決起に御座候
そして寒さが厳しくなり、大地も凍る季節。ヤハラが執務室に飛び込んできた。
「殿、やってしまいました」
何事かと、聞くまでもない。新領地諸公が、コズミク城の王子たちのもとに、集結しているというのだ。その数二五〇〇。七五〇〇いる新領地軍の、実に三割強。その中には、ゴンの名前もあるという。
たぬき商会の忍びが、外で知らせてくれたそうだ。
……ゴンさんも、立ったか。
ノボルとしては、複雑な思いである。自重自粛という方針を固めるまで、ノボルにも葛藤はあった。
本音を許されるならば、ドラゴ中将の更迭には怒りを感じた。その殺害には、自分がボルザックを斬ってやる、と思った。そして檄文にも、忸怩たる思いがあった。なぜ俺は、檄文をもらえなかったのか、と。
リコとアンジェリカには悪いが、あの時ばかりは嫁をめとったことを後悔しそうになった。
そして結果としてノボルが立たなかった理由は、ヤハラがいるからだ。ヤハラが行くなと言ったからだ。
剣の腕しか取り柄が無い、人を斬るしか能がない、そんな俺についてきてくれる、ヤハラがいたからだ。この男は、常に俺のことを思って行動してくれる。俺によかれということを考えてくれる。多少口うるさいところもあるが、それはすべて俺のためになっている。
そんな男が、行くなと言ったのだ。ノボルには、決起に走ることはできない。
……………………。
決起軍の出発は、明日未明。馬をとばしても、間に合わない。
「ヤハラどの、本国では決起のことをつかんでいるのか?」
「いえ、ドクセンブルグの動きに、変化は無いそうです」
「そうか……」
ならば、奇襲という形で、勝利することもできるかもしれない。
もしも俺が指揮を執るならば……。
まず陛下の側にはべる悪漢どもを、首魁ボルザックをふくめてすべて襲撃。同時に軍務局を制圧、治安回復のために出撃する軍を足止めする。ボルザック派大臣を襲撃した部隊は、そのまま王城守備にまわり、人の出入りを許さない。
その上で、王子たちの入城だろう。決起軍の意志が通るまで、どうせ治安を回復させられる人間はいない。そして決起軍には、その意志を達成するだけの人数がいる。
だが天下を騒乱に巻き込んだ罪は、いかに維新の決起といえども、免れることはできない。総員……いや、責任ある隊長クラスの者たちは、首を落とされかねない。
なんの、それをさせないための、王子入城ではないか。
「殿、顔が鬼のようになっておりますぞ」
「……あ、うん。……そんなに怖い顔をしておったか?」
「いまにも人を、まとめて一〇人ほど斬りそうな、そんな顔でした」
「それは、いかんな。それよりヤハラどの、ドクセンブルグが動いていない……つまり、決起軍の行動を掴んでいないとなると、奇襲が成功するのではないか?」
「本当に油断をしているならば、という前提ですが、襲撃くらいは成功するでしょう。陛下のもとへ王子たちを届けることも。ですがボルザックなら、生きている限りそこからでも逆転を狙ってくるでしょう」
できるのか、逆転が? ノボルは目を丸くした。
「王子たちは、決起の趣旨を陛下に説明するようですが、そこは奴の舞台です。無垢な王子たちが、生きて外にでてくることは、おそらくありますまい」
「いずれは闘うのだぞ、俺たちも、あの男と」
「奴を葬るためには、奴をを欺く必要があります。殿は新婚ボケの馬鹿領主を演じていてくだされ」




