雪の暗闘に御座候2
始まった。血と雪の維新断行が。
決起軍の襲撃と入城は、その日のうちにノボルの耳に入った。カイたちからの情報としてだ。つまり、王国や軍からの通達ではない。
これは、わざと知らせて来ないのだと、ヤハラは言った。
「もしかしたら、箝口令が敷かれているかもしれません」
箝口令は軍が発するもの。そして決起軍が主導権を握っているのなら、それ相応の発表があるはずだ。
「……あまり良い兆しではありませんね、殿」
ノボルは窓の外を眺めていた。
夕暮れ時の、冬枯れの畑。寒々とした、遠い山脈。昨夜の寒波は峰の頂きに雪の冠をかぶせたが、里に影響するほどではなかった。
「ヤハラどの」
「なんでしょう?」
「国家の一大事に事態を重く見るより、友の身を案じてしまう、隊をあずかる者としては失格だな」
背後で、ヤハラのペンの音が止まった。
が、思い直したように、また紙の上を走り出す。
「……どうした、ヤハラどの。いつものように、叱らんのか?」
「……説教は、後で。今は忙しいですから」
熱心に書類をめくり、ペンを走らせる。
ノボルの元に届いた情報は、襲撃された者、一三人。安否確認はいまだできておらず。その中に、ボルザックが入っているかは、不明。現在決起軍は王城を守るように取り囲み、職員の登城を拒んでいる。そこまでしか、情報は入っていない。
それに関してヤハラは、現場が混乱しているだろうに、よくそこまで調べたものだと感心していた。
まあ、ノボルたちはクーデターのことを、事前に知っていた。だから準備ができていたのだ。事前情報が入っていなかったら、中央で騒動が起きていることさえ知らなかったかもしれない。
「ヒノモトさま」
女の声がした。たぬき商会の忍びの声だ。
「お嬢さまが、面会を請うてます」
「会わない方が良いのではないのか?」
「どうせ中央の密偵はいません。問題無しと仰せです」
「では、うかがうとするか」
イズモ・キョウカは、向かいの本店にいる、という。ノボルは腰を上げた。
通りを横切り、たぬき商会へ。「御免」と扉を開くと、受付が対応してくれた。
いかにイズモ・タロウの孫娘とはいえ、商会を立ち上げた以上は関係が無い。とばかりに質素な造りだった。無駄な虚飾が無い。事務机が効率よく並び、職員がペンを走らせている。
奥に案内されて、会長室と書かれた部屋の前で、少し待たされる。
「お入り下さいませ」
可愛らしい声がした。中に入らせてもらう。
豪華な調度品は無いが、それでも応接室の体裁を整えた部屋である。火鉢が興っているのだろう。とても暖かい。
案内にソファを進められ、腰をおろす。テーブルをはさんで、向かいにはベストとジャケットがダブルの、イズモ・キョウカが腰掛ける。
「先日は祝いの品を頂き、ありがとうございました」
アンジェリカの懐妊で、ノボルはたぬき商会から、皿のセットを贈られていた。
「その後、アンジェリカさまの御様子は?」
「よく食べよく働き、よく眠って御座る」
「身重ですのに、働いてらっしゃるの?」
「怠けていてはかえって身体に毒と、リコが申しましてな。なかなか頼りになる嫁です」
歓談すること、しばし。
「それにしても、始まってしまいましたわね」
イズモ・キョウカは、本題を切り出してきた。




