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レティシアは、アンディと和解出来た事を母のリリアナに伝えた。


「そう。よくやったわ!アンディもお爺様に似て頑固だから、少し心配してたのよ。でもエミールが一緒に行ってくれたから大丈夫だとは思っていたけどね。あの子は苦労してる分、アンディやレティシアより大人だものね」


「ええ。わたくしもエミールの事は兄の様に思っています。少し優し過ぎるところがありますが、基本的にはしっかりしていて頼り甲斐がありますわ」


「そうね。アーデン家は良い後継に恵まれたわね。それでエミールの好みの子の情報は得られていないのかしら?」


「はい。すみません……アンディの相談を装って聞いたのですが、口を割りませんでした。お母様はエミールの婚約相手を選別なさっているのですよね?」


「ええ。そうよ。レイモンドやマリアンヌにも頼まれているけど、二人からは、出来たらエミールと気が合いそうな子でとお願いされちゃった割に、あの人達もエミールの好みを把握していないのよね。基本エミールって誰にでも良い顔をしちゃうから、分かり辛くて困るわ」


エミールに相談した時に、リリアナから裏の指令を受けていたレティシアは、任務を遂行出来なかった。アンディと関係改善の傍ら、エミールの婚約者探しも同時進行でされていた。


レティシアは、エミールには幸せになって貰いたい。レティシアやアンディの様に政略結婚しなくてはならない理由があまり無いエミールは、ローゼ家やアーデン家の利益を鑑みつつ、その中から選べる余地が有るのだから、出来るだけ好きな()と婚約して貰いたい。


それにレティシアとアンディは王族並みに早く結婚する予定ではあるが、エミールはあと十年くらい待っても良いという猶予もあった。だがエミールの出自からすると、あまりにも年が下の令嬢では、エミールの精神的な支えに成らないのではないかとリリアナもアーデン侯爵夫妻も考えている為、ご令嬢の方の結婚適齢期に合わせて早めの婚姻も視野に入れていた。


「クロフォード侯爵家のミリアリア様はジュリアン殿下にねじ込む予定だから、後はモーヴァンかルドゥーテのご令嬢が候補筆頭になるわね。それで、レティシアはルドゥーテ侯爵に喧嘩を売ったらしいわね。エミールがレティシアの立場が悪く成らない様に、私に後始末を頼んで来たわよ」


「だって、毎回毎回ランドールのお血筋って絡んで来て五月蠅いんですもの。エミールの何が気に入らないのか、アーデンの小父様達と離れると毎回なのですよ!モーヴァン侯爵家のセレーネ様の方がエミールのお相手には良いと思いますわ。モーヴァン侯爵家は、ローゼ家と血の繋がったお血筋のご当主様なのですよね?」


茶に近い黒髪に紫の瞳のご当主のブライアン・モーヴァンは、レティシアからみてもはっきりとローゼの血族だと分かる容姿をしており、エミールに対してもルドゥーテ侯爵の様な嫌味は言ってこない方だった。


「ルドゥーテ侯爵は、ローゼ家の血筋が欲しいから、ローゼ家やアーデン家に娘が産まれないのを残念に思ってらっしゃるのでしょう。特にエミールは美しい分、ご令嬢だったらと()ぎってしまって絡みたく成るのでしょうね。それに、アーデン家を追い落としたい気持ちと半々といったところね。きっとローゼ門下の侯爵家の三番手なのが不満なのでしょう」


「モーヴァン侯爵家の方が上なのは、ローゼ家のひいお爺様の妹がモーヴァン侯爵家に入ったからですか?」


「そうね。長く息子夫婦にも譲らず侯爵夫人として頑張ってらしたわ。その大叔母様が孫のブライアン様を推して、お父上様とお兄様を飛び越えて次男であられたブライアン様を侯爵にしてしまったから、モーヴァン侯爵家内は不安定なのよね」


レティシアが聞いても非常識に聞こえるが、周りはどう見ているのだろうかと考えてしまう。


「それは…有名なお話なのですか?」


「社交界では知らない人はいないわ。特に嫡子や嫡孫に瑕疵が無いのに、侯爵夫人の暴走だったから、ローゼ家からも意見はしたのだけど、ブライアン様をと他のお身内の方も言い出したので、嫡流の方が身を引かれたからブライアン様に落ち着いたのよ」


「ブライアン様が、黒髪に紫の瞳でお生まれになった為ですか?」


リリアナが言っていた髪色や瞳の色が重要だというのは、何もローゼ家やアーデン家だけの話ではないのだろう。


「レティシアも分かって来たわね。その通りよ。実際それで本来同等であるルドゥーテ侯爵家は水をあけられた形だから、モーヴァン侯爵家も(みな)納得しているみたいだけど、セレーネ様のご兄弟は黒髪でお生まれになっていないし、もしもブライアン様の兄君や他の親族の方に黒髪の子が出ていらしたら、また後継争いが起こる怖れが有るでしょう?エミールのお相手は侯爵家後継の姉妹でなければ、あまりアーデン家やエミールの力に成らないのよ」


レティシアにも、リリアナがセレーネに良い顔をしない訳に納得がいった。エミールに嫌味っぽく絡んで来ていたとしても、今はルドゥーテ侯爵家の方が長子が継ぐという原則を守っている分、家が安定していると見るべきなのだろう。


そう思うと、モーヴァン侯爵家も軽はずみな事をしたものだと呆れてしまった。本来の嫡子に何の落ち度も無いのに飛ばして、それでも嫡孫ならまだ許されるが、その弟に継がせたと成ると、これからのモーヴァン家は誰が後継に成るのかはっきりしない為、他家からも信用が薄い状態になって、ご令嬢やご子息の結婚にも障りが出て来てしまうのは明白だった。


「では、ルドゥーテ侯爵家のメルヴィナ様かテレサ様が候補に成るのですか?でもルドゥーテ侯爵は、エミールをあまり良く思っていません。反対なさるのではありませんか?」


それにあの意地悪ジジイが舅に成るのは、エミールも気が重いだろう。


「おそらくルドゥーテ侯爵は、娘を嫁がせるでしょう。アーデン家に娘を嫁がせれば、モーヴァン家よりも上の地位を狙えますからね。でも、ランドールの血筋が気に入らないというのも事実だから、エミール本人にはプラスばかりの話でもないのが悩みどころなのよ。それに今はアーデン家もローゼ家の筆頭門下家だけど、それは現アーデン候がローゼ公爵の実弟という所から来ているから、エミールの代でランドール公の血筋の入った侯爵と貶めて、行く行くはアーデン家も蹴落としたいという気持ちもあるのよね。あの方の気持ちも分からなくもないけど、やはり娘のどちらかを貰ってエミールを蹴落とそうという気持ちを削ぐべきではないかと思うのよ」


レティシアも聞いていて、リリアナがエミールの為に相当考え、悩んでいる事が分かった。こうやって色々な角度から縁組を考えているからこそ、リクソール家に仲人を頼んで来る家が多いのだと思った。


レティシアに妹でも居れば良かったのにと思うが、リリアナはともかく、ローゼ家にレティシアを嫁がせる以上、父のリクソール候はアーデン家との繋がりは不要と考えて、例えもう一人娘がいてもエミールに嫁がせたりはしないだろう。


やはり貴族家の結婚は、基本的にはパワーバランスを考慮した政略結婚だ。アーデン侯爵家の様に親がそれを破ると子世代に歪みが出てしまう事になる。


レティシアもずっと生まれる前からの婚約に憤りを感じて来たが、最近はリリアナが他家の事情や、政治的知見を語ってくれるので、大体の貴族家が政略結婚を望む気持ちが分かって来た。


そうすると、リクソール侯爵家はローゼ公爵家と同盟関係にあるが、リクソール領は王都の近くで、ローゼ領は王都から一番離れた国境添いに位置している為、穀物の天災などもお互いにカバーしあえるという一点だけでもとても助かる上に、他領からの侵略を許さない軍事力が両方の領に有る為、他に攻め入る隙を与えないという点でも手を組む価値がとても高い。


それはリリアナとセフィールの結婚で両家が手にしたものだが、子世代のアンディとルシアンが爵位を継いだ時に書面による同盟関係を破る可能性は皆無ではない。


それをレティシアが嫁ぎ、ローゼ家の公爵夫人となって、自身の子を未来の後継とする事で、リクソール家との同盟関係はかなり強固なものに成る。


だからこそ、リクソール侯爵はレティシアが生まれる前から、ローゼ公爵家の嫡子の夫人の地位をいち早く予約したのだろう。レテシィアの父のリクソール侯爵は、とても頭の回転が速く決断力もずば抜けていた。その恩恵でローゼの姫などと持ち上げられているのだとレティシアにも分かって来た。


リクソール領は王都と見劣りしない程、綺麗に整備された街並みに、穀物の取れ高も他の領と比べても頭ひとつ抜けている。それにダイヤモンドが採れる鉱山が有る為、加工職人の街も有り、とても豊かな領だった。


少し前のレティシアであれば、この状態を当たり前と享受しただろうが、豊かな領が侵略に遭わない様にする為の努力を怠らなかったから、今のリクソール領があるという事を理解していた。


領主が無能なのは罪だとリリアナが言っていたが、確かに領主の挙動で領民の安全が脅かされる事態になれば、暴動が起きたりと更に治安の悪化も加わってくる。そういう事態を避ける為に、領主はどう動くのか、領にとって何が最善なのかを常に考えて領主は動いているのだろう。


今レティシアにも出来る事は、リクソール領の為にローゼ家との婚約関係の強固な事を周囲に知らしめる事と、未来の自領になるローゼ領の為に、他の門下家への影響力を強める事を考えるべきである。


やはりローゼ家の血筋を重んじる風潮はローゼ家にとっては悪い事ではない。モーヴァン侯爵家は確かに間違った選択をしたが、モーヴァン侯爵家の信用の挽回とエミールの結婚を、両家の為に上手く利用できないかとレティシアは思った。


どうしても、エミールのところにルドゥーテ侯爵家の娘を嫁がせたくないという思いも強いが、モーヴァン侯爵であるブライアンならば、アーデン侯爵家と手を取り合い、モーヴァン侯爵家とアーデン侯爵家の安定の為に力を合わせられる事が出来れば、ローゼ家の利にも成る筈だった。


ルドゥーテ侯爵家の凋落よりも、アーデンとモーヴァンを助ける方がローゼ家の力が落ちる事が防げる筈だ。


リリアナは、アーデン家とエミールの事を考えて、内紛を抱えたモーヴァンと縁を結ばない方が無難だと考えているが、ローゼ家の為には、はたしてそれで良いのかどうかという話をレティシアが必死に訴えると、リリアナは違う視点からの話に目を丸くして「流石レティシアはセフィールの娘だわ…」と娘の考えに一定の評価を見せた。


レティシアは母に認められた事に嬉しくなるが、私怨は捨てて多方面から考える必要がある為、未熟な自分の意見は一方向からの意見に過ぎない事は自覚して、後は父と母に委ねる事にした。この答えがレティシアの未来にも関わって来る為、当初はエミールの為だと考え出した事なのに、ローゼ家の為にすり替わってしまった事に罪悪感を感じた。


ただ、都合が良いとは分かっているが、それでもレティシアはエミールの為に力に成りたいという考えも同時に成立させていると思いたいと、兄とも思うエミールの幸せを願う気持ちには変わりなかった。レティシアが変わってしまったのは気持ちでは無く視点の位置だけだった。


リクソール侯爵令嬢でエミールの親族から、主家であるローゼ家の後継の婚約者、更に未来のローゼ領を守る守護者の視点に切り替わった。


原因となる出来事は、やはりアンディからの直接のプロポーズがあった事と、自分の価値観が崩壊してから、一から再構築された事だろうとレティシアは思った。



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