挙兵に御座候
夏は過ぎ行く。
今年もまた収穫の季節がやってくる。一年を賭けた農家の大博打が、実を結ぶ時である。
ノボルはコズミクの城に上がりガマ司令官に、本土から来るであろう視察団への対応を要請した。何しろ二年連続だ。本土とて黙ってはおるまい。しかも今年は西側全土で凶作を演じるのだ。ただで済むはずがない。ついでにいえば、西側全土どころではない。本土領地でも一部中将派の領地、そしてヒノモト州までが年貢のごまかしに協力してくれるのだ。
ボルザックとしては、大打撃に違いない。
国が発注した城の修復、河川への堤防強化などの事業は滞り、賃金未払いや工事そのものの中断が相次いだ。
しかしそれでは民が飢える。そこで手の空いた大工衆、作業員たちは西側に招き、本土人民の評判を上げていた。
もちろん来年は、中将派領地もこれをやる。現行の体制から、民を次々引き剥がすのだ。
昨年の脱税だけでも、「いまの王国で大丈夫なのか」、という気運は広がった。今年はさらに、ということになる。
ボルザック派窮地というそんな折、商人が経済の安定をと各領地に、商いの話を持ち掛けてくる。たぬき商会だ。現在たぬき商会には、実績がある。ヒノモト産の品をアサルトで商い、大きな利益を上げていた。しかも現在は、南北諸国へ商いの手を伸ばしたいと、明確なビジョンを示している。
たぬき商会は、まだ伸びる。そのような印象を与えれば、たとえボルザック派領地でも飛びついてきた。
ここでボルザックに目を向けてみると、財政に窮しているのが手に取るようにわかった。もはや待った無し、の状態である。イズモの使者はしびれを切らし、今か今かと債権の取り立てを急かしてくる。
「こうなると、どう出てきますかな、ヤハラどの?」
「殿、わかりきった顔でその質問。意地が悪くございます」
そういうヤハラも、笑いを隠せない。
こういった場合、人間がとる行動に身分の貴賤は無い。必ず犯罪に手を染める。より具体的に言うならば、抜け荷だった。密偵たちの働きで、その確証を得た。
一度は見逃した。
二度目も見逃した。
しかし三度目。調子づいて荷の嵩を増やした時だ。
ロウ入道、テライモたちといったたぬき商会輸送部隊が突入し、「悪の陰謀」を見事阻止したのだ。偶然に抜け荷の現場に出くわした、という体を装おってだが……。
たぬき商会の評判は、瞬く間に全土に広がった。不況ムードに覆われた暗い世相だ。痛快な話題に民は飢えているのだ。
抜け荷の責任を問われて、ボルザック派がまた一人失脚した。それをかばいもしなかったボルザックは、さらに求心力を失う。もっとも、この身内をかばったとしても悪手だ。そんなことをすれば、ボルザックの悪事や勝手なイズモとの契約が、明るみに出てしまう。
二者択一。どちらを選択しても悪い目しか出ない。これは追い詰められた者の特徴だ。いや、追い詰められているから、どちらを選んでも悪い目しか出ないのだ。
そうならないように振る舞うのが、軍師。
ヤハラは言い切った。
「そもそもボルザック失敗の原因は、ヒノモト・ノボルという不穏分子を、見つけ出せなかったことに尽きます」
「いや、それは違うな」
ノボルは反論を試みた。
「俺の見立てでは、軍師ヤハラという悪の参謀を見抜けなかった、というのが原因だ」
「私が悪の参謀ですか。……では殿、このヤハラが悪どいという証拠を、ここにお出し下さい」
「……今日は星がきれいだなぁ……」
「逃げ方が大胆ですな、殿」
ヤハラに悪名をなすりつけようというノボルの試みは、あっという間に頓挫した。
そして秋。
この頃にはガマ司令官と、その取り巻き隊長たちは、すっかり骨抜きになっていた。穀物の作況を視察に来た本土からの使者を、接待漬けにした上で袖の下を重たくして帰している。
彼ら視察団のことを、ヤハラは気にもかけない。その通りだ。彼らは視察団であって、年貢の取り立てに来たのではない。袖の下を渡しているので、本土ボルザックへは嘘まみれの凶作報告が上がるのだ。そして実際の作物の出来が悪いのは、視察団の責任ではない。
そこへボルザックから、なりふりかまわぬ指示が来た。
「餓死者が出てもかまわぬ、年貢を差し出すように」
というものだ。
実際にこの愚策を受けて、西軍全体の怒りが頂点に達した。もちろん脱税したのは自分たち。しかし、だからと言って「餓死者を出せ」は無い。
収穫期に、ボルザックは使者を立ててくるらしい。脅し目的の兵も随伴するということだ。
「ヤハラどの、準備はできておるかな?」
「抜かりなく」
各領地とは打ち合わせが済んでいる。ボルザックが脅しの兵をよこすなら、ノボルたちも挙兵するまでである。




