表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/111

その3


 

往路で求められるのは、速度である。とにかく一刻も早く、カリブーの町に着きたい。そう考えての馬車である。たぬき商会から借り受けた三台に分乗し、ノボルたちは先を急いだ。

 昼飯は隊で用意してもらった弁当を、見張りを交代しながら摂る。馬車が停まるのは、これまたたぬき商会で借りた御者が飯を食うか、用を足すときだけ。

 馬がバテないように、時折馬車を換えながらの行軍だ。

 おかげでその日の夕刻までには、中間地点のムースに着く。明日の昼過ぎには、カリブーに到着できるはずだ。ノボルたちは宿をとった。

 文から知ったゴンの住所を、たぬき商会の営業所で確認する。

 しかし、従業員は不安そうな顔を浮かべた。

「ヒノモトさま。タイさまのお宅はすでに、中央の兵士たちが取り囲んでおります」

「数は?」

「一五〇ほど」

 急がなければならない。翌朝は未明から出発する。もしかしたらゴンの嫁二人は、すでに連れ去られたかもしれない。その際の対策も考慮しながら、布団にもぐり込む。

 未明、出発。ペースを上げる。おかげで、まだ朝と呼べる時間にゴン宅に着くことができた。

 しかし、たぬき商会で仕入れた情報通り、兵隊が家を囲んでいた。

 ノボルは正面から乗り込むことにした。

 当然、兵士たちに「誰か」と呼び止められる。

「誰かとはなんだ。俺は雑兵第二中隊長、ヒノモト・ノボルだ。貴様らこそ、この家に何用か」

 馬車から降りて、大上段の態度をとってやる。何も聞かされていないようで、兵士たちはたじろぐ。

「いつ到着したのだ?」

「昨日の昼に」

「お前たちの責任者は中だな? 失礼する」

 名乗ってあるので、問題は無い。要件も伝えず、ずかずかと上がった。

「御免! ヒノモト・ノボルに御座る! ノラさんか姫姉さんは御在宅か!」

 呼び掛けると、若い将校が出てきた。小隊長のようだ。何者かと、将校が聞いてくる。ここでも名乗って、今度はノボルの番だ。何をしているかと訊く。

「謀叛の疑いがあるので、尋問しています」

「女がか?」

「それは知りません」

 どうやら小隊長も、中央での事件は知らないようだ。

「大体にしてあんたらは、一般の兵であろう。尋問の権限は無いはずだ」

「……………………」

「本当に尋問なのか?」

 ノボルの問いに、小隊長は苦い顔を浮かべた。

「……上がらせてもらうぞ」

 小隊長は、引き留めて来なかった。

 居間をのぞく。ノラと姉姫がいた。酌をしている。嫌そうな顔こそ見せていないが、雰囲気は出ている。

 主賓である軍人は、招かざる客だったようだ。

 つまりは、そういうことだ……。

「雑兵第二中隊ヒノモト・ノボルだ。民家を占拠し、昼間から酒とは、軍人にあるべき振る舞いか」

 怒気を含んで言った。中隊長らしき軍人は、酔眼をむけてきた。初老である。でっぷりと腹が出て、訓練不足が明らかである。

「……なに? 雑兵隊だ? 寄せ集めの大将ごとき、出る幕ではない! 帰れ帰れ!」

 だが、威張ることだけは一人前だ。そして、雑兵隊のことも知らないようだ。さらに言うならば、ヒノモト・ノボルのことも知らない。

「近隣住民から何ごとかと、苦情が入っている。早々に兵をまとめて、下がっていただきたい」

「なにを言うか! この二人は、謀叛の容疑で取り調べ中だ! お前こそさがれ!」

「女二人、何の謀叛ですかな?」

「こいつらの亭主が、反乱を起こしたのだ!」

 一般の将兵に、決起の話が伝わっているのか? 判断に苦しむ。

「誰からの指示命令ですかな?」

「答えられん!」

「では、指示書の番号照会を求めます」

 平時における軍事行動では、正規の指示命令は、書面で通達する。この書類が根拠となって、兵隊を動かすことができるのだ。その書類の番号を教えろと、ノボルは言った。

 当然将校は黙ったままだ。番号など、出てくるはずはない。「ゴンが不在と聞いて、決起にかこつけ、美人妻二人を手込めにしようとしただけ」だからだ。

「……勝手に兵を動かすなど、国王陛下の統帥権を乱す大罪ですぞ」

「えぇいっ、やかましいっ!」

 投げつけたいのだろう、立ち上がってグラスを構えた。だが、ノボルの方が早い。割れやすいグラスを割ることなく、抜きつけで斬った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ