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「絶対に嫌です!!」
メルヴィナはオルグレン伯爵嫡子コンラッドとの婚約を伝えられて、そう言い放った。
「お姉様。これはローゼ公爵家からの救済なのですよ。どれだけ有難いお話かお分かりにならないのですか!?」
年子で一つ年下のテレサが驚きを隠さずに姉の事を非難すると、メルヴィナは「だってずっとエミール様と結婚出来るものと思って来たんですもの」と涙を流した。
メルヴィナは幼い頃からずっとエミールを慕って来た。そしてずっと自分が婚約者になるものだと信じて疑っていなかったのだ。
「お父様!今からでもアーデン家にお願いすれば、モーヴァンとはまだ婚約段階ですし、お考え直して下さるかもしれません!!」
ルドゥーテ侯爵は決して娘に甘くして来た訳では無かったが、アーデン家とモーヴァン家が若干弱って来ていた所為で、ルドゥーテ侯爵家に擦り寄ろうと、メルヴィナにも取り巻きの令嬢などが出来ており、その娘達がエミールに憧れながらも、侯爵夫人になるのはきっとメルヴィナだと言い合っていたようだった。
しかし今のルドゥーテ侯爵家の状況を考えれば、リクソール家に目を付けられて潰されそうになっている所を、派閥の長であるローゼ家からの迂遠な助けである事は聞くまでもない事だった。
テレサに分かる事が、同じ教育かそれ以上を施したメルヴィナに分からないのは、エミールへの恋ごころ故か、資質の問題かは不明だが、ルドゥーテ侯爵もこの窮地なったのは自分の責任なのを棚に上げて、我儘を言うメルヴィナに眉を顰めた。
「では、テレサで良い。幸いオルグレン伯爵家からは、名指しで来てはいない。オルグレン家は公爵夫人であられるローレンシア様のご実家だ。その嫡子殿に不出来な娘を差し上げる事は出来ない」
ルドゥーテ侯爵は、エミールに嫌味を言って来る様な子供っぽい性格ではあるが、主家であるローゼ家に忠誠が篤い人物だった。それ故にどうしてもランドール公爵家の血筋のエミールの事が受け入れ難い気持ちが強く出てしまっていた。
メルヴィナが「では、私はエミール様と結婚出来ますのね?」と笑んだ事で、ルドゥーテ侯爵はメルヴィナを他家に嫁がせる事を諦めた。
メルヴィナの身分から言って、嫁ぎ先はどうしても嫡子の夫人となる。そうすれば、そこの家や領の切り盛りなど、今の危機的状況を把握出来ないメルヴィナには到底無理だろう。仕方がないが、ある程度の年齢になってから修道院に送る事になるだろう。
テレサは「かしこまりました」と答えてから、オルグレン家との顔合わせ前に、オルグレン領の詳しい資料を取り寄せて欲しいと頼んだ。侯爵は同意してから、テレサが今迄姉のメルヴィナを立てて、爪を隠して来た事を悟った。
オルグレン伯爵は、官吏としても能吏の名高い切れ者である。もしかするとメルヴィナを名指ししてこなかったのは、最初からテレサが良いと思っていたのではないかとルドゥーテ侯爵は思った。次女を嫁がすからには、オルグレン家には正直にメルヴィナが不出来な為だと言わなければならない。
ルドゥーテ侯爵はメルヴィナにはしばらくの間の謹慎を伝えて、オルグレン家に使いを出すと、案の定「テレサ様を歓迎いたします」という返事が返って来た。
他家から見てもメルヴィナでは駄目だと思われていたのかと、侯爵は娘が少し不憫になったが、家の存続の為には身内といえども甘やかす事は出来なかった。




