少女vs怪人
穴に吸い込まれてどれくらい経ったのだろうか…などと考えてる余裕は全く無かった。
「あわわわわわ〜っ!とめて〜〜〜〜〜!!!」
穴の中はまるでジェットコースターの様な感じであり、優花はほぼ酔っている状態だった。全身ぐるぐる振り回されて、乗り物に弱い優花に限界に近づいていく。
「うぷ…駄目…酔いすぎて死ぬ…」
そして…猛烈な回転に入ったところで、ついに意識を失った。
「………はっ!」
気が付くと、私は見知らぬ場所で横たわっていた。吐き気は…もう無いみたいだ。死ぬかと思った。体が痛んでないので、ゆっくりと起き上がり当たりを見回す。私自身がここに転送されたのだから、当然人の気配は感じられない。建物の中らしいが、埃まみれであり、廃墟であるようだった。ここが何処なのか全く検討がつかないが、じっとしてるのもあれなので移動することにした。迷うかと思われたが、目の前に道は1つしか無いのでそんな事は無さそうだ。都合よく後ろは行き止まりだし。立ち上がり、歩き出した。…が、足下の瓦礫に躓いてコケてしまった。
…ガシャァン!
「(びっくぅぅ!)なになになに!?怖いよ…」
数百m程歩いたところで、突然何かが落ちる音が聞こえてきた。人気が無いので少し、いや、かなり怖いが確かめない訳にもいかないので、びくびくしながら音のした方へと向かっていく事にした。
*
「はあああああっ!!」
「うおおおおっ!!」
ドゴォン…ドゴォン…!
鈍い音が何度も響き渡る。この廃墟と化した建物で、1人の奇妙な服を纏った少女と1人の怪人が激しい戦闘を繰り広げていた。
「どうした、もう限界か!?」
「…いや、まだまだよ!」
怪人の猛攻に押され、少女は徐々に防御が追いつかなくなっている。しかし、負けじと少女も怪人に攻撃を加え続ける。
「どうやら限界の様だな…うらあっ!」
「しまっ…」
ドムッ…!
「あぐっ…きゃあああっ!」
攻防の末、一瞬の隙をついた怪人の一撃が少女に当たり、吹き飛ばした。
吹き飛ばされた彼女は壁に激突し、瓦礫の上へと崩れ落ちた。怪人は彼女の頭を掴み、言い放った。
「貴様はこれで終わりだっ!死ねぇっ!」
「………っ!」
もはや意識は朦朧としており、彼女は今にも敵に殺されそうな状況であった。そして、怪人は腕を振り下ろし、彼女にとどめを刺そうとする。その時…
「あなた…誰…?」
「……!誰だ貴様は!」
怪人の腕がピタッと止まる。建物を彷徨っていた優花がこの場に迷い込んで来たのだ。
「ど…どうやってここに………?」
「…友達の家が爆発に巻き込まれたので、瓦礫をどけていたら不思議な穴に吸い込まれました」
「…ふん、ただの迷い人か…後で始末してやるから大人しく見ていろ。先は忌々しいこいつを処理する」
怪人は腕を振り下ろすのをやめ、掴んでいた彼女を放り投げた。
そして、腕を刃物に変化させた。倒れている少女へとギロチンの様に振り下ろそうとした。
「ひっ…だめっ、やめてぇぇっ!!!」
先の爆発で死んでいる人を見てしまった優花は、これ以上人が死ぬ所を見たくないという思いから、少女が殺されるのを阻止しようと怪人へ駆け出す。その瞬間…
ポオッ…ォオオオオ…
「な、何よこれ!?」
「…な、なんだこれは!う、うぐおおおっ!」
…ドオォン!!
叫んだかと思うと、優花を中心に当たりが光に包まれ、怪人が吹き飛ばされた。優花の周りは跡形も無くなっている。当の本人は何が起こったのか分からずに放心している様だ。
「…この子まさか………」
「僕もびっくりだよ。この子も資質を持つ者だ。しかも相当強いよ」
どこにいたのか、突然小さなうさぎみたいな妖精の様なものが飛び出してきた。
「…資質?何のことですか?」
優花が当然の様に問いかけたその時…
ガッ…シャァン!!
「ふんぬぁあぁっ!はっ…はっ…はっ…どうやら貴様から殺さねばならぬ様だな…消し去ってやる!」
怪人が瓦礫を押しのけてこちらへと飛び出してきた。怒っているのか、明らかに先程とは違う速度だ。
「説明は後!先にあれを止めなきゃ!君は下がってて!」
「わ、分かったわ」
妖精に言われ、倒れていた少女が起き上がる。そして、弓と矢の様なものを作り出した。
「"聖なる・滅魔弓"!!」
勢いよく放たれた矢が、一直線に敵目掛けて飛んでいき、見事に直撃した。
「ぐっ…ぐうわああああっ!!」
怪人がもがき苦しんでいる時、突然奇妙な声が響いてきた。背筋が凍る様な声で。
(…貴様、一体何をしている。早く戻って来い)
「わ、分かりました!…今日の所は一先ず撤退するが、次は無い!」
それを聞いた怪人は、ダメージを受けながらも捨て台詞を残し、一瞬にしてその場から消え去った。少女は疲労やダメージからか、怪人が消えた瞬間に地面へ崩れ落ちた。