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圧倒的無口な幼なじみは、俺に「好き」を伝えたい

作者: 杯 雪乃

 

  とある高校のとある教室の昼休み。勉強と言う地獄から開放されるこの時間に、俺の声が響き渡る。


 「あ"ぁ"!!おいコラ(あかね)テメェ!!俺の唐揚げを勝手に取るなよ!!」

 「♪」


  俺の弁当に入っていた数少ない楽しみは、その幼なじみの口の中に吸い込まれていく。もぐもぐと俺を見ながら食べるその目は『ざまぁw』と言っているようにしか見えない。


  ムカつく。


 「こうなったら......!!」

 「!!」


  俺も奴の弁当に入っている唐揚げを取ろうとするが、素早く弁当を上に持ち上げられて躱される。マイク・タイソンのジャブよりも早い動きだ。正直、俺の目の前から弁当が消えた瞬間が分からなかった。


 「おい茜.....俺の唐揚げを取っておいて、自分のは取られないと?」


  すると茜は、右手に持っていた箸を俺に向ける。そしてその後、その向けた箸を自分に向けた。


  えぇと......こう言いたいのか?


 「.....お前のものは俺のもの?」

 「!!(コクコク)」


  “よく分かったね正解!!”と言わんばかりに頷きながら手を叩く。


 「お前はジャイ○ンか?!いや、女だからジャイ子か?」

 「(ふるふる)」


  俺のツッコミに茜は、首を横に振る。どうやら俺のツッコミはお気に召さなかったらしい。


  茜は一旦弁当を机の上に置いて、カバンの中を漁り出す。この隙に唐揚げを取ってもいいのだが、16年と言う長い時を一緒に過ごしている俺は学んでいる。ここで唐揚げを取ると、ガチ泣きされると言うのを。


  あぁ、女と言うのはなんて理不尽な生き物なんだ。(個人の見解です)


  ゴソゴソを茜がカバンから取り出したのは、世界史の教科書。その教科書のあるページを開きながら、ある写真を指さして見せつけてくる。


 「アドルフ・ヒトラー?おい、もしかして自分はジャ○アンじゃなくて、アドルフ・ヒトラーだと言いたいのか?」

 「(コクコク)」

 「なんだ?ファシズム国家でも開くのか?そしてその国民が俺だから、全て命令に従えと?」

 「!!(コクコク)」


  元気よく首を縦に振る茜を見て、俺は青筋を立てて怒鳴る。


 「なお悪いわァァァァァァ!!」


  これが、俺と茜の日常だ。なんで毎回俺はこの無口の相手をしているんだか........


  黒薔薇茜(くろばらあかね)。黒いロングヘアに、大きく開いた二重の瞳。その苗字に恥じない薔薇の美しさを持った美少女だ。


  頭もかなり良く、運動神経もかなりいい。胸は.......まぁその巨乳好きには物足りないが、その体型にふさわしい大きさをしている。


  そんな完璧美少女よのうな茜だが、1つ大きな欠点がある。


  圧倒的に無口なのだ。


  先程のやり取りを見てもわかる通り、本当に話さない。なんなら、某ハンバガーチェーン店で注文する時すら声を出さない。


  凄いよな。スマホを定員に見せつけて注文する人なんて初めて見たよ。そりゃ定員さんだって困るわ。


  別に、何かの病気で話せないとかそういう訳では無い。ただ、単純に話さないのだ。


  中学校にいた頃のの音楽の授業でも、一切歌うことは無い。ここまで徹底していると、最早頭の正気を疑うレベルだ。


  理由を聞いたことがあるが、回答は無し。無理に聞いたところで、黙っているだけなので、俺はその一回以降理由は聞いていない。


  そんな訳で、現代人にはどうやっても必要な会話を一切しない茜は、友達が少ない。


  でなければ普通、花の女子高生が俺のような芋っぽい奴と弁当を食べ食べる訳が無いのだ。


 ちなみに、俺がこの16年間の生涯で声を聞いたのは三回だけである。


 「相変わらず、茜さんに振り舞わされてるわね。そんなに怒ると早死するわよ。篠原卯月(しのはらうづき)君?」


  怒鳴る俺に後ろから声をかけられる。


  俺の名前をフルネームで呼ぶのは、このクラスでは一人しかいない。俺は後ろを振り返りながら、呼んだ主を見る。


 「なんか用ですか?委員長。俺は見ての通りこの馬鹿から唐揚げを取り上げなければならないので、さっさと要件を言ってください」

 「私から見たら、イチャついているようにしか見えないんだけどね........まぁいいや。君の言う通りさっさと要件は済ませるとするよ。来週の体育祭の種目、何に出たい?」


  委員長の言い草に物申したいが、ぐっと我慢する。確かに傍から見れば、イチャついているようにしか見えるだろうしな。


 「1個も出たくないはアリ?」

 「ナシ。その時は、スウェーデンリレーの400mに出てもらうから」

 「それだけは勘弁だわ」


  一番キツイやつじゃないか。それだけは勘弁願いたい。


 「無難に100m×4リレーでお願いします」

 「OK。枠埋まってないからいいわよ。茜さんは何がいい?」


  委員長の質問に、茜はジェスチャーで何とか伝えようとする。筆談でもいいんじゃないのかと思うが、この無口は頑なにそういう事をしない。本当に必要な時以外は、絶対にジェスチャーで会話をする。


  えぇと。紙?持って?探して?持ってくる?あぁ、借り物競争か。


 「えっと......茜さんはなんて言ってるの?」


  俺は長い付き合いから何が言いたいのか分かるが、委員長には東大の問題を解くよりも難題だ。


 案の定、俺に通訳を頼んでくる。


 「借り物競争がやりたいんだと。だよな?」

 「(コクコク)」


  念の為に確認したが、ちゃんと会っていたようだ。


 「分かったわ。茜さんは借り物競争ね」


  胸のポケットから取り出したメモ帳に、サラサラと何かを書いて再びしまう。恐らく、俺達の出る競技をメモしたんだな。


  委員長は「それじゃ、イチャつくのを邪魔して悪かったねー」と言いながら、自分の席へと戻っていく。


  もうアレは無視だ無視。あぁいう奴は放っておくに限る。


 「それにしても、珍しいな。お前が借り物競争なんて。どうやって探して、どうやって借りてくるんだよ」

 「.........」


  俺の質問に答えることは無く、茜は自分の弁当の残りを食べ始めた。


  答える気がないのだろう。俺も不思議には思いながらも、自分の弁当を食べ始める。


  あ、待てよ。唐揚げは返してもらうぞ。


  ━━━━━━━━━━━━━━━


  1週間後。体育祭の日がやってきた。


  正直サボりたかったが、今日は珍しく茜が張り切っていた。朝から人の家のチャイムを何度も押すな。うるせぇよ。


 「次は借り物競争か。ほんとうに大丈夫なのか?」

 「(コクコク)」


  自信満々に頷くが、俺からしたら不安しかない。友人が少なく、更には無口すぎてコミュニケーションが取りずらい社会不適合者だぞコイツは。


  駆け足で去っていく茜を、不安げに見つめる。割とマジめに心配だ。


 「そんなに心配かい?篠原卯月君?」

 「委員長。寧ろアイツを知ってる奴なら心配しかないよ」

 「ふふふ」


  委員長は俺の発言を聞くと、意味ありげに笑う。


 「私ね。委員長だから、体育祭の手伝いとかしないといけないの。それでさっき、借り物競争のお題の紙を並べたんだよね」

 「は?急に何を言って──────」


  パン!!


  俺が委員長に言葉の意味を聞く前に、借り物競争の開始を始めるピストルが鳴り響く。


 「ほら、茜さんの活躍を見てあげないと拗ねちゃうよ?」


  委員長に言われて茜の方を見ると、トップで独走している。流石は話すこと以外は完璧な女だ。


  茜は1番に紙を取ると、その中身をチラ見してこちらへ走ってくる。


  一体何を引いたんだ?


 「ほら、君の出番だよ。カッコよくね」

 「え?」


  委員長が俺の背中を押す。俺は物理の法則に従い、何歩か前へ足を踏み出す。


  他のクラスメイト達は、モーセの海割りかのように道を開け、茜が通れる道を作る。


  その道を駆け抜けてきた茜は、迷いなく俺の手を掴むとゴールに向かって走り出す。


 「おい!!茜!!何を引いたんだ?!」

 「.......」


  俺の質問には何も答えない。


  他の選手達がその紙に書かれたお題を探す中、颯爽と駆ける男女は絵になる。


  あちこちから声援が聞こえてきた。


  頑張れと純粋に応援する者や、ヒューヒューと冷やかす者、爆発しろー!!と妬むものまで。その声援は色々だ。


  というか、茜の足が想像以上に速い.........もうちょいゆっくり走って欲しいんだけど。


  そして、そのまま俺達は1位でゴールした。


  他の人達がゴールするのを待つ中、俺は茜に何を引いたのかを聞く。


 「で?一体何を引いたんだお前は」

 「.........」


  茜は持っていたお題の紙を俺に見せる。そこにはこう書いてあった。


『好きな人』


  お題を見て固まる俺に、無口な幼なじみは耳元に口を寄せて小さい声で俺に囁く。


  4回目のその言葉を、俺は一生忘れることは無いだろう。






  「好き」

読んでいただきありがとうございました。

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