにかけかけた手を止め、振り返る。

 すると、星々に照らされ自らの赤い髪を輝かせた『創世』が、その毛先をいじっている姿が目に入った。


「なにか、まだあるのか」


 少し身構えながら、彼は『創世』に問いかける。

 しかし、その様子に反して、彼女は今までにないほどに穏やかに彼に応えた。


「私、結構真面目に驚いたのよ、あなたに友人ができたこと。()()()()()から、『恒常』という人間は、すっかり人と関わる気力を失ったものだと思ってた。…………それがまさか、弟子と、形だけとはいえ友人まで作るなんて……ほんと、気が狂ったのかと思った」


 ただ、率直な感想として、彼女はつらつらと言葉を紡ぐ。

 その内容に『恒常』は多少の不快感を覚えるが、しかしそれでも、その内容が正論であり、また悪意がないことをわかっているから、彼は何も言わない。


 そして彼女の言葉につづける様に、彼は自身の言葉を続けた。


「俺は狂ってなどいない。それに、人嫌いでもない。日々は充実していたし、今もしている。厭世のきらいがあったのは、案外あの生活が暇しなかっただけだ。俺は、今も昔も、かわらんさ」


 彼は、そう無表情で言い切った。

 その言葉を、『創世』は素直に受け止めていない様だったが、それでも、彼女は今はそのことに触れるべきではない、として、ただ純粋に笑いかけた。


「あなたがそういうのなら、いいわ。まあ、精々慣れない学園生活に四苦八苦すればいい。そのコミュ障も、少しは治るかもね」


「………だから、俺はコミュ障ではないと言っているだろう」


 そう言って、『恒常』は彼女の言葉に笑い返す。そして、部屋の扉を開けた。


 そして今にも部屋を出ようとしたその瞬間、急に表情を険しくした『創世』が、『恒常』へ一言かけてくる。


「でも、それなら一つだけ、忘れないほうがいい。この世には、恒常的なものはないんだよ、あなた(・・・)()()()()、ね」


 その言葉を聞いて、一瞬その足を止めた『恒常』だったが、すぐにまた歩き出した。「それこそ、釈迦に説法というやつだろう」と、ポツリと呟いて。


 ◇◇◇


 パタリ、と扉の閉じた音が聞こえる。

 そして、外にあるはずの廊下から、コツコツと彼の足音が鳴り聞こえてきた。


 私は自らの椅子から立ち上がり、そのまま部屋の窓のそばへと歩み寄った。


 窓から見える、美しい星々を眺めながら、私は少し愚痴の様な声色で独り言を漏らす。


「まったく、あらゆるものからの干渉を受けず、永久に朽ちない。故に『恒常』なんて………ほんと、面倒な固有魔法よね〜」


 まあ、それを甘んじて受け入れてるアレも、擬似的にそれを再現するレベル10(私たち)も、相当な物好きなのは、確かだけどさ——————


 そんなふうに言って、私は自嘲的に笑った。



・固有魔法『恒常』(レベル10の場合)


自身を除くあらゆる他者、他物からの干渉を受けず、また能力発現時の状態を基準としそれを保ちつづける。

圧倒的な恒常性、それ即ち、ある意味での永遠性である。

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