雪の暗闘に御座候3
イズモ・キョウカは、本題を切り出してきた。
「キョウカどのは、事態をどこまで把握しておいでで?」
キョウカが掴んでいたのは、決起軍の規模と、未明に事件が起きたこと。そして現在の王都に、戒厳令が敷かれていることくらい。
そこでノボルは、被害者の数と、王城を守る形で決起軍が配置されていることを教えた。
誰と誰が遭難した、とまでは言わない。ノボルたちですら、把握できていないのだから。
しかしイズモ・キョウカは、「ねらわれるとすれば、あの方とあの方、それにあの方でしょうか」と、具体的に名前や役職をあげていった。そしてその推察は、ヤハラの見立てと一致している。
「ただし、遭難者の安否確認はできておりませぬ」
そして敵の首魁、ボルザックの生死も、確認できていない。そのことを告げると、「そこが肝ですのにねぇ」と、たぬきの娘はため息をもらす。
「ですが、ヒノモトさま。ボルザックの生死が、確認できていないとなりますと、今回の決起は……」
「失敗に終わる。……少なくとも、うちの軍師はそのように読んでいる」
「……………………」
目を伏せて、キョウカは思案に入った。口元に小さな拳を寄せた、娘らしい仕草だ。
「決起軍が討伐された後のことを、お考えですかな?」
「えぇ、ボルザックがどのように出てくるか、考えておりましたわ」
「これはうちの軍師の見立てなのですが……」
おそらく新領地に、重い税を課してくると、ノボルは教えた。その根拠は、ボルザックという男は元々植民地政策を打ち出して、会議で却下されているからだ。
「あら、お城の事情に明るいのですわね?」
「うちの軍師は以前、ボルザックの下で働いておりました故」
その目的とするところは、国益に非ず。私腹を肥やすばかりなり。という点もつけ加えた。
「あらあら、でしたら討伐後は、わたくしにも声がかかるかもしれませんわね」
「それは困りますな」
「わたくしも願い下げですわ」
甘い樹液を吸い尽くせば、樹は立ち枯れてしまう。キョウカはそのように例えた。旧ドルボンド、すなわち新領地を奴隷化植民地化して搾取するなどという方策は、今日明日の短期的なカンフル剤になろうが、恒久的という視点から見れば、必ずしも効果的なものではない。もっと簡単に言うならば、果樹は実をもぐだけでなく手入れもしろ、ということだ。そうすれば、より良い実をたくさん実らせると、イズモ・キョウカは語る。
そしてもう一言。
これはノボルもピンと来なかった言葉だが。
植民地政策などというものは、所詮ボルザックによる砂上の楼閣。たぬき商会ならば地域の手をとり、ともに歩んで、深く深く根をおろし枝を広げてやる。抜くことができぬ、倒すこともままならぬ。企業も地域も、そのような大樹に育てることが、得策である、と。
「ほんの一地域、片田舎の小さな町でも、苦境になれば国は手入れせざるを得ませんの。そしてそのような地域に根を張れば、たぬき商会もまた倒れることはございませんわ」
「そういうものですか」
ほとんど独立国のヒノモトで生まれ育ったノボルは、国主導で手入れしてもらうという発想は無い。
だが、イズモ・キョウカはホホホと笑う。
「国がロハで、テコ入れして下さいますのよ。毎日、税に頭を悩ませているのですから、これくらいはしていただかないと」
ビジネスの話は、よくわからない。だが、イズモ・キョウカの微笑みは、真っ黒である。
そのことだけは、ノボルにも理解できた。




