俺は神様になった! ……のか?
新作を書き始めました。
よろしくお願いします。
「ミノル」
誰かが俺を呼んでいる。
ひょっとして一時間目の授業が終わったのかな?
化学は苦手だから、つい寝てしまったようだ。
「起きなさい、ミノル」
これは誰の声だろう?
耳を優しく撫でるような話し方が俺をウットリとさせる。
こんな喋り方をするのはクラスの女子じゃない。
もしかして英語の草薙先生?
ちがうな。
草薙先生なら俺をミノルだなんて呼び捨てにはしない。
田畑君と言うはずだ。
「いい加減に起きなさい」
やけにいい匂いがして、何か柔らかいものが俺の頬に触れた気がした。
えっ!?
……ここはどこだよ?
目を開くと、俺は満開の桃園で見知らぬ女性の膝枕で寝転がっていた。
状況に理解が追い付かない。
何がどうなっているんだよ!?
「ようやく目覚めましたね。お帰りなさい、ミノル」
「な、な、な、失礼しましたぁ‼」
あまりにびっくりして、俺は女性の膝から跳ね起きた。
あれ?
やけに体が軽い……。
「どうしたのですか、ミノル?」
膝枕をしてくれていたお姉さんが、不思議そうに俺を見上げていた。
年齢は二十台後半くらいかな。
なんで俺の名前を知っているのだろう?
ずいぶんと不思議な雰囲気をたたえた人だけど、どこかで会ったような気がする……。
髪は藍色、大きく胸のはだけた、ゆったりとしたドレスを着ていて、有名な美人女優以上に整った顔立ちだ。
こんなに綺麗な人なのに、どこで会ったかを思い出せない。
テレビの中で見たのだろうか?
「あら、まだ記憶が戻らないのね。困った子……」
記憶ならはっきりしている。
俺は三ツ谷高校2年2組の田畑実だ。
ただ、どうして自分がここにいるのかはどうしても思い出せない。
ひょっとして今の今まで記憶喪失だったのか?
「仕方がありませんね」
そう言いながら女の人が軽く手を振ると、俺の頭の中で霞が晴れるように記憶が戻った。
「東王母様!」
「少しはシャンとしましたか?」
祖神たる東王母様のおかげで、俺の記憶がはっきりと甦った。
そう、俺は目の前にいる東王母様に仕える天使だったのだ。
修業のために記憶を消されて、人間界に行っていたことを今思い出した。
ついさっきまで高校生をやっていたから、二つの記憶が入り混じり合って少々混乱している。
「ただいま戻りました、東王母様」
「人間界での修業をよく頑張りましたね。予定よりも70年ほど早かったのですが、貴方を呼び戻して神格を宿らせることが光の勢力の会議で決まりました。本日より戦闘神牛頭王を名乗ると良いでしょう」
ゴズ王か……。
精霊としてこの世に生まれ、天使を経て、ついに俺も神々の端っこに名を連ねることになったわけだ。
数百年は長かった。
しみじみとした感慨に浸りながら、俺は自分の両腕を見る。
そういえば人間だったころとは体の作りがまるで違う。
高校生のときは背も低めのガリガリだったけど、今では長身の細マッチョになっている。
これは女の子にモテそうな体型だぞ。
小躍りしたい気分だったけど、あることに気が付いて俺は動転した。
俺は素っ裸だったのだ。
神の眷属になってあそこも立派になっているんだけど、女神様の前でこの格好は恥ずかしすぎる。
東王母様に跪きながら、左手でさりげなく股間を隠した。
「ありがとうございます、東王母様」
「闇の勢力との戦いは続いています。ミノルの活躍を期待していますよ」
「はい」
東王母様をはじめとする光の勢力の神々は闇の勢力の神々と戦っている。
スプンタが優勢になると人心も気候も経済も安定するんだけど、アンラが優勢になると天災や疫病が流行ったりする。
俺も頑張らなくてはならないのだ。
もちろん俺の決意は固いのだけど、今はちょっとそれどころじゃなかった。
素っ裸で「頑張ります!」とか言っても様にならないだろう?
最悪、変な誤解をされてしまうかもしれない。
とにかく今はパンツが欲しい。
俺がモジモジしていると、東王母様はクスリと笑った。
「もしかして、まだ人間の感覚が抜けていないの? 私にとってお前は、可愛い子どものようなものなのですけどね……」
確かに上位神と俺のような普通神では大人と子ども以上の開きがあるのだが、いかんせん俺には人間のときの記憶が強い。
「そうは言われましても、何か隠すものが欲しいです……」
戦闘神として肉体はかなり強化されているみたいだけど、羞恥プレイに耐えられるほど精神は強化されていないみたいだ。
「仕方がありませんね。とりあえず、そこの蓮の葉を使いなさい」
東王母様の指さす方に小さな池があり、大輪の蓮の華がいくつも咲いていた。
お盆の形をした蓮の葉っぱは大きくて、あそこを隠すことだって余裕で出来そうだ。
「そうします……」
俺は両手で前後を隠しながら池へと近づく。
そして、葉っぱをむしろうとして驚愕の事実に気が付いた。
「う、牛ぃいいいいい!?」
池の水に映る俺の頭は牛の姿になっていたのだ。
水辺で慌てふためく俺を東王母様は不思議そうに見ていた。
「どうしたの、ミノル?」
「あ、あの、俺の頭……牛なんですけど?」
「だから牛頭王と言ったじゃない。牛の頭と書いてゴズと読むのですよ」
そういえばそうだった気がする。
「あの、できましたら人間の頭がいいんですが……」
「人間の頭……、そうですねぇ、人頭蛇身のウーガ神という選択肢もあったのですが」
蛇の体に人の頭? それだったら牛頭人身の方がまだましだ……って、違う!
「そうではなくて、全身、人っぽいのがいいかなぁって……」
「え~~」
え~~って言いたいのはこっちだよ!
なに、わがままな子を見るようなその目つきは?
「人の姿がいいの?」
「はい。ずっとそんな感じでやってきましたので、今さら牛というのも馴染めなくて……」
「身勝手ねぇ」
そうなの!?
俺がわがままなの!?
「お願いします!」
「う~ん……すぐには無理ね」
なんてこった……。
俺はフリチンであることも忘れて、東王母様の前に立ち尽くしてしまう。
彼女いない歴は前前前世からだから、今度こそ恋の一つもしたかったのに、この姿では天女一人口説けないよ。
俺はなんて不幸なんだ!
「そんな、市場に売られていく牛みたいに悲しそうな顔をしないでよ。ドナドナが流れてきそうよ」
「あ~る 晴れたぁ~ 昼下がりぃ~♪」
「わかった、わかったから歌うのをやめなさい」
ドナドナドーナドーナァ♪
「もう……何とかしてあげるけど、すぐには無理よ。それにあなた自身も神の力に目覚めきってはいないようですし」
「では、どうすればいいのでしょう?」
「そうねぇ……もう少し人間界で修業をしていらっしゃい」
「また、地球ですか?」
「そんなに遠くへ行く必要はないでしょう。今度はもう少し近い場所、イシュタルモーゼにしましょうか?」
ああ、何となく憶えている。
この天上界から一番近い人間界だったはずだ。
そのせいで、神様たちがちょいちょい遊びに行くから、半神なんかもたくさんいて、魔法を使える人間も結構いるんだ。
「わかりました。肩慣らしに出かけてきますけど、人間の顔をよろしくお願いします」
「ちゃんと考えておいてあげるから、しっかりと神の力を開花させてきなさい」
東王母様がドレスの袖を振ると、青白く光るワープゾーンが現れた。
ここを通れば人間界にたどり着く。
「本当に忘れないでくださいよ」
俺は裸一つで人間界へと繰り出した。
しまった!
パンツくらいは貰っておくべきだった。
蓮の葉っぱも取り忘れちゃったよ……。
作中に出てくる神々の名前はすべて架空のものです。




