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その4


 集荷場のすみに机を引き寄せ茶の支度に入る。茶菓子のかわりにと、アンジェリカが沢庵を切ってくれた。小皿に盛られ、爪楊枝が刺さっている。

「いかがでしたかな? 幻のヒノモト剣術というのは?」

「いや、凄まじい迫力でした」

 アサルト剣士アダムは、まだ汗をかいている。

「ここの流派は天神一流と申しまして、気合い気迫に重きを置いております。迫力というのでしたら、他のヒノモト剣術にはそうそう退けはとりません」

 茶が入った。渋いところを向かい合わせですする。

「近頃ではこのヒノモト剣術、ワイマールの西側領地……つまり旧ドルボンドで流行しておりまして、このブラフの田舎町にも天神一流以外の流派が二つ三つございます。あれこれたずねてみると、よろしいでしょう。喜ばれますぞ」

 はい、是非とも。アサルト剣士は答えた。やはり屈託のない笑顔だ。そして明るい。

「しかし、アダムさんと申されましたね。何故あなたの剣は、それほどまでに明るいのですか?」

 普通に感じた疑問だ。そうだ、この明るさゆえにアサルト剣術を、否定する気になれないでいる。

「性格のせいではありませんかね」

 アダムは言う。

「どうも私は物事要領よくといいますか、あまり熱心にならないといいますか。……というか、剣術が楽しくて仕方ないのですよ」

「楽しい?」

「はい、稽古場で木剣をとりまして……昨日はあいつに負けた、今日はこいつに勝ったとやっているのが、なんともこう……いいのですよ」

「……自由な打ち合いを、やっているのですか?」

「やっていないのですか?」

 逆に訊かれる。

 うむ、としか答えられない。

 アサルトでは防具を着込み、ハリセンに似た木剣がわりの得物を用いて、毎日打ち合い……というか稽古の主体がそれだというのだ。

 ヒノモト剣術は違う。少なくとも天神一流はまったく違う。

 初心者は木刀の素振り、それから型稽古。そこから内弟子になると、居合から始まる。居合で刀を覚えるのだ。それから木刀に戻る。型稽古……いわゆる組太刀は、居合を知っていると知らないとでは、味わいがまったく違ってくる。

 そして段階の進んだ居合、さらに段階の進んだ組太刀。これの繰り返しだ。自由な打ち合いなどというのは、そもそも発想自体が天神一流の中に存在しない。

 そんな稽古で実戦の役に立つのかい?

 当然のように浮かぶ疑問だろう。

 組太刀を形だけで練習していると、役立たずの踊りにしかならない。しかし、中身が入っていたなら別だ。

 つまり、相手がこうきて、それをこう返す。という約束のはずなのに、隙あらば師匠は別な場所を斬ってくるのだ。

 師匠がこうきたのをこう返して……を、返させてくれない。技が間違っていたらムッツリと、こちらを見ているだけなのだ。

 そうなると、ここからが地獄。稽古が足りていないという理由で、素振りや受けの型といった基本技を、延々と繰り返すのだ。

 三〇〇〇も振ったところで、「どうだ、この技がわかったか?」と来る。わかりませんと答えたら、もう三〇〇〇振ることになる。わかりましたと答えたら、組太刀に戻って「まったくわかっとらんだろ、バカモン!」と叱責され、やはり三〇〇〇素振りの始まりだ。

 最終的には「俺は教えるのが下手だなぁ」などと師がのたまい、稽古は終了する。しかし師匠にそんなこと言わせては、翌日同じヘマを繰り返せない。『寝ないで剣を振る』が始まるのだ。


 アサルト剣士に向かい、ノボルは言った。

「よく生きていられましたね」

「は?」

「いや、師匠とも剣を交えたのですよね?」

「えぇ、打ち込ませてもらいました」

 考えられん。

 師匠に打ち合いなど所望すれば、流派の教え方に不満ありと見なされ、良くて破門。悪くすれば稽古中の事故が発生することになる。もちろん稽古中の事故に見舞われた者は、二度と目を覚ますことは無い。



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