「その話詳しく聞きたいから来て!」
すごく短い。でも続く。
「ヘローヘロー、よーくきたねー『恒常』くん!」
「ああ、態々来てやったぞ『創世』、感謝しろ」
「フー、態度わっるーい! クソガキかよー!!」
扉が開かれるなり始まる煽り合い。大きく体を使って相手を馬鹿にする煽りは、実に幼稚で、ばからしい。今時子供でもそんなことはしないだろう。
だが驚くべきことに、当の二人は子供どころか、世界でも有数の富、権力、名声を手に入れているはずの、最高位冒険者である。(片方は見た目が子供だが)
そう、他の人間が知れば酷く失望するかも知れないが、これこそがレベル10冒険者なりの挨拶の仕方なのである。
事実として、煽り合いをしている間の二人の表情には特段変化はない。あくまでこれは相手に悪意を持ってやっているわけではなく、寧ろ信頼の表れであることを知っているのだ。
……勿論、そこに相手への好意がある、ともなりはしないが。
「────ハァーー、全く酷い挨拶だ」
一通り煽り合いを済ませると、『恒常』は大きく息を吐くような声を出した。部屋の空気を通常通りに切り替えたのだ。
『創世』はそれに気がつくと、突然に今までのふざけ顔をやめ、ボスと音を立てて椅子へと腰掛ける。その表情は変わらず笑顔であったが、ふざけているというよりも、面白がっているという言葉が似合うような顔をしていた。
その流れはどうも典型化されているらしく、どちらも特に滞りなく、煽り合いは終了した。
そして漸く、暗く、『創世』の机上に置かれるランプだけが明確に明かりとなるその部屋で、漸く二人のレベル10が相手へと向き合う。
そこで先に動いたのは、『恒常』だった。
「────それで、この深夜に一体何の用だ。報告書は提出済み。俺にはもう話すことなどない。だというのに、なぜ直接来いなんてことを言う?」
『恒常』はその背中を部屋の右側に設置された棚へと預け、不満を漏らすようにそう言った。その声色は苦々しいものであり、ランプが照らし出す片側の顔の表情からだけでも、十分にそこに込められた想いが理解できる。
「まあまあ、気にしなーい気にしなーい! 私のが偉いからいーの!」
だが、『創世』の方はそんな感情の機微などどうでも良い、と言わんばかりの無神経な大声で話を続けた。
というよりも、煽り合いが終わってもこの調子ということからわかる通り、彼女の本性はこれなのである。いつでもふざけた様な人間性こそが、彼女の素だ。
そして、その通りのふざけた様子で、彼女は『恒常』に笑いかけた。
「ほら、だって、報告書の中にすっごく面白そうな情報が入ってたからさー、これは直で聞かねばと思ったわけ」
そして最後に、ほら、わかるでしょ? と『創世』は付け加えた。
その言葉を聞き、『恒常』はすぐに顔を顰める。その内容に思い当たり、同時、自分が大きなミスを犯した、ということに気がついてしまったのだ。しかし、それを素直に認めるというのも癪なため、一縷の望みに欠けて彼はそのまま平然としていることにした。
案外、彼は意地っ張りである。
「ふん、面白いことなど、俺は書いた覚えはない。俺はただ今日あった主要な出来事を纏めただけだ」
そう言って、彼は表情から悟られぬよう少し顔を逸らす。
「は? そんなわけないじゃん。面白すぎて二度見したよ、私」
だが、『創世』は彼の言葉を即座に否定した。『恒常』はあまりの速度に、僅かにランプの火が揺らめいたのではと錯覚する。というか、実際その語気だけで火を揺らしていた。
彼女の強大な力はそれほどのことが可能なのである。
一方、ノータイムで自分の言葉が否定されたために『恒常』の表情が僅かに曇った。しかし、ここでミスを認めてしまうのはプライドが許さないので、それでも彼はそのまま諦めずにシラを切り通そうとする。
「何のことだかわからんな。具体的には?」
さも何事もないかのように肩をすくめる『恒常』。その声色は全くいつも通りのもので、アデラや見ず知らずの人間ならば、そのまま誤魔化されるかもしれない程だ。
しかし、勿論それが付き合いの長い彼女に通じるはずもなく、『創世』はサラリと答えた。
「そりゃ君────「友人が二名出来た」、そうじゃないか?」
そうして彼女は、相手を弄る気満々の、一見温和な、しかしよく観察すればすぐにその悪辣さに気がつく邪悪な笑みをその顔に浮かべる。またそれに伴って、どんどんと『恒常』の表情の曇りは増していく。
ランプの灯りで微かに照らされた彼女の笑顔が、彼には悪魔の様にも見えた。
どうしてもここで切りたかったので、無理やり二部構成にしました。お許しください。




