表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/20

ラニア君のお仕事


 少年、ラニアタイトは、ひどく退屈そうな顔で外を眺めていた。

 外、とはいえ『学園』のではなくあくまで教室棟のだが、しかしそれでも、退屈凌ぎになるのには間違いなかった。


 外では、おそらく一つ学年が上の生徒たちが、肉体増強のトレーニングをおこなっている。例えばある者は何周もトラックを走り、またある者は、魔法の連写による反復練習を行なっていた。

 高く登り始めた太陽に、入学式から少し立ち僅かに夏の陽気を帯び始めた空気、それらが必死に汗を流す生徒たちへと脅威となって襲いくる。

 だが、彼らは笑っていた。訓練中は授業中でも私語の許可があるし、なにより冒険者を目指すようなものにとって、体を動かすということは楽しいことであるからだ。それ即ち、強くなれるということだから。


 当然、誰もがそれが楽ではないことは知っている。結局やってみると、やっぱりいいや、と思ってしまう類であることも、もちろん。しかしそれでも、人間とはそう言う自由に突然憧れる者なのだ。理屈と理解を超えて、ただぼんやりと思われてしまう者なのだ。


 ────ああ、今の状況よりはマシなんじゃないか? と。無根拠に妄想できてしまうのだ。


 そして少なくとも、教師が話す内容を静かに書き取るだけのこの教室内に比べれば、ラニアにはそこはとても活気がある世界のように見えたのだ。


 ◇◇◇


 有体に言えば、ラニアはこの視察に対する意欲がなかった。


 そもそもここへきた動機も、いい加減に行かないと『創世』が切れるかも、という他者依存のもので、自分からいこうと思ったわけではない。アデラというイレギュラーで、行く理由が例外的にできてしまったに過ぎないのだ。

 当然これも、他動的に。


 だからこそ、彼はこの仕事にやる気が起きなかった。


 仕事は仕事であり、またこの施策へは賛成の意を示しているために、ラニアとしてはやるからにはやる、という気持ちでいるのだが、しかし退屈な者は退屈。


 独学で冒険者として大成したらしいアデラならまだしも、ラニアは真っ当な冒険者だ。しかも、2000年前から存在する大ベテランである。ここの話など、とうに知っていることどころか、自分が提唱した理論だって存在するのだ。

 そんな中で、授業に関心を持ち続けろ、なんていうのも酷な話である。


 しかも、彼がここへきたのは初めてではなく、授業ももうかれこれ二回目である。

 既存のことをなぞることほどつまらないことはない。それが、強い好奇心、探究心を持つ研究者でもあるラニアなら、なおさらだ。


 もはや、ラニアが授業を真面目に受ける理由などなかった。

 アデラが真面目にやるだろ────なんて他人任せにして、学校関係のことは全て彼女に任せるつもりだったのである。

 その間、彼はアデラの修行法や学校施設の利便性確認など、実務的なことをしようかと予定していた。


 …………していたのだが。

 まあ、残念ながらそうはいかなくなってしまったのだ。


 その理由は、至って簡単。『創世』の命令である。


 授業が始まるその前日、ラニアの寮室に一枚の密書が届けられた。(彼女の魔法によってテレポートさせられているので、「現れた」が表現として適切だが)

 曰く、「君はいつか絶対サボりだすので、その一日に受けた全ての授業一つ一つに対してのレポート作成を義務とする。レポートの提出期限は翌朝」とのこと。


 当然、こんな無茶な指令を出されラニアは怒った。抗議もした。「アデラが週一のまとめレポだけで、かつ期限も翌週までなのにこれは横暴だ」と。

 しかしそんなことを『創世』が取り合うはずもなく、レベル10なんだからと全ては無慈悲に却下された。しかも抗議の手紙をラニアがテレポートさせた二秒後、彼の目の前に直々に姿を表して。


 そうして、ラニアは全ての授業を真面目に評価しなくてはいけなくなってしまったのだ。

 ちなみに、そのことを彼は「授業をしている教師が知ったら、とても震え上がりそうな監査方法だな」とぼんやりと思っていた。現実逃避である。


 だが、実際それはラニアの言う通りで、自分の知らない間に、レベル10クラスの人間が授業を評価していた、しかもこれから一年ずっとそう、など、人によっては恐怖で夜も眠れぬ人がいるやもしれない。

 一体どんな失態を冒しているか、自分でも判った物じゃないからだ。


 まあ幸いなのは、彼らは絶対にその事実を知ることはなく、またレポートも閲覧するのは学園長(『創世』)だけということだろう。

 将来副学園長にでもならなければ、彼らは生涯でその事実すら知ることなく骨を土に(うず)めるのだから。


 無知な子羊たちを、ラニアは哀れに思った。だが、同時羨ましくも思った。知らないとは幸せだな、と。

 と、ここで、ラニアはその考えに驚いた。知恵者、あるいは研究者として生きる彼は、知らないことが時には防具となるなど、想像をしたこともなかったからである。

 知恵とは、万能な道具だと思っていたのだ。


 だからこそ、その新鮮な感想に、自分で自分に驚いたのだ。


(──────ああ、でも、これは確かに、この学園生活に何の実りもなくはないかもしれない、か?)


 そんなふうに、ラニアは思う。

 ある意味これも、自分が知らないことを知れた、と言えるだろうと。


 長く引きこもっていたラニアでは、わからない感覚であった。

 もはや人付き合いなど、まともにできはしないしする気もないが、偶には世を見てみると言うことも大切なのかもしれない、と、ラニアはそう思った。


 ◇◇◇



『──────という学びを得た。この授業はとても有益だったと思う。私の仕事への意識を向上させてくれたのだから 恒常』


『ここ、日々の気づきを綴るとこじゃないんだけど? 書き直せ 創世』

 

なお、レポは追加されたけど他の仕事が免除されてないので、実務等もやらなきゃダメな模様。


それから、勿論ふざけたのはこのレポだけで、他はちゃんとやった。(ていうか、この授業はぼーっとしてたからレビューできなかっただけ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ