やはり自粛に御座候
「……………………」
ノボルは、黙り込んでいた。
「……………………」
ヤハラも言葉を発しない。
年が明け、通常業務に戻った雑兵隊。もう、休暇気分も抜けていた。
そんな折り、遺憾な話が入ってきたのだ。
ドラゴ中将、更迭。
もちろん、中将を本当に更迭することなどできない。しかし、国王陛下の実行部隊としての権限を、大きく制限されたのだ。
原因は、ドクセンブルグ守護職の治安維持部隊にある。
確実にその効果を上げていた治安維持部隊。その目をかいくぐって、またもや凶刃が振るわれたのである。
中将更迭は、その責任を負ったものだった。
「……ヤハラどの、殺害されたのは……誰だったかな?」
「……ゴルボスという、下級官吏。……どうでもいいような木っ端役人ですが、ボルザック派です」
「下手人は?」
「いまだ、捕まっておりません」
「捕まる訳がない」
ノボルは腕を組み、目を閉じた。
「殿、証拠がありません」
「証拠も、出てはこないさ」
「……………………」
優秀な治安維持部隊の目を、かいくぐって行われた犯行。それも被害者は、下っ端役人。
犯人はボルザック派、いわば自作自演に決まっている。だから、下手人も証拠も出てこない。ノボルはそう踏んでいた。
この失態に対し、ボルザック派でありドラゴ中将の上司である、軍の大将から厳しい叱責があったという。それが事実上の更迭へと繋がっている。
中将職は、ドラゴ中将だけではない。三人いる。しかし現場指揮官としてのドラゴ中将は、技量が他の二人よりも抜きん出ていた。それが更迭同然となると、軍の士気のみならず、実力にも大きな影響を与える。
「……さて、どうしたものか」
「あらためて申しますが、殿。自重です」
「……うむ」
はっきり言ってノボルには、それしか無い。
己の身ひとつというのならば、とうに飛び出していただろう。しかし今は、妻があり子もできる。その妻がまた、元王女のアンジェリカなのだ。身軽に動けるものではない。
「自重とは申しましたが、殿。何もしないという訳では、ありません」
「?」
片目を開いて、ヤハラを見た。いつもと変わらぬ、書類に取り組むヤハラである。
「いま事を構えても、良い目は出ないからです。ただいたずらに、逆賊の汚名を着るだけです」
「うむ」
うかつな行動には出ない。そのように腹はくくっている。しかし中将の気持ちというのを思えば、ノボルの心は揺れる。
ヤハラの要請で、新領地の各領主たちに、抑えるよう文は送った。ノボルにできることは、もう済んだのである。
「殿、もうひと働き、お願いします」
「ん?」
「雑兵隊に稽古をつけてやってください。このような時こそ、剣。剣でしょう」
「……そうだな、ひとつ揉んでやるか!」
気落ちしているのは、ヤハラも同じだろうに。その心遣いが、ノボルにはありがたい。




