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ローゼ家の夜会に現れたリクソール侯爵夫妻とレティシアに、ローゼ門下の人々が「ローゼの姫君達がおいでになった」と囁きだす。


姫君達とは、レティシアとリリアナの事を指す。リリアナは苦笑して「結婚してから言われなく成ったのに、レティシアのお陰で逆戻りだわ」と言う。


セフィールは、このような夜会の席に相応しい上等な仕立てのスーツに、瞳の色に合わせたサファイヤの装飾品を惜しげもなく着けた華やかな装いの上に、普段とは違う所作や立ち振る舞いは、とても洗練された華やかなものだ。


元々の銀髪に印象的な青い瞳が際立って、とてもレティシアの様な大きな子供が居るとは思えない程、若く妖艶な雰囲気を醸し出していた。


リリアナは「またいつもの猫被りが出たわ…」と少し遠い目に成ってから、ローゼ公爵夫妻の下に向かった。


レティシアは父を見て、自分もアンディの前で普段の自分と違う風に演出すれば良いのではないかと考えた。何も馬鹿正直に自分を晒す必要はない。今迄親族だという事で、婚約者に対して素を見せすぎていたのだと後悔した。


いつもなら、元気にローゼ公爵夫妻の所に駆け寄る所だが、父と母の後ろで優雅にドレスを摘まんで控えめを心掛けて丁寧に礼をとった。


今日のレティシアは、クリーム色のドレスにパールの髪飾りを付け、いつもとは服装も雰囲気も全然違った。今迄は深紅や紫やピンクなど、この場の女王の様な装いをしてしまっていたが、アンディの趣味に合わないという助言を母から貰って、いつもとは正反対な初々しい大人し気な令嬢に仕上がっていた。黒髪も全部結わずにハーフアップにして可愛らしさを押し出していた。


アンディはあんぐりと口を開けてレティシアを見て来たので、レティシアは恥ずかしそうに、一瞬合った目を逸らし、少し視線を下げた。


「今日のレティシアは一段と綺麗だね」


こんな風に自然に誉めてくれるのは、やはりいつも美しいのに更に着飾ってグレードアップしているエミールだった。


「有難う。エミールもいつも通り素敵ね」


仲良く微笑む姿に「ご兄妹の様だな」と周りから声が上がるのはいつもの事だった。レティシアとエミールは実際髪や瞳の色以外にも、似通った美しさを思わせるらしく、この様に周りが知り合いばかりのところでなければ、ほぼ兄妹に見られるのは間違いなかった。


母と並んでいた時の様に、二人でいると目立つ様で、周りからの視線を一身に受ける結果になった。


「未来のローゼ公爵夫人は、随分とお美しくなって来られましたな」


そう話し掛けて来たのは、ルドゥーテ侯爵だった。


「お久し振りです。ルドゥーテ侯爵。ご機嫌いかがでしょうか」


レティシアが流れる様に令嬢の礼を取ると、相手は目を細めて「流石ローゼの姫君」と言ったが、慌てて「リクソール侯爵令嬢にお会い出来れば、機嫌など直ぐに良く成りましょう」と微笑んだ。そしてエミールに目を向けると「流石にランドール公のお血筋は、男性にして置くのが惜しいほどのお美しさですな」とレティシアに言った時と随分と声のトーンを変えて言った。


ほんのりの見え隠れする悪意に、レティシアは淑やかな振りをかなぐり捨てた。


「まあ、ルドゥーテ侯爵は、エミールを見て、ローゼ家の血筋を感じませんの?わたくし達いつも兄妹に間違われる程ですのよ」


「いえ、その様なことは御座いません。エミール殿は両公爵家の血が混ざった非常に稀有なお方だと申し上げただけですよ」


「そうですわね。ジュリアン殿下や王妃様とも近い血筋ですもの。私もとても高貴で稀有な血筋だと思いますわ。一侯爵家(いちこうしゃくけ)の後継の血筋には勿体無いくらいですわね」


「そ、そうですな。未来の国王陛下の従兄弟君でしたかな?」


「ええ!ジュリアン殿下はそれはエミールを兄の様に思って慕って下さっているのです。それでランドール公爵家のお話でしたかしら?確かにあちらは美しい一族と評判ですけど、エミールはローゼ門下一のアーデン家の後継ですもの。あちらの血を受け継いでいた所で、ローゼ一門だという事実に何の不都合も御座いませんわ。それにアーデン侯爵夫人は中立派のカルヴァートン子爵家からのお輿入れだとお聞きしています。それを鑑みてもランドール家からいらしたのではないのですから、その辺りは侯爵様にもくみ取って頂きたいと思ってしまうのは私だけかしら?リューク伯父様やうちのお父様にも相談させて頂きますわ」


「ちょっと!レティシア!!侯爵様に失礼だろう!?」


エミールがレティシアを後ろに下げてルドゥーテ侯爵に謝罪すると、ルドゥーテ侯爵はエミールに深く頭を下げて「お気を悪くさせて申し訳なかった。ただお美しい顔立ちだと申し上げたかっただけなので、リクソールの姫君にもご理解頂けたらと思う。本当にご兄妹の様な仲の良さですな」と言ってレティシアにも「大事な兄君のように思われるエミール殿をご不快にさせてしまって申し訳無かった」ともう一回丁寧に謝ってくれた。


♢♦♢


「ルドゥーテ侯爵って意外と話が分かる方だったのね。今迄、何て言ってやろうかと思って来たけど、私も家の事を考えて言えなくてごめんなさいね。でもこれからはローゼ家の後継の婚約者として振る舞うと決めたから、エミールの事は親戚としてではなく、アーデン家の子息として言われたままにはして置かないわ!それにローゼ家が高貴な一族だと言うのなら、ランドール家だって同じ位高貴な血筋な筈でしょう?エミールは、ここで一番高貴な血筋だと言っても過言じゃないって言うのに、嫌味なんて言われる筋合いなんて元々ないのよ」


「ありがとう。でも令嬢が表立って侯爵に歯向かっては駄目だよ。レティシアの評判が落ちてしまったら、それこそ僕の出自の事を言われるよりもずっと悲しくなってしまうよ?これからは、もう少し遠回しに返した方がいいと思うな」


「ごめんなさい。エミールは、いつもそうやって返してるわね。でも私からすると、もう少しきつく言わないとスッキリしないし、毎回しつこくてイタチごっこなんだもの」


「社交界は、相手の弱味に付け込むからね。そういう意味では僕に言える事がランドール公の血筋を引いているって言う事だけだから、毎回こちらも対処がワンパターン化してしまって、もう挨拶と同じだと思っていたんだけど、それでもレティシアが怒ってくれたら、本当は怒らなくちゃいけない事なんだって思い出したよ。これからはアーデン家が舐められない様に対処するから、レティシアはあまり怒ったりしないでね」


エミールがふんわりと微笑んでレティシアを(たしな)めた。会場中からエミールの美しい微笑みに溜め息が彼方此方(あちこち)から漏れた。


「それで今日はアンディに見て貰いたくて綺麗にして来たんでしょう?アンディの所に行かない?」


「さっき目が合ったから、もう見てくれてると思うわ。私エミールにお願いが有るのだけど、三人で休憩室とかで話せないかしら?アンディと二人だと、またキツイ事を言い合ってしまって決裂してしまいそうだし、結婚もあと二年後に迫って来たでしょう?流石にもう関係を修復しないといけないと思っているの」


「計画をすすめるって言う事でいいのかな?」


「それは目標としては有るけど、もう少し根本的な事から話し合いたいと思って…」


今日の見た目と相俟っていつもよりも殊勝なレティシアを、エミールに用意されている部屋を教えて、侍女を案内につけてから、アンディを誘ってレティシアの下へ向かった。リリアナには、アンディとレティシアと三人で少し休憩したいと言う事とルドゥーテ侯爵へのフォローを頼んだら「レティシアがごめんなさいね」と笑って請け負ってくれた。元公爵令嬢のリリアナに謝られたら、ルドゥーテ侯爵もレティシアの事を悪くは言えないだろう。


レティシアが待つ部屋に着くと、アンディが気まずい顔で目を泳がせた。エミールが先日アンディから歩み寄る様に諭した事で、何と言おうか言葉を選んでいるのだろう。


取り敢えず、ノンアルコールカクテルを緊張する二人に勧めた。エミールはこの家では客なのだが、エミールに用意された部屋に連れて来たので、一応もてなす側に回った。


「その、俺もこれからの事を話したいと思っていた。今迄こちら側の都合で婚約して貰ったというのに、子供の様な態度をいつまでも取り続けて悪かった…」


アンディがそう言うと、レティシアがびっくりしてエミールに助けを求めて来た。アンディはレティシアに対しては虚勢を張って来たので、尊大な印象が強かったのだろうが、それ以外の人間に対しては、それ程傲慢に振る舞っている訳ではなかった。


エミールは、無言でただレティシアに笑い掛け、大丈夫だと肩に手を置いて、アンディの方に向けた。


「いいえ。先に謝罪されてしまったけれど、私も謝りたくて来て貰ったの!本当に今迄ごめんなさい!私、今迄アンディに対して勘違いしていたわ。恥ずかしい事なのだけど、アンディは私の家の権勢とお母様の血筋を目当てにして、私と結婚したいのだろうと傲慢な考えでいたのだけど、すべては領民のためで、アンディは私なんかと結婚しなくちゃ行けないし、実家の発言力も強いから面倒だしで、アンディ自身には何も良い事なんてないって気が付いたの」


レティシアが早口で言い切ると、流石にエミールがフォローに入った。


「レティシアが今迄思って来た事だって勘違いではないよ。そりゃあアンディはローゼ公爵家の嫡子だから、実質トップの家柄だけれど、それでもリクソール侯爵夫妻は、爵位以上に社交界で権勢を誇っているし、怒らせたら恐いというのも皆分かっているから、敵に回したくない家のナンバーワンを独走状態だし、ローゼ家よりも派閥に囚われないで良いから、中立派もほとんど取り込んでるし、ランドール穏健派まで最近は仲人役を頼んで来る位でしょう?その家の娘と結婚出来たら、面倒な根回しとか、殆どしなくてもいい状態で公爵家を継げるんだから、アンディだってレティシアが協力してくれたら心強いに決まってるよ」


「エミールはそう思ってくれるかもしれないけど、アンディの好みとか考えたら、私とは程遠いだろうって思ったし、それにエミールも言っていたけど、敵に回したく無いナンバーワン独走の家の娘と結婚して浮気とかって自殺行為じゃない?私は黙って居ても、お父様の情報収集力って物凄いから、絶対に嫌がらせされるから、この先アンディに好きな人が出来ても、恋の成就は無理なのよ。私って考えたら、ローゼ家かランドール家以外だったら、有難味の方が勝ってくれるかも知れないけど、元々大家な家だと面倒な女だって気付いたらアンディに申し訳無くて…」


アンディが口を開こうとしたが、更にレティシアが言葉を続けた。


「それでも結婚は、お互いの家の為に絶対にしなくてはならないから、せめて信頼関係のある夫婦になりたいと思っているの」


レティシアが完全に折れた形の和解の申し込みに、エミールはアンディに冷たい視線を向けた。


「ちょっと待て!エミールもそんな目で見るな!俺だって心を入れ替えて、レティシアに結婚を乞おうとしていたのに、レティシアの勢いが凄いから、レディファーストのつもりで先に話を聞いてから、俺もレティシアに頼むつもりでいたんだ。その、本当にレティシアをそこまで思い詰めさせる態度を取って来て申し訳無かった。レティシアは身内だと思って来たし、ずっと結婚するのが当たり前だと思って胡坐をかいていた。正直、他の女は対象外で好みとかは考えた事はない。だから、他に気持ちを移す様な事はしないと誓うから、俺と一緒になって欲しい」


「七十点くらい?」


エミールが必死のアンディのプロポーズの採点をすると、レティシアは「八十点……ってところね」と笑った。


「兎に角、アンディがそう思ってくれているなら良かったわ。実は、ジュリアン殿下が私を妃にしたいと言い出しているらしいの。今迄は陛下が勝手にお母様の娘を息子の嫁にしたがっていただけだったけど、ご本人が声高に仰られると成ると、厄介な事になるでしょう?だから、これからは仲睦まじい姿を周りに見せて行って、殿下が軽々しくそういう事を言えない状況に持って行きたいと思っているの。元々、婚約者がいる私を妃になどと仰られるのは、アンディと上手く行っていないと思われているのが原因だと思うの」


「ジュリアン殿下かー!それはあっちも命知らずだねぇ」


エミールは軽く笑うが、アンディは頬の筋肉が引き攣った。


「殿下は婚約者をなかなか決めないと思っていたら、よりにもよってレティシアに目を付けて来たのか!!」


「私達が隙を見せなければ大丈夫だと思うけど、うちは親子二代で王家を袖にしたと言われたくないし、王家の威信を地に落とす様な事は避けるべきでしょう?」


「その件は僕が母上に話して置くよ。ジュリアン殿下に浅慮な言動は止める様に王妃様から言って貰うよ」


「そうね。リクソールやローゼが出て行くよりも、王妃様の妹君のマリアンヌ様が行かれた方が角が立たないわ」


「そうだな。うちの父上だと陛下に説教をしだすし、リクソール候では、もっと容赦無い事をして、ジュリアン殿下の身が心配だから、エミールの母上に頼んだ方が良いだろうな」


「そうよね。リューク伯父様って陛下のご友人でもあるから、遠慮の無い物言いを許されておいでで、流石、リューク伯父様って感じよねー」


「お前、婚約者の父親に横恋慕とか洒落に成らんからやめろよ!」とアンディが言うと、エミールが「うちも父上がリューク兄上信者だよ」と悪戯っぽく囁いた。


レティシアも「うちもお母様がめちゃめちゃブラコンだし、お父様まで、リューク義兄上って慕ってらっしゃって、リューク伯父様って偉大だと思うわ。だって、うちのお父様って基本的に自分の上に人を置かない人なんだもの。リューク伯父様の跡を継ぐのは大変よ!」と怖い事を言い出した。


「分かっている。これ以上プレッシャーを掛けないでくれ」とアンディは苦り切った渋い顔を見せた。


エミールは、他の二人やレイモンドやリリアナの様にリュークに心酔している訳ではないので、リュークが前ローゼ公爵の実子ではなく、エミールの祖父のユリウスの子だった事で、相当な苦労があっただろうという事は予想が付いた。なので、リュークの今現在の実績は、レイモンドやリリアナやリクソール候の助けがあっての事だと思っている。だからアンディのことは、自分やレティシア、ミゲル、ルシアンで支えて行くつもりだった。だが、気難しい事で知られるリクソール候までリュークの信者となると、流石にリュークの偉大さに、跡を継ぐアンディは荷が重そうだと溜め息が漏れた。



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