年末スペシャル:前編
年末に少しばかり戯れを。本編にはほとんど関係しませんので、読み飛ばしても大丈夫です。
ワイマール王国の首都ドクセンブルグ。この東地区には飯屋兼宿屋があり、ヒノモト・ノボルはそこに下宿をしていた。
その飯屋は赤髪の店主が切り盛りし、娘がこれをよく助けていた。
赤髪の娘リコ。名字は無い。それがビラモア砦の一番手柄と評されるヒノモト・ノボルの、婚約者であるともっぱらの噂であった。
まだ夏の頃。蝉時雨も盛りの時節。いや、日が落ちはじめて少しばかり、暑さも過ぎたか。
リコは自室で腕を組んでいた。
黄色のノースリーブ、青いショートパンツ、白いソックスのリコはベッドの上で、最近覚えた正座をしている。
目の前には、ノボルから贈られた聖衣、せぇらぁ服。もちろんノボルの前で着てやりたかったが……。
「ほんと、お兄ちゃんって間が悪いというか、なんというか……」
その聖衣のとなりには、藍色の生地にツツジを染めた浴衣が並んでいる。今日、酒場のノラと二人、購入してきたばかりのものだ。ノラは髪が青いので、白地に朝顔を染めたものを買っている。
「……もしかしたら、ノラちゃんのところにも、届いてるかもね。……せぇらぁ服」
男たちが服を選ぶと、ロクなことが無い。ワイマールの諺だ。リコも苦笑いするしかない。
しかし、衣類を並べてため息をついていても、仕方がない。ディナーのお客さんがひけたら、ノラちゃんのところに行ってみよう。リコはそう決めた。
そして夜。首都の夜はにぎやかだ。ノボルからもらった風呂敷に、聖衣と浴衣を包み、ノラの元へ。
酒場はこれからが稼ぎ時。しかしノラは父に店をまかせ、リコと二階へ上がる。
「実は私のとこにも、ゴンさまから……」
と言って、赤襟赤スカートの聖衣を見せてくれた。……やっぱり。リコの読みは的中した。
「せっかくだから、試着してみようか?」
「……そうですね。どのような着心地か、試してみましょう」
二人で、せぇらぁ服に袖を通してみた。
が。
姿見の前に立った二人は、何かが違う。もちろんリコはチンチクリン、ノラは年頃の娘。体格(主にバストと腰つき)が違うのは、理解できる。カラーも違うし、ノラは黒のハイソックスを履いていた。付属品だったらしい。
しかし、それを差し引いても余りある違和感が、二人の間にはあった。
「……リコさん?」
「……なに、ノラちゃん?」
「なぜリコさんのスカートは、そんなに長いのでしょうか?」
「同じ疑問を裏返しにして返すね。ノラちゃんのスカート、なんでそんなに短いの? 上着も……おへそ出てるし」
よく見ると、リコの上着にはインナーというか、へそ見え防止の機能と、袖から肌が覗き見できないようになっていたりと、様々な点が違う。
「それにアタシのは、胸元に当て生地っていうか、おっぱいが見えないようになってるよ?」
「あら、本当……」
ノラが覗き込んできた。つまりリコの目の前に、隠されていない二つのふくらみが、ズゴゴぷりん、と迫っていた。
アタシもいつか、こんな胸になるのかな?
指先で、ちょっと突っついてみる。「ひゃあ」とか間抜けな悲鳴をあげて、ノラは胸元を隠した。
「……リコさんの、エッチ」
「あ、いや、そういうつもりじゃなくって」
「……ダメですよ? 人のプライベートな場所を、断りなしに触っては」
「それじゃあ……ごめんくださ〜い」
「そういう意味じゃありません!」
冗談は、さておき。
「検証の結果、ノラちゃんの聖衣は極めてセクスアリスな逸品。つまりとってもエッチなものだと判明。これはゴンちゃんの趣味によるものだと、推察されます」
「だとすると、リコさんのせぇらぁ服が正統派、ということになりますね」
「アタシ、色気が無いのかなぁ」
「リコさんはこれからですよ、これから」
ノラがむけてくれる微笑みは、いつも暖かく優しい。こんな大人の女になりたいなぁ、と短く赤い髪をつまんでみる。
「ではリコさん、今度は浴衣を試してみませんか?」
「うん」
ゴソゴソゴソとお着替え中。
マニュアルに従い着付けを完了。足元がソックスに靴なのは御愛嬌。それでもそれなりに、見られるものではある。
とは言うものの。
「ねぇ、ノラちゃん?」
「なんでしょうか、リコさん」
「……それは、わざとなのかな?」
白地の浴衣は、豊満な肉体を包んでいる。つまり、生地と肉体は密着しているのだ。
「本日のノラちゃん、下着は赤と白のしましま」
「りりりリコさん、何故それを!」
「だって透けて見えるもん」
「いやぁっ! 見ないでくださいませ! 見ないでくださいませ、後生ですから!」
「……うん、わかるよノラちゃん。でもそれはあざといの? それとも天然? どっちだとしても同性として、無性にブッ飛ばしたくなるアタシは、悪くないよね?」
そんな訳で、ノラさん下着をキャスト・オフ。
「……なんだか、スースーして……とても、恥ずかしい……」
「あーー……ノラちゃん、アタシが男でなくて良かったね。そのモジモジした姿を見てアタシが男だったら、きっと赤ちゃん五人は確定だわ……」
「そんなこと言って……リコさんだってちょっぴり大人を演出した、おとなしい色合いの浴衣で、同性さえも誘い込むような色気を漂わせたりしてハァハァ……」
「どうどう、落ち着いて、ノラちゃん。ノット百合、ノット女の子同士。嫌いな読者さんもいるから、ね? ね?」
「…………チェッ」
「チェッとか言ったか、コラ」
それはそれとして。
ノラのベッドの上。リコとノラは向き合って正座している。
「さて、ノラちゃん」
「なんでしょう、リコさん?」
「ただ浴衣を着て、じゃ〜んと披露しても、男の人って「よく似合うよ」で、終わりだと思うの」
「……そうでしょうか?」
「ゴンちゃんなら、ノラちゃん相手に鼻の下を伸ばしてくれるだろうけど、お兄ちゃんはダメ。続きが無いの。……っていうか、ノラちゃんたちは続きがあるの?」
「えっ? えっ? ……そ、そんなぁ……」
「チッ、このお色気おっぱいちゃんめ……。と、とりあえず、お兄ちゃんはそれでおしまい、ってパターンが多いわ。せめてアタシとしては……」
リコ妄想。
そっと障子を開けてみると、中天の月は絹を透かして見るような、おぼろ月であった。
「あぁ、今夜は蒸すと思ったが、紗月なのか」
「……サツキ、ですか?」
「俺の故郷では、そのように言う。かなり格好をつけた、言い方だがな」
月の光に照らされて、ノボルは盃にもうひと差し。
「ノボルさま、お酒ならわたくしが……」
「リコ、お前は動かなくとも良い」
「え?」
盃はリコに差し出され、チビリと舐める。
「うむ……美女と酒、それにおぼろ月か……どれも美しい」
「いやですよ、ノボルさま。妻になる者を今さら口説いて、どうなさるおつもりですか?」
「死ぬれども、なお恋女房、惚れ候とな……近う寄れ」
「もう、そこに居ろとか、こちらへ来いとか。どちらなのですか?」
「……もちろん」
手を引き寄せられ、たくましい胸の中へ、よろめいてゆく。
「ノボルさま……」
「こちらの方が、やはりより良い」
「嗚呼、月が……お月さまが見ております……」
「よいではないか、見せつけてやろう」
「嗚呼、そのような……御無体な……」
妄想終了。
「なんてねなんてねなんてね! どうかしらこーゆーの? どうかしら、ってばもう!」
「あの、リコさん。ぺちぺち叩きでも、さすがに布団が傷みますから」
「たまんないわ、たまらないでしょ、あぁんお兄ちゃん!」
「コロコロ転がるのは、リコさんなら大丈夫ですね、許可します」
「でもノラちゃん、ノラちゃんは、どんな展開を期待してるの?」
「私ですか? リコさんと少し似ていますけど……」
いざ、ノラの妄想へ。
夏の盛りも過ぎて、朝晩はすごしやすくなる季節。月を眺める酒も、熱燗が恋しくなる。
そんな夜には……。
「ノラよ、浴衣がよく似合うちょるぞ」
「あら、ほめてくださるのですね。嬉しいですわ」
徳利をつまみ上げて、「もう一杯、いかがですか?」と差し出す。
月の夜だというのに、ゴンはノラを見てばかり。
「あの、ゴンさま?」
「どうかしたかい。顔が赤いぞね」
「あまり見られては、恥ずかしいのですが……」
「いや、先ほど摘んできたんじゃが……」
ススキをひと茎、髪に差してくれる。
「……ふむ、秋のノラが出来上がったわい」
「あら、なんだか可愛らしいですねぇ」
「ますます酒が進むわい」
などといいながら、ノラの手を引き寄せる。
「主さま、これでは燗がつけられません」
「……よいではないか」
「あぁ……そのような真似は……」
「よいではないか、よいではないか」
妄想終了。
「とまあ、なだれ込むとか、なし崩しにという表現が似合うのは、リコさんと同じですね」
リコは疑問を感じていた。自分の場合は、ノボルが手を出してくれないのでまったくの妄想だが、ノラの場合はどこからが妄想でどこからが現実なのか、区別がつかない。
その疑問を、ノラにぶつけてみた。
「リコさん、大人なお話は、もう少しリコさんが大きくなってからにしましょうね」
後半に続く




