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アンディはリュークにエミールとの事を話した。


「私の勝手でした事で、エミールに此方の思う縁談を勧められなくなってしまいました。それに甘いと叱責される事を覚悟で申し上げますが、エミールとはミゲルとよりも近しい関係だと思って来たので、これからエミールと距離を置く事になるのも(こた)えているのです」


そう弱り切ってリュークに話すと、リュークは思いの外優しい顔を見せた。


「アンディはきっと私に似てしまったのだろうな。私も若い頃は甘いと年下のセフィール殿にまで言われてしまう位だった。あとはエドワードにも言われていたな…」


「エドワード様とは、ランドール公爵の同腹の実弟で、実質ランドール領を治めておられる方ですよね?」


「ああ。ランドール公爵はアドニス殿というのだが、基本的に公爵はランドール領を出ないから、領主が表に出なければならない時にはエドワードが今でも出て来る。エドワードは、フィリップ殿がこちらに来る前は王都で私と王の側近をしていたのだ。だが、アドニス殿が公爵位に就かれると同時にランドール領に戻って行ってしまった。ランドール領もうちと同じで、手綱を握れる人間がエドワードしかいなかったからだ」


「正妻のお子でないと、ランドール領ではお力不足だという事ですね」


「そうだ。今はレイモンドがローゼ領を治めてくれているのと同じだな。だが、アドニス殿が公爵位を継ぐまでは、私よりも先に王に仕えていたし、王も信頼を寄せていて…そして私も信頼して頼りにしていた」


「父上とランドール公の腹心に当たる弟君が、その様に近しい関係だったとは、聞いた事もありませんでした。お爺様世代は表立って戦わなかったものの、一触即発の状態だったと聞いておりましたので、その様に親しくされていた事はとても意外です」


「そうだろうな。エドワードとは遠慮の無い付き合いだった。たしか『君の甘い所は嫌いではないけれど、それではうちには勝てないよ』と言っていたな。ちょっとふざけた奴だったが、エドワードが王都に残ってくれていたら、私は宰相をしていなかっただろうな」


リュークが遠い目で懐かしそうに話すので、リュークがとてもエドワードが好きだったことがアンディにも伝わって来た。しかし、完璧だと思っていた父が、リクソール候やエドワードに甘いなどと過去に言われていたという事実も意外だった。


「エドワードは、王都に未練など少しも見せずにランドール領に戻ってしまって、近しいと思っていたのは此方(こちら)だけだったのかと寂しい気持ちになった」


そう言いながらも微笑むリュークは、きっとアンディを慰めてくれているのだろう。


「お前は、エミールと離れる訳ではないし、ローゼ家とアーデン家は切っても切れない間柄だ。今回、意見の相違や価値観の違いが有ったところで、アンディはエミールを頼れなくなる訳ではないのだから、そんなに落ち込む事はない。それにセフィール殿も口は悪いところはあるが、何だかんだとうちを立ててくれるのは、私が甘いから助けてくれているのだと思う。皆に支えられて、何とか公爵や宰相が務まっているのだから、有難い事だな。アンディも完璧である必要はない。周りに支えられてこその長なのだから、弱い所を見せられないと虚勢を張らずとも大丈夫だ。まずは私がいるのだから、今は特に失敗を恐れる必要はない。こうやって報告する事は大事だがな。これから二人でエミールの篭絡とルドゥーテ侯爵家を助ける相談でもしようか?」


「ろ、篭絡ですか!?」


「何も男色に走れという意味ではないぞ。ちょっと冷たいだろうとアンディが思っているのなら、エミールの壁を取り払って付き合いたいのだろう?アンディが頑張れば出来ない事もないと思うがな」


「ルドゥーテ侯爵家を救う事は可能なのですか?」


「それは……少しは侯爵にも反省して貰いたい部分もあるのだが、リリアナに頼めばどうにかなるかな…。セフィール殿は、こちらが嫌がる事に快楽を覚えるところがあるから、そういう意味では頼ると余計な地雷を踏む事になるからな。お前もレティシアと結婚すれば舅となるのだから教えるが、セフィール殿は恩に対しては誠実な方ではあるのだが、趣味趣向の面では問題が大有りな方だ。意味のない事はしないと高を括らない方が良い。かなり用心して掛かる必要がある。そしてリクソール家に関わる事は、まずは親族でもあるリリアナを通した方が良い。今からお前の事が心配だが、セフィール殿については私が出て行くと、セフィール殿が余計に面白がって、お前を困らせる事をしそうで頭が痛くなってくる。…まずはそういう人だという認識を持つ事が大事だ。…敵ではないが、味方かと言われると味方ではあるのだが、面白い方を優先させる困った人でもあるのだ」


アンディは、世間一般で言われるリクソール侯爵と、父が語るリクソール候爵との違いに驚いてしまって何も言えなかった。ただ大分世間で思われているよりも更に厄介な人が自分の舅となる事実を受け止めなければならないという事と、リリアナを頼るしかないとリュークが諦めている事は分かった。しかもアンディを心配する様子は今迄みせた事がない顔だったので、そういう性癖がある方だとアンディに話せる年齢まで伏せていたのだろうと察せられた。


それにレティシアがその様な事を言っていた事も無ければ、噂にも上った事がない話だったので、リクソール候の変わった面を見せる相手と場面が、かなり狭い範囲なのだろうとも思った。しかしリュークの心配しようからすると、アンディはその狭い相手になりそうなのだと、リュークが思っているのだろうという事も、同時に察する事になった。


未知の世界の扉が開かないと良いが、リュークが言い辛そうにしながらも忠告して来た事なので、重く受け止める事にした。


エミールの事は、リュークとエドワードとの関係と重ね合わせて考えると、物理的な距離が離れる訳ではないのだから、心の距離は縮める事は可能だろうと、長いスパンで考える事に決めた。篭絡は冗談にしても、エミールの考え方や、アンディへの感情も、変化しない訳ではない。それを良い方に向ける努力をするのは、考え様によれば楽しい作業と思えた。しかもエミールはアンディに悪感情を持っている訳ではないので、何もマイナスからのスタートではない。


そしてリュークも皆に支えられて来たと聞いて、アンディも随分肩の力が抜けた。派閥の長はみんなを守る人ではあるが、皆からも守られているのだと、リュークを見て思った。


アンディも、リュークの様な公爵を目指し、そしてその助け助けられる輪の中心付近に、エミールやミゲルやレティシアがいてくれたら良いと願った。


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