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第18話 一瞬の判断

(父さんが残してくれた鉱山も確か、ウィーレス鉱山に近かったよな。となると鉱石が枯渇して閉鎖した場合と邪魔が入って閉鎖した場合、その二つが考えられることになるのか。前者ならば絶望的だが、もしも後者ならば資金の確保さえすればすぐにでも再開できるかもしれない)


 デュランは色々な考えを張り巡らせながら、とりあえずその父親が残してくれた廃鉱山へ行ってみようと決意する。


「なぁアルフ。この店のこと任せても大丈夫か? 俺、トールの村に戻ってその廃鉱山の様子を確認してきたいんだが……」

「ああ、親父さんが残してくれたもう一つのヤツだよな? ああ、いいぜ。どっちみちこのレストランも掃除でもしないと再開できそうにもないからな。あとは俺とリサに任せてくれ!」


 アルフはデュランの申し出を快く引き受け、留守にしている間にリサと二人で店の掃除などをしてくれるという。

 こんなとき頼りになる親友がいてくれると心強い。


「それじゃあ俺は鉱山に行って現状を確かめてくるから、後のことは頼んだぞ二人とも」

「お兄さん、いってらっしゃ~い♪」

「ああ。こっちは俺とリサに任せとけってんだ! バッチリ掃除して綺麗にしておくからな。よーし、そうとなったら、余計に気合を入れないとな! 確か(・・)、ここの裏手に井戸があるから水を汲んで雑巾掛けだ!」

「アルフ。まずは箒で掃くのが先じゃないかな? それと窓に打ち付けてある板を外して空気の入れ替えも……」


 デュランは店の掃除をアルフとリサへと任せ、もう一つの資産である廃鉱山へと向かうことにした。

 その廃鉱山『トルニア』がある場所はトール町の奥にある山頂付近に位置するため、急ぎツヴェンクルクの街を後にする。


 元々トールの町自体もその鉱山を採掘する鉱員のため作られた町であり、住まいと仕事場とが近ければ近いほどその移動距離と時間が節約するため、どこの鉱山近くにも必ず小さな町が存在していた。


 またそのトルニア鉱山の近くには最近閉鎖されたというウィーレス鉱山があり、もしかすると昔採れていたのは銅を含む鉱石だったのかもしれない。


 鉱山と鉱山は鉱脈(こうみゃく)と呼ばれる地層で繋がっているため、例え一箇所でも銅が産出すれば自ずと、その周りの山々からも銅鉱石が採掘できることになるわけだ。


(アルフの話だと、ウィーレス鉱山ではかなりの埋蔵量が今もあると言っていたな。もしかすると廃鉱山こそ俺の窮地を救う唯一の道なのかもしれん)


 デュランは期待に胸を膨らませながら農道を歩いていた。

 だがそこで前方から違和感を知らせる音が聞こえてきた。


「んっ? これはもしや……蹄鉄の音?」


 それは馬が駆ける際に生じる蹄鉄の音だった。


蹄鉄(ていてつ)』とは馬の足の(ひづめ)に合わせ鉄を加工して作られたU字型プレートを取り付けることで、怪我の防止とより早く走れる工夫された道具である。元々は農業革命以降、農地で馬車を()かせる馬や牛などの足裏を自らの汚物よる感染症から守るため、近代社会において広く一般庶民の間にも普及したものである。


「数は……どうやら一つか。それもかなりスピードでこちらへと駆け向かって来るみたいだな」


 デュランはその音に集中するため、そっと目を瞑る。


 蹄鉄の音が一つということは、それは一人乗りということである。

 これがもし馬車を牽いている音ならば、馬は最低でも二頭は必要になるし、違和感を覚えるまでの速度なんて出るはずがない。


(どこかの貴族が急ぎツヴェンクルクの街へと向かう……と言ったところか)


 デュランはそれが『貴族である』と確信していた。


 何故なら、馬を所有できるのは貴族か王族くらいしか持っていないからだ。

 その理由は馬の価格が家よりも断然高いためであり、所有できる身分は自ずと貴族か王族に限られる。


 デュランは邪魔をしないようにと道の端へ寄った。

 そうでもしなければ道の中央から迫り来る馬に()かれてしまうからだ。


 仮に道を歩いていて貴族の馬に轢かれた場合、賠償金の類は出ないのが一般的である。

 また法律的にも貴族が咎められないどころか、逆に道の真ん中を歩いているほうが悪いなどと理不尽な判決をされた例もあるくらいだった。


「あの姿は……ルインか?」


 前方から迫り来る姿にデュランは見覚えがあった。


 遠目からでもハッキリとわかるほど派手な紫色の洋服、金色に輝く長い髪を風に(なび)かせながら白い馬に乗ってデュランの方へと駆けてくる女性。

 それはルイン・ツヴェルスタに間違いなかった。 


「んっ? あれは……お兄様っ!? メリス止まってちょうだいっ!! ハッ!」

「ヒヒーン!」


 ルインは俺の姿を見るや否や持っていた手綱を強く引きながら強引に馬を止めようとするのだが、突然のことで馬は驚き前足を持ち上げると、そのまま後ろ足二本でその場に立つことで進む勢いを懸命に殺そうとする。


「きゃあっ!」


 しかし勢い余ってしまったのか、馬はルインを背中に乗せたまま、後ろ向きに倒れようとしていた。


 速度が出ていたところで急激にも手綱を引かれた驚きから仰け反り、重心が後ろへと引っ張られてしまったのが原因かもしれない。だが、このままではルインはただ地面に叩きつけられるだけでなく、馬の重い体重に押し潰されてしまう恐れもあった。


 一体どうすれば……デュランは一瞬の判断に身を任せ、ルインに向かってこう叫んだ。


「ルインっ! 手綱を放せ! 早くっ!!」

「は、はいっ!!」


 デュランはその瞬間、普通の思考とは逆のことを考えルインに持っている手綱を手放すよう叫んだのだ。

 そうすることで馬が背中から地面に倒れるのを防ごうとしたのだ。


「きゃあぁぁぁぁっ」


 もちろんルインが手綱を放せば馬が後ろへと反り返る力が弱まり、今度は重力に従うように前を向いて振り戻ろうとする。

 けれどもルインは今まさに手綱を放しているため、支えを無くしたまま宙へと体を放り出されてしまった。


「きゃっ!!」

「んっ……っとと!! 大丈夫かルイン? どこか怪我はないか?」

「おに……い……さま?」


 だが寸前のところでデュランは宙に投げ出されたルインのことをキャッチすることに成功した。

 少し遅れてふわりと舞い上がった彼女の短いスカートが太ももへと舞い降りる。


 ルインのその小さな体はディランの体へとスッポリ収まるよう、まるでお姫様抱っこのように抱き締められていた。

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