その2
火曜日更新
打ち合わせた通り、西軍兵士はコズミク城周辺に続々と集結した。指揮官はガマ司令官、ということになっている。
酒と女と薬物に溺れきったダメ人間に成り下がっているが、それでもこういった場合には背筋を伸ばして現れる。
「西側領地は飢饉にあえいでいる。民は今、飢えに苦しんでいる。本来ならば国は、我々に救いの手を差し伸べなければならないところを、飢え死にしても年貢を出せと言ってきた。このような指示には従えぬ。領民を守るのだ。それができるのは遠路をものともせず集まってくれた、お前たちしかいない。健闘を祈る」
威勢は良いが、ガマ司令官にできることはここまでだ。不摂生が祟っているに違いない。肌が明確に衰えている。その証拠とばかり、司令官はすぐに奥へと消えてしまった。
「ヤハラどの、各地の領主……隊長たちを集めてくれ」
「御意」
各地の領主といっても、軍の中でノボルより階級は上だ。そこをあえて呼びつけた。
ヒノモト・ノボル率いる雑兵第二中隊が、この軍の中心だということを明示すためだ。
そして、呼びつけるまでもなく現れたのは……。
「師匠!」
「……お久しぶりです」
たぬき商会所属のロウとテライモ、そして配下の者たち。さらには元決起軍残党が、自然と集まってくれた。たぬき商会の仕事もあるというのに、しかしそれでも七〇〇人近い人数がいた。
兵士たちは再会を喜び合う。七〇〇人の中には、かつてひとつの雑兵隊として共に戦った顔もあったのだ。
その官民入り乱れた人だかりをかき分けながら、各隊長がノボルのもとに集まった。
ノボルは行動の趣旨の演説する。
「皆さん御存知の通り我々は現在、年貢を通じて中央に揺さぶりをかけています。これに対して中央は、領民などどうでもいいから年貢を出せ、と来ました。これは参謀ボルザックのみが悪い、という単純なものではありません。王室までもが、ボルザック派に堕ちた証拠です。かつてドラゴ中将の存命中、国王がこのような愚策をとったことが、あったでしょうか? なかったはずです。我々は将来、この暗君を討ちます。国はもう、そこまで堕落してしまったのです。ただ、今回の行動はあくまでも年貢の徴収に応じられないと、訴えることが目的です。国王とボルザックに責任をとってもらうのは、少々お待ちください」
相変わらず、説くのは下手くそだ。どれだけ真意が伝わったものだか、怪しいものだ。それでも隊長たちは趣旨を汲んでくれたようだ。場が一気に燃え上がる。
その時、敵兵は本土からの峠を越え、すでに西側領地に足を踏み入れている、と報告が入った。明日、明後日にはコズミクに到着する予定だ。
ノボルは各隊に野営の準備にかかるよう指示。まだ具体的な戦闘の指示は出さない。これは戦闘行為ではなく、兵を率いてきた者に対応しているだけなのだ。
まあ、みんなヤル気は満々なのだが。
野営は市街地の外、街道を挟んでの配置である。そして市街地への入り口には、切り出してきた樹木を組んだバリケードを据えた。そこへ西軍の約半数とたぬき商会兵団の半数、二〇〇〇人にもおよぶ兵がたむろしている。すべてヒノモトの装束。腰に大小、和槍を立てて。たすき鉢巻きは揃いの柿色であった。
しかし、街道は一般人も通る。ワイマール方面へ行く者は一人一人止めて、「ワイマール軍に質問されたら、コズミクの街は平穏無事。しかし不作のせいか田畑は枯れている」と答えるよう、言い聞かせた。
その夜は露営である。たき火をたき、不寝番を立て、完全な戦時体制で休息に入る。
ノボルは陣幕の中にいた。ヤハラとともに地図を眺めている。コズミクの地図ではない。東西統一を果たしたワイマールの地図だ。
本土の各領地に、ヤハラは石ころを置いてゆく。
「これが、ボルザック派として残っている領地」
かつて権勢を誇っていた頃より、明らかに数が少ない。
「そしてこちらが、中将派領地」
そこにはコインを並べる。いや、中将派領地が並んでいると言った方が良いか。
ヒノモトから、ルグル侯領地から伸びたコインの列が合流。その列は、首都ドクセンブルグへ続いている。
「ずいぶん増えたな」
「たぬき商会の功績です」
そのたぬきだが。
「貴殿はまだ、イズモ商会と激突すると思っているのかね?」
ノボルが訊くと、ヤハラは渋い顔をした。




