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リリアナ視点です。
エドワードはアンディが去ってからも「賢そうだしローゼ家の品と風格がある子だねぇ」とアンディを誉め讃えた。
「エドワード様は、王都にいらした時は、あんなにも女性関係が華やかでらしたのに、ご結婚されないのですもの。意外でしたわ。ランドール家の方針ですの?」
「兄からは好きにして良いと言われて居るが、後継問題はうちの場合はほぼ起こらないが、私の子の嫁ぎ先や婿入り先の争いが起こりそうだから、兄上の子が生まれれば、私は結婚しないつもりだったんだよ」
「そうですね。エドワード様の子がいらしたら、公爵のご側室の姫たちの価値が下がってしまいますものね」
エドワードはリリアナは女性にしては、言い辛い事をハッキリ言うので、くくっと悪い笑みを見せた。リリアナが言う通り、家臣に降嫁させる側室腹の姫たちと、エドワードの正妻の子では、エドワードの子の価値が上がり、相対的に前者が下がってしまう。それを避けるためにアドニスの子がある程度人数が産まれた時点で、エドワードは様子見にしていた結婚を止める事にした。
「嫡子様が二年後にいらっしゃる時に、エドワード様はお付き添いには成られないのですか?」
「私と、嫡子のアンソニーは、リスク回避の為に一緒には出掛けられないからね。ランドール家は、子は多くとも継承権が有るのは正妻腹の子だけだし、次男も居るけどまだ継承権は私が上だからね」
「そうですか。ローゼ家は警備は尽くしますが、公爵自らが王宮に出仕する身ですので、普段の外交努力で暗殺を阻止していますね。勿論暗部の者は、常に着いています。本日はリクソール家にランドールの護衛は、こっそり入られているのですか?もしも入られているのでしたら、出て来て護衛して頂きたく思いますわ。昔の王家の影の件から、そういう手合いの者に対してセフィールが容赦しませんので、お命の保証が出来かねるのです」
「ふふっ。影の心配をしてくれるとは、相変わらずリリアナ殿は優しいね。でも大丈夫だよ。うちは勘付かれる様な腕の悪い者は連れて来ないのでね」
「それは結構ですわね」と開いた扇子の影でリリアナが笑ってみせる。連れて来ているか明言しない辺り、エドワードの中の狸は健在の様だ。
「それで、シャルロットは、リリアナ殿のお陰で社交界の地位は盤石の様だね。マリアンヌから話は聞いているが、王妃派はリリアナ殿達の中立派で固めらていて、ランドール派でさえ、リクソール侯爵家恐さに王妃の近くには寄れないという話には感心したよ。やはり、リリアナ殿と契約したのは正解だったね」
「いえ。後見は一応フィリップ様がなさり、婚姻の時はマリアンヌの縁でアーデン家が父親役を務めさせて頂きましたが、女性だけの場では中立派が無難なのです。王家に反旗を翻される可能性を潰すには、仲を深める事よりも、仲が悪く成らない事を心掛けるべきなのです。ランドール派は多少は不満も有りましょうが、シャルロットと私の仲の良さをエドワード様が王都にいらした時からアピールして居りましたので、私の取り巻きを中立派にする事で、そのまま王妃様の取り巻きに持って行けました。リクソール侯爵家が中立派の有力家だったのが幸い致しましたわ。それにジュリアン殿下のお相手も中立派のクロフォード家をねじ込みます。王太子様もそれで安泰の筈ですわ」
「そうだね。クロフォードもいい加減分を弁えないと、潰してしまおうかという話は、ランドール領内で毎回議題に上がる位だからね。ただ手間を掛けても、こちらもローゼ家とルクソール家と戦うのは避けたいところだし、面倒だから王家に献上しようかという結論に成りそうだったから、王家との婚姻で多少はクロフォードの利益は残る様にすれば、こちらも戦の損害が無くて済みそうで安心したよ」
どこまで本気かは分からないが、リクソール領と先に密約でもして素通りして行く算段だったのだろうかとエドワードの顔を見た。
「何もランドールの物にしようという訳ではないから、セフィール殿にも関わらないで頂ければ、クロフォードだけ潰して去ろうかという話が出ていたのだけど、流石にリクソール夫妻は耳が早いね」
リリアナはそんな情報は得ていない。ただ、そういう危険性を考慮してクロフォード侯爵家を説得するつもりだったのだが、一足遅ければ大惨事に成るところだった。
一応、攻撃前にはこうしてエドワードが根回しにやって来るだろうが、もしかすると、クロフォード家との交渉具合がシャルロット経由で話が行って、リリアナに詳しく確認に来たのかもしれないと考えた。
しかしここでいい加減な事を言っても信用を落すだけなので、どちらかと言うと王やジュリアン殿下が、賛成していないという現状を話した。
「陛下も大概しつこいけど、レティシア嬢を狙うとは、ジュリアン殿下も教育をしなおさなければ成らないねぇ。陛下はもう育っちゃってるから諦めるにしても、シャルロットの下に凄腕の教師をランドールから送り付けて置くから、レティシア嬢の事は心配しなくても大丈夫だよ」
にっこりと美しい笑顔で言うエドワードは、リリアナから見ても恐ろしい。年齢を感じさせないのに、凄みだけは完璧に倍増ししていて、ランドール家の参謀の地位を欲しいままにしている様だった。だが、ジュリアン殿下の件は事も無げにエドワードが片付けてくれるらしいので、クロフォード家に説得に早めに行き、言質を取ろうとリリアナは心に決めた。リュークやフィリップにも圧を加えて貰っているが、家が取り潰されそうだと匂わせる事も、最後は視野に入れようとリリアナは思った。




