その3
暗く重たい雰囲気のままだったが、とりあえずブラフに到着した。姫とノラの仮住まいは、隊舎を仕切って用意してある、とヤハラは言った。
そして。
「殿、書類の確認を」
兵が荷物を運び入れている最中、ヤハラに招かれる。執務室へ戻った。
「決起軍が処刑されました」
いきなり言われた。
「全員か?」
「全員です。もちろん、ゴン中隊長も」
本来なら、王子たちの処遇を報告するべきヤハラが、先にゴンのことを語った。動揺からか、それともノラたちをかくまうノボルに、気を使ったか。
ヤハラの表情は硬い。動揺を抑え込んでいる。と読み取った。
ノボルは畳に座る。
「お裁きというには、あまりに早いな」
「ほぼ、お裁きは無いようなものだったと、うかがってます」
「都の様子はどうだろう?」
「事件を秘匿する方向のようです。ドラゴ中将派のあぶり出しというには、かなりの損失でしたから。第二第三の決起軍に立たれたら、ボルザックも求心力を失ってしまうでしょう」
それは俺に立てと言ってるのだろうか?
まさか、ヤハラに限って。
「ですが殿、こちらの損失はそれ以上です」
案の定、ヤハラは釘を刺してきた。
「虎の子とも言える決起軍を大半失い、なおかつボルザックを揺るがすことさえできませんでしたから」
「では、どうする?」
「戦力の拡大です。まずはこの新領地。こちらでヒノモト・ノボルの軍を、しっかり構築することです」
そのための、たぬき商会。そのための、剣術派遣である。
だけではない。
「新領地軍は、ドラゴ中将派がほとんどですから、殿にこれをまとめて頂きたい」
「できるかね、俺に?」
「たぬき商会が生み出す、利益というものがあれば」
なるほど確かに、戦さというものは、国益と呼ばれる利益のためにやるものだ。
「そうなると、合戦あとにたぬき商会も儲かるようにしてやらんと、キョウカどのは力を貸してくれんな」
「新王室の御用商人、という位を授ければよろしいかと」
「急に話がでかくなったな」
「では身の丈にあった話に戻しましょう」
新領地の中将派をまとめるだけでは足りない、とヤハラは言う。
ワイマール領内の中将派も、ぜひまとめてくれ、と来た。
「むしろあちらの方が、弾薬庫と言えそうですから」
「暴発しそうかね?」
「わかりません。今、ヒノモトの忍びを借りて、探らせているところです」
そしてヤハラが最重要と指差した領地がある。
地図のはるか東。山か森かという地域。
ヒノモト州である。
「ここの兵は数さえ知れません。それに現在の国王の好いていると、殿のお話でしたから、傀儡に堕ちたと失望させれば……あるいは……」
「ヤハラどの、情けに流されているぞ」
ヒノモト州にとって大切なのは、王室ではない。日用品の安定した供給なのだ。
「だからむしろ、たぬき商会の生む利。こちらの方が大切なのだ」
「なるほど。それでしたら、すでにキョウカどのが強く接触しておりますな」
新しい王室とたぬき商会が強く結ばれているならば、ヒノモト衆に不服は無い。むしろ喜んで年貢を差し出してくるだろう。
そしてたぬき商会が、いつでも食料を運んでくるならば、年貢のごまかしも「悪いクセ」程度におさまるはずだ。
「となると、あとの気がかりは……」
「ノラさんと姉姫だな……」
ゴンさんが、殺された。
その事実を、どう伝えるか。
人の心に関わることだ。どうすれば良いか?
チラリとヤハラを見た。
軍師は、「私の仕事ではありません」とばかり、書類に取り組んでいる。
「そう言えば、ヤハラどの」
「私は仕事中です」
「いや、ノラさんたちの話じゃないさ。……ヤハラどのは、女はまだか?」
ブッと吹き出した。
書類を汚したらしい。布巾で押さえている。
もちろん、クールな所作である。




