その6
ヤハラは布陣をたたみ、王都へ兵を進めるべきだと言ってきた。使者は追い返した。新領地は王国に対し、完全に反旗を翻したのだ。もう遠慮はいらない。徹底的かつ速やかに攻め込むことを訴えてきたのだ。
ノボルはその意見を飲んだ。ただし、友軍は多いに越したことはない。中将派領地に進軍の意志を文で伝える。
「だがヤハラどの、出撃は明日の昼になるな」
すでに日が暮れはじめている。朝から布陣をたたみガマ司令官に挨拶していたら、それくらいにはなる。
そして、食糧などの補充が必要だ。手配しておかなければならない。ヤハラに行軍予定を立てさせ、各地のたぬき商会に援助の要請を出す。
「あまりに急ではないだろうか?」
これだけの人数の食糧だ。そう簡単には賄えまい。ノボルはそう思ったが、「そこを用立ててしまうのが商人です」とヤハラは言った。ついでに言うならば、最近では何を商いしているかわからないくらいに手広く事業を展開しているたぬき商会だが、元は物資の買いつけ運搬販売をしている。この程度の品を用立てるなど、造作もないことだった。
そして現金も必要だ。実弾は何よりもものを言う。しかしこれに関しては、これまたたぬき商会の新事業両替商により、いつでもどこでも引き出すことができる。……分かりやすく言うならば、たぬき商会銀行が立ち上がっていて、雑兵第二中隊予算はそこに預けられているのだ。
翌朝。
各隊指揮官を集め、行動予定を説明する。
一応行軍という言葉を使ったが、決起であることは伝わっているようだった。なにしろ目的は、国王とボルザックの首を落とすことにあるのだから。
それでも過激な言葉を使わなかったのは、殺害目標はこの二人だけだったからだ。他には手を触れない。それが原則である。
「しかし、相手の出方によっては市街戦攻城戦となりうる場合もあります。その際は臨機応変な対応を求めます」
「国王とボルザックを討ったあとは、どうされますかな?」
質問の声が上がった。
「俺が国王となります」
ノボルは平然と言った。現行、国をおさめるだけの能力があるとすれば、ノボルたちの集団しかいないからだ。
先に述べた通り、ノボルの背後にはたぬき商会がいる。そして政治経済を切り盛りするため、ヤハラがいる。そしてこれまで倒国のために準備をしてきた。つまりプランがある。
とはいえ、首都を移転させたり人事移動をしたりと、しばらくの間は引っ越しのような仕事ばかりになるのだが。しかし、彼らのようなノープランにまかせる訳にはいかない。そんなことになれば、世は麻の如く乱れてしまう。
「まあ、俺が国王になっても、悪政と判断したらすぐに斬りにきてもらえば良い。いつでも首は差し出すさ」
「もしもこの中に」
ヤハラが付け加える。
「自分が玉座に座ってみたい、と思われる方がいらっしゃったら、どうぞ遠慮なく。……ただし、ボルザックが使い込んでいますから、城の金庫は空っぽ。イズモ商会にも借財があり、今回の行軍でたぬき商会にも借りを作ってますので。御了承を」
当然のことだが、誰も名乗り出る者はいなかった。
「新国家の人事は引き継ぎなど雑務が済むまでは、現行維持としますが、三年をめどに新体制へと変更を予定しています。その場合、皆さんにも御助力願うことがあるかもしれません。その際は快く引き受けていただきたい」
新体制のプランは、冬の決起以降ヤハラが練っていたものだ。現在の王国ではまかないきれない部分に、補佐を入れている。とりあえず人材は足りていない。若い力、あるいは地方の有力者から、投与しなければならない。
「ちなみに来年からの年貢は、通常に徴収しますので……ごまかしは手心を願いたい」
自分で散々やっといてそれかよ、と笑いが起こった。
これから革命、テロリズム、反乱行為に走るはずなのだが、妙に雰囲気が明るい。
剣は命を懸けて執るもの。そう習い覚えてきたノボルには、新鮮な感覚である。




