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雑兵隊の出撃に御座候


 さまざまな思惑が、それぞれの人にあるかもしれない。しかし戦雲はさらに色濃く、ノボルの頭上を覆いかくす。

 ヤハラとの会食から三日、いきなり出発命令が出たのである。兵士たちを宿舎の前にならべ、ノボルは訓示をたれた。

 まず目指すは、先の戦場ビラモア砦。ここで改めて、作戦内容を確認し、過不足の装備を整理。ドルボンド国へ侵略を開始するか否かを決定する。

 戦さが間近なことは、ヤハラとの会食の夜、リコに告げてある。最近ではすっかりしおらしくなったリコだが、その夜も着替えや身の回りの品を用意してくれて、戦さ人の妻へと急成長している。さすがに、硬く唇を噛み締めてはいたが。それがノボルの身を案じてなのか、別れの寂しさからくるものなのか、推し測ることはできなかった。


 あさ、八刻。ノボルたち雑兵第二中隊は門を出た。東大通りから王城前、西訓練所前をぬける。ゴンが指揮する、雑兵第三中隊が見送ってくれた。どうやら合同の作戦ではないらしい。

 ノボルの隊が急先鋒となる、ということだ。いきなり出だしでつまずく訳にはいかない。身の引き締まる思いだ。

 一度小休止をはさみ、昼には宿場町に入る。そこで手配の弁当が支給された。一日の行程は、午後にもう一度小休止を入れて、夕方には宿場町に入る、というものだ。

 それを繰り返し、砦に入る。今回は戦場にならない予定なので、三の壁の内側。かつて、酒場や娼館が入っていた建物が、仮の宿舎になる。


 ビラモア砦で、ドルボンドの最新情報が手に入った。やはり東側領土から、兵を引き揚げているらしい。第二中隊は、これから集まる本隊に押し出される形で、ドルボンド国に突入。先行して領地を確保、状況の確認をする、というのが指示内容だ。そして本隊が到着すれば、また押し出されるように先行。領地の確保と情報収集につとめ、最終的にはコズミク城の背後、西側地下道出口を確保しなければならない。

 とにかく移動、そして展開。さらに確保。後発が到着すればまた移動。ということで、装備を改めた。弓矢、盾の装備。槍と盾の装備。剣と盾の装備に分ける。可能な限り、それぞれの得意な得物となるよう、心がけた。その結果ノボルとカイ、ライゾウは太刀。ロウ入道とテライモは薙刀と槍になる。

 などとごちゃごちゃやっていたら、翌日には本隊が到着。これにはゴンや第一中隊の雑兵隊が付随していた。

 本隊は第二王子ジャックが率い、第三王子アーネスト第四王子ジョーが従っている。

 つまり、戦勝の暁にはワイマールが本気でドルボンドを乗っ取るつもりである、ということだ。


「これより雑兵第二中隊、ドルボンド攻略のため出撃する!」


 払暁の出撃。というよりも、まだ夜中だ。東の空も闇が払われず、曙にははるかに遠い。なにしろすでに秋は深い。

 だが雑兵隊の足取りは軽い。装備を軽くしただけはある。日が昇ると駆け足を命じた。山道であろうと構わない。精強第二中隊は簡単に山道を制覇した。田園風景が眼下に広がったところで、ノボルは朝食を命じる。乾パンだけの寂しい朝食だ。


 朝食を終えて軽く体操、身体を暖める。「準備は良いな?」と問えば、無言で第二中隊はうなずいた。

 突撃命令を下す。声をあげての突撃。街道を駆けおりて辻を制圧。さらに進撃して次の次を制圧。わらわらと散開して、最初の村を制圧する。

 ノボルはこの村の代表者と会った。代表者の話では、やはり兵隊は撤退したようだった。

 この村だけではワイマール軍、七五〇〇名を収用しきれない。ヤハラから預かった地図によると、次の町と両隣はかなりの広さだ。第二、第三、第四小隊をそれぞれの町に向かわせた。こちらにもド軍はいない。そこで第一小隊のライゾウを、伝令として使う。

 午後、本隊が到着。雑兵第二中隊とともに正面の町に移動する。本隊にはヤハラも混ざっていた。鎧兜に身を包み、軽量軽快とはほど遠い姿だ。

 正面の町へ北ルートの部下を呼び寄せた。合流すると、南ルートで待っている隊に合流する。

 これ以降、北ルートは第三中隊のゴン、真ん中のルートは第一中隊が先見隊として活動となった。


 そしてここまで、会話らしい会話が存在していない。故に省略。


 払暁、本隊が到着した。コズミクの街を見下ろす、小高い丘の上だ。本隊から合流したヤハラは、「どのように地下道の出口を押さえますか?」と訊いてきた。

 眼下の街には、十重二十重の防御陣。蟻の入り込む隙間も無い。おそらくはド軍のすべてを投入しているのだろう。その中を敵に悟られることなく、街をはさんだ向こう側……西側出口を制圧しなければならない。

 ノボルは、かねてから予定していたルートを指さす。


「ヤハラどの。こちらはいかがかな?」


 そこは大回り、コズミクの街を取り囲む森林地帯。しかも足場の悪そうな山並みであった。


「ここですか……?」

「ド軍の配置は街道中心。我々が正面から挑んでくることを想定したもの。この山には、あまり気を払っていないと見ました」

「兵を配備してなくとも、罠は考えられます。危険だと私は判断しますが」

「だから、やるんでしょう」


 ノボルには確信があった。ヒノモトの忍び、ライゾウならばたやすく罠を外してくれると。


「ヒノモト中隊長、あなた……博打は上手い方ですか?」

「……ちょっとは遊んだことがある」

「ですから、上手い方かどうかと訊いているんです」

「……………………」


 戦さの勝ち負けなら気にするが、博打の勝ち負けなど気にしたことが無い。それがヒノモト州の博打だ。


「俺が博打に弱くとも、カイなどは博打上手だろう。なあ?」

「……あっしは胴元。負けない約束で、壺を振っておりやした」

「ならば入道とテライモ。お前たちは博打が強そうだな?」


 二人の巨漢は、目を逸らしている。


「ライゾウ、お前はどうだ?」

「オイラはイカサマ専門さ。負ける博打をする人間は、オイラ大好きだね」

「という有り様だ、ヤハラどの」


 ヤハラは目頭を押さえていたが、どうにか顔を上げる。


「ヒノモト中隊長、悪いことは言いません。このルート……街のかたわらを払暁に紛れて、そっと抜けていきましょう」


 しかしそのルートは、碁盤の目。見つかれば三方から攻撃を受ける。発見されたら、集まって来そうな兵は三〇〇は下らない。そちらの方がよほど危険だ。


「ライゾウ、罠があったとして、外すことはできるか?」

「大抵のものならね」

「ならば、迷うことは無いな。誰か、ヤハラどのの鎧兜を外してやれ。ロウ、テライモ。お前たちなら甲冑背負っても、大丈夫だな?」

「へい、おまかせ下せぇ」


 ノボルたちは音を立てぬよう、森林地帯の山に挑んだ。先頭はライゾウ。その足取りからするに、ド軍は罠を仕掛ける暇は、なかったようだ。彼を含んだ小隊がそれに続く。

 街をはさんで向こう側、ゴンの中隊が北側地下道の出口を押さえに向かっているはずだ。そして南側出口をふさぐ第一中隊は……。


「……親分。あいつらちゃっかり、俺たちの後を歩いてきますぜ」

「兵を安全に移動させるのだ、けちけちしないことさ」


 これで第一中隊も脱落無しで配置できるなら、ライゾウの努力は報われる。

 そして夜が明けた。ワ軍の進撃、市街戦の始まりだ。まだ各地の小競り合い程度だが、ノボルたちは先を急ぐ。

 途中、第一中隊が分離した。南側出口のある、教会が見えたのだ。ライゾウの図面によると、地下道はすべて教会につながっていた。

 西の教会にたどり着いたのは、それからしばらくして。牧師をはじめとした職員を縛り上げ、鐘をおさえる。

 枯れ井戸を模した脱出口も発見した。井戸の中に梯子をかけてあった。実にわかりやすい。


「よし、ノロシをあげろ」


 西教会から煙が立ち上る。たまに煙を区切って、合図だとわかるようにする。すると南側北側、両方の教会からもノロシが上がった。地下道出口、制圧完了の合図だ。

 これがワ軍に届いたのだろう。


「……城の向こうがにぎやかになったな」

「総攻撃が始まったのでしょう」


 ヤハラは事もなく、城内の地図を広げていた。


「さてみなさん、これからがお仕事です。逃れてきた王族を捕らえたら、他の中隊と共に城内へ突入します。もしも王族が逃げてこない……つまり我が軍が苦戦している、ということになったら、ノロシで合図が来ます。くれぐれも見落としの無いように」


 とりあえず、枯れ井戸を元に戻し兵を伏した。市街地を眺めてみると、これだけの戦闘だというのに、街はまったく燃えていない。戦後を見据えた我が軍の、思い描く通りの試合運びであって欲しい、とノボルは願っていた。


「……親分」


 カイの声だ。枯れ井戸の蓋が動いたのだ。じっと観察する。

 身分の高そうな衣をまとった男たちが、四人出てきた。辺りを見回して、逃走に移る。これ以上、逃亡者はいないようだ。


「かかれ!」


 ノボルの号令で、雑兵隊一二〇名が一斉に襲いかかった。あっという間に取り押さえる。

 どう見ても、王族ではない。ノボルは刀を突き立てた。


「戦場を捨てて逃亡とは、何者か!」


 訊き方が良かったのだろう。男たちは雑兵隊をド軍と勘違いしたようだ。


「無礼者! 余は外務大臣であるぞ!」


 そしてその取り巻き連中といったところだった。ノボルはヤハラに目をやる。


「ヒノモト中隊長、彼らはワイマールとドルボンドの関係をこじらせた張本人。……いわゆる強硬派という奴ですね」


 その言葉で、すべて理解した。状況不利と見るや戦争責任もとらず、さっさと逃げをうつ卑怯者ということだ。


「では外務大臣。王族は見捨てたのかね?」


 髪の色、服装、刀の形状。ノボルの姿は外務大臣の知る、味方のものではなかっただろう。ガタガタと震え、「お前は誰だ」と聞いてきた。


「ワイマール王国雑兵第二中隊長、ヒノモト・ノボル」


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