その2
ゴンの処遇についての話が、かなりうやむやになった。あるいは二人嫁が、わざとあやふやにしてくれたのかも知れない。そうでなければ、ノボルが返答に困ったからだ。
だが、ノボルを頼れと文があったのだ。ノラたちからすれば、その時点でお察しである。
とりあえず二人の生活を、なんとかしなくてはならない。たぬき商会に雇ってもらいたいところだが、それもどうなることか。
まだ弱々しい冬の太陽が、西へと落ちてゆく。ちょうど宿場町だ、一夜の宿をとる。
「ノラさんと姉姫さまたちでひと部屋、俺たちは大部屋で雑魚寝だ」
もちろん、不寝番は二人ずつ交代で。これは部屋の前に立つだけでなく、馬車の荷物番も立たせている。
宿に着くと同時、女たちは風呂へ。ノボルたちも烏の行水のように、さっさと湯を浴びる。それから夕食。酒は控え目に。控え目とは言ったが、そこは兵隊。常人以上に飲み、かつ食らった。
それが済むと、やることはもう寝るしかない。シンプル・ライフなのだ。
「あの、ヒノモトさま……」
廊下で、姉姫に呼び止められる。
「少々、お時間をよろしいでしょうか?」
ゴンのことだな? 直感した。いや、それ以外に、ノボルへ用事は無いだろう。かまいません、と答えた。
案内されて、二人の部屋へ。二人の番兵も、ただならぬ気配を感じたのだろう。普段ならこのような場面、男と女の関係を冷やかすところだが、それをしない。口を固く引き締めて、直立不動を守っていた。
椅子を出してくれたので、腰をおろす。姉姫はノラのとなり、ベッドに腰掛けた。
「すでにわかりきったことなのですが、女の未練とお笑いください」
深刻な表情で、ノラが口をひらく。
「ゴンさまはいま、どのようになっていますでしょうか?」
「決起軍は国王陛下の命令により、解散しました。兵たちは原隊へ復帰している最中。しかし兵に指示を出した隊長クラスの者……ゴンさんたちは、国王陛下の指示なく兵を動かした統帥権乱用、大臣たちを襲撃した殺人罪、場合によっては反逆罪を適用されて、罪を問われるところです」
姉姫の唇が、震えた。ゴンにかけられた罪がどれほど重いか、わかっているようだ。
「ヒノモトさま、その罪というのは……」
やはり、ノラにはいまひとつピンと来ないらしい。
「天下の大罪です」
ノボルは、結論だけを説明する。
つまり、家を引き払ってでもノラたちを、逃がさなければならないほどの罪。何もしていないただの妻、しかし石を投げられ、やれ極悪人の女と罵りを受けて、一生を咎人として歩まなければならないほどの罪。
そして残る者に類が及ぶからこそ、ノボルに二人の妻を託したゴンの心遣い。
「それで、ゴンさまは?」
「おそらく、打ち首」
名誉も何もすべて剥ぎ取られて、犬コロのように殺されるだろう。言外にそれをにおわせて、現状を伝えた。
「どうにかなりませんか、ヒノモトさま」
みっともなく、すがり付いてくる。
「私はどうなってもかまいません。ですからゴンさまは……ゴンさまの命だけは……」
気持ちはわかる。しかし、ノボルにはどうすることもできない。
「どうなってもかまいませんなどと、自棄をおこしてはなりません。昼間のように悪い輩が、つけこんで来ますよ」
「お願いです、ヒノモトさま。この通りですから……」
「俺にできることと言えば……」
二人をブラフにかくまうこと。住まいを見つけてやること。これから先、食うに困らぬよう、仕事を斡旋してやることくらいだ。
「ヒノモトさま、そこまでして頂いては……」
取り乱すノラにかわり、姉姫が頭をさげた。
「いえ、力が及ばず、申し訳ありません」
ノラも身体を起こした。
「そうでした、このように取り乱しては、ゴンさまの恥になってしまいますね」
まだ鼻をぐずぐずさせている。
だがノボルは、二人に幽鬼のような気配を感じた。
「お二人とも、早まったマネはなりませんぞ。このヒノモト・ノボル、リコとアンジェリカにお二人を引き合わすまで、不寝番を買ってでますゆえ」
まるで死を覚悟したように見えたので、釘を刺しておく。




