その2
決起軍のさらなる情報が入った。事態が混乱に陥ったらしい。
王子たちの意見は、国王陛下の耳に届いた。だから決起軍は、すみやかに原隊へ復帰せよと、指示が下ったそうだ。
しかしそれならば王子たちを帰すべきだと、決起軍は踏ん張っている。
つまり現地でも、王子たちの生存を疑っているのだ。
しかし国王陛下の命令、いわゆる勅命という形で、隊長クラスを残し原隊復帰せよと指示が下った。これに反する者は、賊軍として討伐される。
いよいよそんな段階まで来てしまった。ノボルも胃が縮むような思いである。
「幸いなのは、兵士たちをすべて討つわけではない、というところですね」
ヤハラは言うがそれでも、隊長クラスの首を差し出せ、と言われているのだ。あまり幸いでもない。
「しかしヤハラどの、何故ボルザックは、兵を生かして帰すつもりになったのかな?」
「中将派はまだ城の中に残っています。彼らが働いてくれたか、そうでなければ……」
「そうでなければ?」
「これはあまり幸いとは言えないのですが。反対派を生き延びさせて、もう一度クーデターを起こさせる。つまり、あぶり出しをねらっているのかもしれません」
「俺としては、すぐにでも起ちたいのだが、それではまんまとボルザックの策にはまる、ということか」
「左様、殿もだいぶん巡りがよろしくなって来たようで」
「そのように油断していると、そのうちピョンと跳ね上がるようなことを、やらかしてやるぞ」
「このヤハラ、殿にはだいぶん慣れましたので」
そう簡単には跳ね上がらないと、ヤハラは笑った。
話は戻る。
帰ってきた兵士たちのことだ。放っておいては、また新たな騒ぎを起こして、今度こそ討たれてしまう。
そうならないためにも、どうするべきか?
「わたくしに妙案がございますわ」
軍の施設だというのに、イズモ・キョウカが入ってきた。この日、二回目の登場である。しかしノボルたちは、勝手に入室してきたことを咎めたりしない。
「おぉ、キョウカどの」
「して、その妙案とは?」
むしろその妙案に、食いついている。
イズモ・キョウカはまず辺りを見回し、椅子すらない執務室に、目を丸くしたようだ。思わず、「あの、椅子は」と動揺を口にする。
どうぞこちらへと、ヤハラが案内しても、戸惑いを隠せないでいる。
ノボルは先に立って、畳の上に座った。ヤハラも続く。見よう見まねで、キョウカも従う。
「してキョウカどの、その妙案とはいかなるものでしょう?」
「はっ! ……そうでしたわね。妙案の話でしたわ」
我に返ったキョウカが語るのは、決起軍兵士たちの雇用について、である。たぬき商会は物資の購入、運搬、販売を手掛けている。このうち運搬においては、ノボルの隊に依頼している通り、護衛を必要としている。
決起軍兵士を、この部門で雇い入れたい、というのだ。
「そんなことをすればたぬき商会が、ボルザックに目をつけられたりしませんか?」
「誰がまともに雇うと申しまして? 基本的には運搬人、荷捌きの労働者。ごくごく賃金の安い、力仕事についていただこうと思いますの」
なるほど、こんな言い方をしては申し訳ないが、その日かぎりの労働者というのなら、素性の知れない者も多い。身を隠すには持ってこいだ。
「そうすると、ヒノモトさまの必要とする人員が確保でき、生活も……豊かではありませんが、飢えることはありませんわ」
「しかしキョウカどの、一度に二〇〇〇もの人数を、雇いきれるのですかな?」
「たぬき商会は、このブラフの町を大きくする。そのようなことを申し上げましたが、覚えてらっしゃいますか?」
町が大きくなれば、雇用が増える。人手が欲しくなると、キョウカは言う。
「それにたぬき商会は現在、国内あちこちに営業所を立ち上げてますのよ。いま現在、人手はいくらでも欲しいところですわ」
浪人結社たぬき商会。
そんな呼び名が、頭をよぎった。




