元の世界に帰りたい
「楓が魔法少女だったなんてね」
幼馴染みが魔法少女だなんて本当に驚いた。
「過去にあんたと同じくこいつを仲介として魔法少女になったんだよ。なった経緯はあまり言いたくないので詮索はしないでね」
「分かったよ。」
気になりはしたが、嫌がる事は基本しない性格なので、止めておくことにした。
「そうだ、魔法少女になれたんだったら1度変身してみせてよ。」
「いいわよ。」
優花が指を鳴らし、一瞬全身が光ったと思うと、そこには魔法少女となった優花がいた。髪は桃色に染まっており、服はドレスではないが、袖とスカートにフリルがついている。異世界の服のようで、いかにも魔法少女、と言えるような感じである。また、手には1m程の長い銃を持っている。
「おー、可愛いじゃん。武器は長銃にしたんだ。」
「そうなの。なんか勝手に選択肢を与えられてね。あんたは弓なんでしょ?」
「そうだよ。これね。」
そう言って楓は私に弓を見せてきた。弓自体はとても軽く、細い。よくこれであんな大技出したなと思う。
弓に対し、私の銃は長くて少し重い。慣れたらそうでもないかもしれないが、今は軽々と扱うのは難しそうだ。片手では重くて両手で持っているが、片手で扱えたらもっと良くなるだろう。
「そういや滅魔とか言ってたけど、あれ実際は聖属性じゃなくて雷なんだよ」
「え?そうなの?」
突然楓がカミングアウトしてきた。
光ってたし、怪人がかなりのダメージを負っていたのですっかり聖なる力とかそんな風に捉えていた。じゃあアレに巻き添え食らったら死ぬじゃないの。まぁそんな事ある訳ないと思いたい…のだが、如何せん楓である。元気がある分、何するか分かったもんじゃない。
「大丈夫だって!優花ならいける!」
…この言葉に何回振り回されたか…。そのせいで何かとやらかす事が多いし。
「てっきり怪人を滅ぼす為の技かと…」
「違う違う。私達は"魔法少女"だよ。多少…いや、結構魔法を使えたりするのよ。私の場合は雷。雷属性の魔法なら割と自由に扱えるの。それこそ、さっきみたいに弓に属性を付与したりとか」
「へぇ…私はどうなんだろ」
「使ってみれば分かるよ。試しに1発、力を込めて撃ってごらん」
アリエに言われるがまま、私は引金に手をかけ、引いてみた。
ドォォンッ!
激しい銃声と共に、壁に激突した弾丸は勢いよく燃え上がった。正確に言えば、発射された時から燃えていた。炎の弾丸が放たれたと言った方が正しいだろう。
「…分かりやすいね。あんた」
「私が使えるのは炎属性なのね。」
「いいじゃないか。炎属性は強力なのが多い。しばらく自分の技を練っておくと怪人の襲撃に備えられていいかもしれないね。」
「そうするわ。」
ここで私はあることを疑問に思う。
「一つ質問なんだけど…ここってどこなの?」
よく見てみると、この廃墟はおかしな点がいくつもある。外は何も見えない。天井も一部空いているが、完全に真っ暗である。しかし、電気は壊れているはずなのだが廃墟の中は明るい。
「ああ、ここね。えーっと、ここは…どこなんだろ?」
「…楓も知らないのね…」
「だ、だって戦い始めたらいきなり私も飛ばされたんだもん!…いつもの事だけど。」
「ここは怪人と戦うためだけにある場所。現実世界でもなく、異次元でもない。次元の狭間にある世界と言ったら分かりやすいかな?」
アリエがいきなり説明してきた。
「どこか近くに怪人が現れると、ここに繋がる穴も同時に出現するみたいなんだ。詳しくは分かってないけど、ここ以外にも次元の狭間は沢山あるよ」
聞いてもいないことを淡々と説明してくる。まぁ、ここがどこかなんて全くどうでもいいんだけども。それより…
「ここから帰れるの?」
重要なのはそれだ。帰れなくなって、一生ここで過ごすなんて事になったら洒落にならない。しかし、ふと楓の顔を見てみると、全く心配していない様だった。
「もちろん…」
「…ほっ」
「帰れない」
「………え"っ」
アリエから見事に予想に反する答えが返ってきた。嘘でしょ?
「………帰れるよね?」
「………無理」
もう1度尋ねたが、深刻な顔をしながらそう言われた。
「………嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ」
「………」
「あはは、冗談だって。ちゃんと帰れるよ。見た時から思ってたけど、君はからかいがいがあるよ」
「…楓、これ後でしばき倒してもいい?」
「ん?あ、そいつなら遠慮なくどーぞ。でもこんな簡単に騙されるあんたも悪いね。さっきいつもの事だって言ってたの忘れた?」
「………」
…このうさぎ本当にタチが悪い。楓もだ。
アリエに元の世界へ繋がる穴を探してもらい、無事に帰れる事が分かったので私は一安心した。…のだが、何か嫌な予感がする。
とりあえず、さっさとこの気味が悪い廃墟から離れたかったので、穴に飛び込んだ。飛び込んだ瞬間、私の嫌な予感は的中したのだった。
「もっと普通に帰らせてぇ〜〜〜!!!」
穴の中のジェットコースター風システム、どうにかならないのだろうか…。